霞が掛かったように虚ろな意識だった、しかし我が家へ辿り着いた事はおぼろに分かっている。だがそれ以外何も考える事が出来なかった。
ただ酷く疲れた身体が休息のみを欲していた。とにかく一刻も早く身体を横たえ眠りに着きたかった、さもなければこのまま倒れてしまいそうだ。
いや・・・既に倒れてしまっているのかもしれない・・・頬に床の硬く冷たいビニールクロスの感触を感じる。
どう成ってしまうんだろう・・・急に不安が込み上げて来たものの、すぐに意識は遠のいた・・・。
「さっ!梓さん、しっかりして・・・。このまま寝込んじゃ御主人に気付かれちゃうわよ。もう少し頑張って、ベッドまで歩いて・・・それからゆっくり眠れば良いから・・・。」
耳元で囁く小声に我に返るも、依然として考える力は失われたままで掛けられた言葉をそのまま飲み込むのが精一杯だった。
ただ“御主人”と言った言葉のフレーズが胸に響いた。そうだ主人だ・・・主人にだけは見られては成らない・・・。おぼろな頭の中で主人と言う単語が繰り返し現れては薄れて行く・・・。
誰かが私の身体を支えてくれていた。だが、このままではいずれ気を失ってしまいそうだった。
鉛のように重く瞳に被さる瞼を歯を食いしばってそっと開くと寝室のベッドで横に成って休んでいる夫の寝姿がぼんやりと覗えた。
「さ・・・あそこまで行って。起こさないようにそっと隣に潜り込んで・・・。」
再び小声が私に意志を吹き込む。
・ ・・行かなきゃ・・・あと少し・・・あと少し行かなきゃ・・・。
ふらつく脚を引き摺るように前へ進める・・・。僅か数メートルの距離が壁のように立ち塞がる。
・ ・・辛い・・・。苦行のように感じられる歩行に残された最後の力を込めた。
・・・暑い・・・暑くて暑くて・・・。酷く喉が乾く・・・。
「う・・・う・ううむう・・・。」
大きく手を差し上げ伸びをする。
頬を埋める真綿の感触は、間違い無く使い慣れた自分の枕の感触だった。
開け放たれた窓から吹き込む生温い風が引かれたままのカーテンを揺らす度に、真上ほどに上り詰めている夏の日差しが額に振りかかる。
リビングへの襖は閉ざされており、窓は開いているとはいえムッと蒸せ返っており、酷く暑い。
薄暗い中、時計を確認する。
酪農家で産まれて早起きにだけは自信があったのだが、今日はもう一時を過ぎていた。風邪引きで寝込んでいた時を除いては、結婚してからの最大の朝寝坊だろう。
どんなに夜更かししても必ず六時には目が覚めていたのに・・・。それも・・・この、茹だるような暑さの中で・・・。
身を起こそうとしてみたが、身体中が気だるく容易には起きる事が出来ない。
昨日の激淫の名残は、余りに重く身体に刻み付けられていた。
気だるい身体ばかりではなく、十数時間に渡って咥え込まされていた股間は未だに麻痺したように痺れを残しており腰の感覚を奪い取ったままだった。
喉の渇きは最早限界で、早く水分を補給しなくては脱水症状を起こしかねないほどに切迫しているし、昨夜から身に付けたままのTシャツと綿のショートパンツは汗でグッショリ湿って肌にへばり付いて、思いっきり不快感を与えており、一刻も早くシャワーを使いたかった。
ここは我が家の寝室なのだから、そんな望みは普通なら容易く叶う事だった・・・だけど・・・。
寝室とリビングを仕切る襖を開く事が出来ない・・・。その先にもし・・・いや。恐らくは夫がパソコンに向かって座っているに違いない・・・。
