[696] 品評会3 投稿者:ミチル 投稿日:2002/08/18(Sun) 11:52
第1回品評会のその日、われわれ3人は、クラブのロビーで伊能の登場を今や遅しと待ち侘びていた。
「なんだか余裕だね、新見くん。もっと青い顔してると思ったけど」
言いながら堀田が4本目のタバコに火をつけた。口では余裕のあるようなことを言っている堀田であったが、その仕草からは、意外に緊張していることが見て取れた。
「それが全く拍子抜けなんです。この一ヶ月間、少しは女房に変化があるかと思ったんですけど、これがなーんにもないんですよ。隠し事があるとすぐ顔に出ちゃうヤツなんで、なにかあるとすぐにわかるんですけど、それがないってことは結局空振りだったのかなと」
「変なヤツに声かけられたとか言ってなかった?」と堀田が言った。
「ええ、そんなことはなにも」
「結局担がれたんじゃないの、オレ達。サウナでいつもあんな話ばっかりしてるから、ちょっと悪戯してやろうって調子でさ。きっとそうだよ」そう言って堀田がソファにふんぞり返った。
「でも、残念だなー、あの巨根に思いっきり突かれて泣き喚く女房の姿見てみたかったんだけどなー。“夫のことは忘れます!、私は今日からあなたの牝奴隷ですぅ!”みたいなね」と新見が笑うと、
「そうそうそれ、寝取られ亭主族のあこがれのセリフだな、アハハッ」と、続けて堀田が笑った。
約束の時間から30分が過ぎても、伊能は現れない。
「やれやれ、やっぱり担がれてたみたいですね。さぁてそろそろ引き揚げましょうか。おっと、そうだ、このまま帰るのもなんだし、残念会ということで、隣の居酒屋でちょっとやってきますか?」
「おっいいね、行こう、行こう」
と、三人が立ち上がったその時だった。ロビーの自動扉が開いて、ひとりの男が入ってきた。
伊能であった。三人の顔から瞬時に笑みが消えた。
「お待たせして、すみません」
「遅かったね・・・」
「すみません、ちょっと用事が長引いちゃって。それじゃ早速行きましょうか」
「行くって、どこへ?」私の問いに、
「オレのうちですよ。品評会の準備できてますから」と、伊能がこともなげに答えた。
「ええっ!それじゃ・・・」
「はい、美咲さん、寝取らせていただきました。もっと手間かかると思ったんだけど、案外あっさりとしたもんでした」
「そ、そんな・・・・」新見は、その場で凍ったように立ち尽くした後、へなへなとソファにへたりこんでしまった。
「さぁ、行きましょう、表に車止めてますから」
新見がソファに沈み込んだまま、動こうとしない。
「そんな・・・美咲が・・・そんなことが・・・」唇がワナワナと震え、美咲、美咲と、うわ言のように繰り返している。
「新見くん、とにかく行ってみよう。まだわかんないよ。さっき君が言ってたように担がれてるのかもしれないしさ。さぁ立って」そう言って、私は新見の手を引いた。
表に出ると伊能の愛車、紺色のSAAB95がハザードランプを点滅させていた。
「さあ、乗ってください」
伊能に促されて、三人はSAABのたっぷりとした後部座席に乗り込んだ。ぷーんとレザーシートの高級な匂いがした。
「これ、なんかの勧誘の類じゃないの?どこかに連れ込まれてうんというまで返してもらえないみたいなさ」車が走りだしてすぐ堀田がひそひそと私に耳打ちをしてきた。
「さあ。でもこうなった以上、とにかく行くしかないでしょう」
車は30分ほど走って、とある瀟洒なマンションの地下駐車場に滑り込んだ。
「着きましたよ」
エレベーターに乗り込み、伊能が最上階のボタンを押した。
ロビーでの威勢はどこへやら、誰もが堅く口を閉ざしていた。新見の顔が死人のように青ざめている。
「ここです。さあどうぞ」伊能が玄関の扉をあけ、3人を中へ招き入れた。
玄関からまっすぐに伸びた廊下のつきあたりの扉をあけると、悠に30畳はあろうかという広大なリビングルームが広がっていた。
「へえー、伊能さん、すごいとこに住んでんだね」堀田があたりをキョロキョロと見まわした。
「のど乾いたでしょう。みなさんビールでいいですか」
「あ、どうも」
「そんな突っ立ってないでどうぞ適当に座ってください」
部屋にある調度品の豪華さには目を見張らずにはいられなかった。しかもどれひとつとして、いわゆる成金趣味のゴテゴテしいものはなく、部屋全体が極めて高いセンスでまとめられていた。
“この男はいったい何者なんだろう?ひょっとして、オレ達はとんでもない世界に住む男と関わり合いになってしまったんじゃないのだろうか”
伊能に勧められるままソファに腰を降ろすと、目の前のローテーブルに、ビールとつまみが運ばれてきた。
「みなさん。お待たせしました」そう言って、伊能が部屋の照明を落とした。
「それでは第1回品評会をはじめさせていただきます。みなさんご承知のとおり、今回のヒロインは新見さんの奥様でいらっしゃいます、美咲さんです。この1ヶ月間、いろいろとお付き合いさせていただきまして・・・、おっと、余計な説明はいいですよね、とにかくまずビデオを見ていただきましょうか。いいですね新見さん?」
血の気の失せた顔で新見がコクリと頷いた。
皆が固唾を飲んだ。私は口の中がカラカラに乾いていることに気づき、伊能が注いでくれたビールを一口、口にした。
リビングの壁面に、50インチはあろうかという大型のプラズマディスプレイが取りつけられている。もし伊能の言葉が本当ならば、これからわれわれは、この巨大な画面に映し出される伊能と新見の妻との許されざる淫行を目の当りにすることになる。人妻ものAVの“えせ人妻”などとは違う、正真正銘の人妻を溺れせしめたその淫行の数々は、いったい我々にどれほどの衝撃をもたらすのであろうか。ましてや、当の本人である新見が受ける衝撃たるや、いかほどのものか。われわれは今、行く先のわからぬ暗澹たる航海へ船出しようとしていた。
「それじゃ、さっそくはじめますよ」
皆の注目の中、伊能がリモコンの再生ボタンを押した。
傍らで、新見がぶるぶると身体を震わせていた。
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