[659] 家主・7 投稿者:えりまきとかげ 投稿日:2002/07/26(Fri) 04:00
梓の姿を始めて確認できた。ベランダから真正面の部屋で何やら腰掛けて作業をしている様子だ。横顔が見えるものの手元は外壁に遮られ覗う事が出来ない。
「何をしているんだろう?」目線は真っ直ぐに正面を凝視しているようだ。
何かを見ている様子だが・・・。テレビ?バイトに行ってテレビにかじり付いているのもおかしな物だな・・・。それとも、パソコンか?家政婦がパソコンで作業をするっていうのも余り聞いた事が無い、ただ油を売っているだけかもしれないな。
それにしても梓の表情は真剣そのもので画面に釘付けになっている様子が伝わってくる。
今、梓が居る部屋は朝になるとよくひひ親父が雨戸を開ける部屋で寝室ではないかと思う部屋である。あの窓からベランダで仕事をする梓を鼻の下を伸ばして観察するのも時々見かける。
そのひひ親父がクロを連れて現れた。家の壁際に沿って注意深く梓の居る窓際へやって来ると、そっと中を覗きこんだ。
梓はそれには気付かず尚も真剣な眼差しを正面に向けている。
ひひ親父は暫く中の様子を覗っていたが突然、窓から身を乗り出し部屋の中の梓に声を掛けたようだ。梓は何か非常に慌てた様子であたふたと手元を動かしているようだが、ひひ親父は手を伸ばして手元を制したようだった。
梓は罰の悪そうな表情を浮かべながら何やら喋っているらしいひひ親父に時折、首を横に振ったり縦に振ったりしていたが、いきなり立ち上がると窓枠の外へ消えていった。
何だか盗みを働く所を見つかってしまった。そんな雰囲気が伝わってきた。
梓が消えた後、ひひ親父はクロを窓脇の植木の根元に結わえ付けると玄関から家の中へ入って行った。
その後、何と窓枠内に梓とひひ親父が揃って現れると、先ほどと同じ位置で共同で何やら作業を始めた。
一体何を見ているのだろう・・・?好奇心は最大に膨れ上がった。
玄関を出て、二人の手元にあたる場所が見える位置まで移動を試みた。家から二十メートルばかり歩くと窓の見える角度が変わり二人の背後が見える。やはり二人はパソコンの画面と向き合って座っている。だが、ひひ親父の大きな頭と肩に邪魔され表示されている画面までは確認出来なかったが、別のショックな光景を確認してしまった。何とひひ親父のごつい左腕が並んで座る梓の大きく張り出した腰に回され抱き抱えているではないか、その手に抗おうともせず時折、左右にむずつかしている。私が見ている事など気付かず・・・ひょっとして気付いていたのかもしれない。ただ、私に見せ付けるためにあんなに身を寄せ合っているのだとしたら・・・。憤りと同時に強いジェラシーを感じた。
暫くそうしてパソコンに集中していた二人だったが、おもむろに梓が立ち上がると押入れの戸を開いた。と同時にひひ親父は開いていた窓を閉じカーテンをかけてしまい何も見えなくなってしまった。
窓際に立った時、ひひ親父は駐車場に佇んでいる私の姿を確認したに違いなかったが何の反応も示さずカーテンを引いてしまった。
私の胸は大きく高鳴った。部屋の中で何が行われようとしているのか、何とか確認したかった。梓は何のために押入れを開いた・・・?押入れと言えば普通は布団を仕舞っておく場所・・・。先ほども梓はその中に布団を仕舞っていたではないか、今更押し入れに何の用が有るというのか?私は無が夢中で外塀のすぐ向こうに有る窓に近寄った。その瞬間、窓の脇の植木に繋がれていたクロが激しく大きな声で鳴き声を立てた。
ひひ親父は全てを読み切ってここへクロを繋いだのだろうか?私は絶望感に打ちひしがれながら我が家へ戻った。ただ、向かいの窓から片時も視線を外す事が出来なかった。
それから十分ほどすると出かけていた静が自転車で戻って来て家に入った。
暫くして、窓のカーテンがひひ親父の手で開けられた。ひひ親父はカーテンが閉まる前といでたちが変わっており、レスリングの選手が着るようなえんじ色のレオタードに着替えていた。
静が帰るまでの時間、部屋の中で何が行われていたのか?想像はどんどん膨らみ今日一日全く仕事に手がつかなかった。
その日、梓の姿は帰宅するまで一度も見る事は無かった。
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