夫と顔を合わすのが恐かった。昨日の事を隠し通す事が果たして私に出来るだろうか・・・。
願わくば外出していて欲しかった。夫より朝が遅かった事など一度も無かったのに・・・。よりによってこんな日に・・・、天を怨んだ。
暫く逡巡していたものの、寝起きのボーとした頭がハッキリし出すと意を決してベッドから立ち上がった・・・。幾ら迷ったところで、いずれは通り抜けなければ成らない試練だった。
その後、梓は隣に潜り込むや否や、直ぐに寝息を立て始めた。驚いた事にそれは、寝息と言うよりも鼾を掻き始めたと言ったほうが正確だろう。
よほど疲れたのだろう、今までに梓の鼾など一度も耳にした事など無かった。
私はそんな妻を横目で見ながら不謹慎にも股間を勃起させていた。興奮状態はずっと続いており、このままではとても眠る事など出来そうも無かった。
傍らの妻にそっと手を伸ばし太腿の上部を撫でてみたが、何の反応も返っては来なかった。思い切って股間に手を差し入れてみたものの、結果は同じだった。ただその部分は、かなり粘りの強い液体でドロドロに泥濘んでいた。
手を戻し、そっと鼻先に指を近づけ紛れも無い男性のホルモン臭を確認した。
梓は確かに中で出してと叫んでいた・・・。そして何の遠慮も無しに実行され、シャワーはおろか後始末さえも適当に済まして、ザーメン塗れで放置されていた。
再び梓の肌に手を這わせ、汗まみれでベトベトの肌目とむっとする男女の入り混じった体臭を腹一杯に吸い込むと、愚直は最早、我満の限度を超えた。
踏ん切りを付けて梓の身体を抱き寄せ唇を重ねてみるが、むづがるだけで一向に目を覚まさない。乱暴に乳房や股間を愛撫するものの、立て板に水の如く何の効果も無く妻は眠り続けた。
散々、誘いを掛けてみたのだが、極度の疲労感から来る熟睡は解かれる事は無さそうだった。
いら付きが増し己の枕を握り拳でしばいてみると、感情が溢れ涙が零れた。情け無くて情け無くて・・・後から後から涙が溢れシーツの上に音を立ててボタボタと垂れ落ちた。これほどの屈辱感は事業拡大を諦めた時でさえ感じなかった。
子供のようにしゃくり上げながら嗚咽を漏らした。横では梓が無関係に寝息を立てている。
絶望の断崖の上で、ただ局部だけが隆々と勃起状態を保っていた。
結局、自らの手で再び慰めた・・・。だが、数度に渡る自慰は、既に精を枯れつかせザーメンさえも吐けず、虚しい痙攣だけが惨めさを増幅させた。
そして、梓は眠り続けた。あれほど勤勉で早起き者の梓が、未だ起きて来ておらず猛淫の威力の凄まじさを教えていた。
ディスプレイと向かい合いながらも一向に手が進まない・・・。考えるのは妻の事ばかり、自分が梓をこれほど愛している事が、こんな結果を招いた事によって知らされようとは皮肉な物だった。
さっきからテラスの先でひひ親父が何度も何度も駐車場を横切っていた。梓の事が、かなり気に成るようだ。梓に会ってどうしようと言うのだろうか・・・。また、昨日あれほど激しく精を使いながらも、再びまぐわいを狙っているのだろうか・・・。もしも強引にひひ親父が梓を連れ出そうとしても、梓が拒まなければ阻止する自信も無かった。
パソコンチェア-の上で腹が空腹を告げる音を出した。もう一時を過ぎている。食事と言えば昨昼、POCOでとったクラブハウスサンドが最後だから無理も無かった。
意を決して立ち上がり、寝室の襖の前に立った・・・。
妻はどう言い訳をするのだろうか・・・?それとも包み隠さずに白状するのであろうか・・・?
いずれにせよ、もう起こした方が良いだろう・・・。これ以上の朝寝坊は梓を更に追い詰める事に成るだろうから・・・。本当は自分が外出してやるのが妻にとってベストなのだろう・・・。しかし、ひひ親父がうろつくこの場を離れる事など出来なかった・・・。
決意を固めて立ちあがったものの、まだ心の中は揺れ動いている。
まさか無言のままバスルームへ直行する訳にもいかない。
主人に何と声を掛ければ良いのだろう・・・。
「おはよう。」
これだけでは余りに不充分だった。
「ごめんね、寝坊しちゃった・・・。お腹空いたでしょ。」
こう答えるより無いだろうが、説明が抜け落ちている・・・。
「調子に乗って呑み過ぎちゃった・・・。まだ、頭が痛い。」
主人は、あれこれ詮索して来るのだろうか・・・?一応電話ではよしこと一緒だった事を伝えては有るが、あの電話は明らかに不自然だった・・・。でも、その事を貫くしかない・・・。事実を白状する訳には勿論いかない・・・。
ガラッ・・・その時、突然襖が開いた。
予期せぬ事態に、その場で立ち尽くしたまま、瞬時に固まってしまった。
主人は突っ立ったまま無言で私の瞳を見詰めていた。
準備していた言葉など、まるで役目を果たさず、ただ黙って俯いてしまっていた。
二人の間を流れる沈黙の時は、ほんの一瞬だったのだろうが、後ろめたさを厭と言うほど抱え込んだ身には余りに長い時のように感じられた。
最初に口を開いたのは主人だった。
「おはよう、良く寝てたな。お前にしては珍しいじゃないか?」
「う・・・うん、ご・ごめんなさい・・・。」
「謝る事無いさ。たまには友達と羽目を外すのも良いことさ。昨日は遅かったの?俺、退屈で早くに寝ちゃったから分からないんだけど・・・。」
「うん・・・かなり・・・。」
「何してたんだ?そんな遅くまで・・・?」
「ずっと、呑んでた・・・。」
「よしこさんに何か有ったのか?」
「えっ・・・う・うん・・・よしこ、育児と御主人の事で悩んでて・・・だ・だからあ・・・愚痴の聞き役ってとこかな・・・。」
「お前も、愚痴ってたんじゃないの?俺に相手にされない・・・とかさ・・・。」
「う・・・ううん。で・でも、少しは言ったかな・・・?酔っ払って余りよく覚えてないの。」
「ふ~ん、かなり呑んだのか?」
「え・ええ・・・結婚してから一番かもしれないは・・・。」
「へ~え・・・。でもさあ・・・?」
「な・・・なに?」
「あんまり、酒の匂いはして無かったなあ。」
! しまった・・・。呑んでないのだから酒臭い訳が無かった・・・。嘘がばれた子供のように顔が火照って油汗が滲んだ。
しかも主人は、確かに酒の匂い“は・・・”と言った・・・、なら何の匂いがしたと言うのだろう・・・?主人への罪悪感が、あらぬ心配まで呼び起こしていた・・・。
「凄い汗だな。そうか、寝室に冷房するの忘れてた・・・。ごめんごめん、そりゃ暑いよな。気持ち悪いだろう・・・。直ぐシャワーでも浴びてこいよ。」
汗ですっかり重くなった着衣を肌から外すと呪縛から解き放たれたような開放感を感じた。
淡いピンクのショーツ一枚の姿が洗面所の鏡に映し出されている。
その姿は一昨日までの自分とは、明らかに違って見えた。
しかし、ひひ親父に完璧に蹂躙され尽くしたとは言っても、たった一日でそれほどの変化が現れる筈が無いと思うのだが、鏡の中の自分は余りに淫らな悪女に見えた。
細いウエストから連なる腰のラインは厭らしいほど左右に張り出し、まるで男を誘惑するために肉を付けているように思えた。
相変わらず小振りの乳房は激しいキスの吸い跡を無数に浮かべており、決して主人の目にはふれられてはならないと教えていた。又、行為の間中、必要に吸われ続けていた背高の乳頭は色素の濃度を極端に増しており、真っ赤に充血して倍ほどの大きさに膨れ上がっていた。
前屈みになって、ショーツの両脇に手を掛けたっぷりと肉の乗った腿へ引き下げる。しかし、何時ものようにするりとは引き下ろせなかった・・・。
何とクロッチ部の内側の当て布が性器に張り付いて剥がれない。指で摘んで引き剥がすと陰毛を引っ張り、バリバリと音を立てる。まるで痂に張り付いたガーゼを引き剥がすような感触が局部の粘膜を襲う。
一気に引っ張ると痛みを伴いそうで、慎重に少しずつ剥がしていくと膣から零れ出たひひ親父のザーメンがカリカリに乾いてセメダインのように布を付着させているのが分かった。
ようやく剥ぎ取って指先で触れてみる。おりもののように厚みを持ってこびり付く残骸はショーツの布地を揉む度にぽろぽろと剥がれて脱衣所の床に散らばる・・・。そして膜化したザーメンは剥がれながら強烈な性臭を漂わせた。
その刺激的な匂いが私を又しても淫らな世界へと誘っていた・・・。
つい今までカリカリに乾いたザーメンを張り付かせていた内側の肉襞に薄っすらと分泌液が滲み始めていた。
シャワーから勢い良く噴き出されるぬるま湯が激しく肌で弾けて壁に水滴をしぶかせる。
膝を折り曲げ尻を前方に迫り出して、壁面に凭せ掛けた肩で身体を支える。
シャワーは股間に据えられて、左手でしっかりと握られ切っ先を上に向けて噴水のように湯を吹き上げ、右手指で割り開かれた女陰内部にまで勢い良く侵入している。
上側の前歯で下唇をぎゅっと噛み締め声を堪える。
ああ・・・だめ・・・やめなきゃ・・・。同じ場所で晒した一昨日の失敗の記憶がまざまざと甦る。
分かっているのに行為を中断する事が出来ない・・・。私、一体どう成ってしまったの・・・。このままでは又しても失態を晒しかねなかった。
それなのに・・・おまんこが気持ち良くて気持ち良くて、自制心を完全に制御してしまっていた。
身体を支えていた肩はズルズルとずり下がって、尻は大量に湯が流れる床面に崩れ落ちていた。
今やシャワーは激しく噴出を続けながら足下に放り捨てられ、勢いでバスタブにごんごんとぶち当たる。
だめだめ・・・いけない・・・いけない・・・夫が居るの・・・もしかしたら、聞き耳を立てているかもしれない・・・でも・・・だめ・・・我慢できない・・・。
右手の中指と薬指を刺し込んで内部の天井を抉る。同時に左の中指で肉芽を強く押し揉む。
「はあ・・・」「はう・・・」
だめえ・・・声が・・・声が出ちゃう・・・。
必死で声を押し殺しながらも、昨日の激烈なひひ親父との交合で得た快感を追い求める自分が居た。
ピンポーン
その時インターフォンの鳴らされる音を微かに残っていた理性が聞き取った。
一杯に開かれた水道栓をきゅっと締めると、じっと様子を覗った。
「はい。」
主人の応答する声が聞える。
「あ・・・こんにちは・・・はい、ちょっと待って下さい。」
玄関のドアが開く音と同時にひひ親父の野太い声が響く。
「梓さんは、居らんのですか・・・?」
「い・・・いえ。居ますけど・・・今、シャワーを浴びてます。」
「シャワーじゃと・・・。今何時じゃと思うとるんですか?遅れるなら遅れると言うてくれなんだら困るや無いですか。」
バイト・・・?昨日あんな事が有ったというのに・・・。ひひ親父の神経の図太さを今更ながらに再確認させられた思いがした・・・。
「は・・・はあ、てっきり今日は休みと思ってたんですが。」
「休みなら昨日取ったやないですか・・・。御主人は知らんかったんですか?」
「い、いえ・・・。ですが・・・。」
「でも、何なんですか。当てにして今日は静の奴は朝から出かけとるんじゃ。わしゃ朝から何も食っとらんのですぞ。それやのにのんびりシャワーですか。」
「済みません・・・。」
「御主人に言うても始まらん・・・。はよう梓さんを呼んで下され。たっぷり説教せんとならんからのう。あれだけたっぷり可愛がってやったと言うに、最近の若い者は責任が無さ過ぎる。」
「はあ・・・。可愛がる・・・?何の事です?」
「あんたには関係ない、梓さんに後でじっくり聞きゃあええ。」
大変だ。ひひ親父の機嫌を損ねては、何を言い出すか分かった物では無かった。
慌てて脱衣所に飛び出したのは良いのだが、困った事に着替えを持って来ていなかった。辺りを見回して見ても、脱ぎ捨てた汗でぐしょ濡れの先ほどまでの着衣以外、身に付ける物は無かった。
寝室まで取りに行くにはリビングを横切らねばならず、玄関からは丸見えに成ってしまう。
脱衣所との仕切りのアコーディオンカーテンを僅かに開いてリビングを覗うと、椅子の背に夫のパジャマ替わりのロングTシャツが脱ぎ捨てられていた・・・。あれなら玄関からの死角をキープしながら取れそうだった。
「梓さ~ん!梓さ~ん!早よう出てこんかいな!」
ひひ親父が大声で呼び声を立てる。
猶予は最早なかった、全裸でリビングの隅を伝いロングTシャツを手に取り素早く脱衣所に戻る。
下着は無い・・・。仕方無しに地肌に白い無地のTシャツのみを纏う。
出向く前に洗面台の鏡に我が身を映してみる。男物のロングTシャツだけにたっぷりしている上、胸も無いので上半身はそれほど違和感は無かったが、ただでさえ人より迫り出した丈の有る乳頭が先程までの行為によって完全に硬く勃起してしまっており、ブラを着けていない事が一目瞭然に露呈してしまっている。
その上、下半身はロングとは言え太腿の半分以上を露出しており、ストッキングを履かない青い血管を浮き出させた色の白い生脚のむちむちの肉が羞恥心を煽り、背を向けるとパンパンに張り出した臀部に布地が直に張り付きお尻の割れ目に食い込んでしまっている。裾を引っ張って食い込みを外すものの手を離せば直ぐ元通りにしっかり割れ目に食らい付く。
こんなはしたない格好で人前に出た事は一度も無かった・・・。まさか、このまま玄関へはとても出られない・・・。素早くリビングを横切って寝室で着替えをしなくてはならない。
意を決して脱衣所を後にリビングへ飛び出す。わき目も振らずに寝室へ掛け込む・・・筈だった・・・の・・・だが。
痺れを切らしたひひ親父の巨躯が真ん前で腕を組んで仁王立ちしているではないか。
引き止める夫を強引に振り切って侵入して来たらしく、ひひ親父の肩に背後から手をかける夫と目が合った。
「梓さん、わしゃあなあ・・・あんたの事をよう働くし別嬪じゃし、凄う買うとったんじゃよ・・・だからアルバイトも破格の給料で頼んだんじゃ。一体何処に家政婦まがいのバイトでこれほど銭を稼げるバイトがあるんじゃ。それやのにあんたは昼過ぎまで寝坊しておいて慌てて来るんじゃのうて、のんびり昼風呂か!」
「す、済みません・・・。直ぐ支度します。」
「支度じゃと・・・?わしゃあ朝から何も食っとらんのじゃぞ。この後に及んでまだ、のんびりした事をぬかすか!」
「で・・・でも、この格好じゃあ・・・。」
「格好などどうでも良かろうが・・・。それともまだわしに対して恥ずかしい所なんぞが残っとたんか?んん・・・梓。」
「や・・・やめて。」
私を見詰めるひひ親父の細い目が卑猥ににたついている。
これ以上、ひひ親父の発言を許せば私達夫婦に待っているのは破局以外の何物でもなかった。
「大家さん、幾ら何でも人の女房を呼び捨てにする事は無いだろう。」
「おお、御主人の前じゃったのう・・・。不甲斐なくとも亭主は亭主じゃからのう・・・ふははは。」
「どう言う意味だ!」
このままでは破滅だった・・・。とにかくこの場だけは収めなければ成らない。
「大家さん、申し訳ありません・・・。これまで余り役に立ってないような気がしてたので・・・つい・・・。」
「ふっははは・・・役に立たんのは、あんたの亭主の方じゃろうが。」
「き・・・貴様!言って良い事と悪い事が有るぞ!」
「やめてー!あなた・・・お願い・・・大家さんもこれ以上、何も言わないで下さい・・・。
直ぐに食事の支度をしますから・・・。」
ひひ親父は無言でニタニタと厭らしい笑みを浮かべながら私の手首を掴んだ。
引き立てられるように我が家を後にした。
玄関を出ると、すぐさまひひ親父は身体を密着させ、夫の目を気にする私を狼狽させる。
腰に手を回し、尻肉を抱くと耳元で。
「梓あ・・・わしの味が忘れられんで、こんな刺激的な格好をして来たんじゃろう・・・。この下は何も着けとらんようじゃなあ。直ぐにおっぱじめられるようにして来たんじゃな。エロい女子じゃのう・・・、梓は。安心せえよ今日は静は居らんから、これから又たっぷり、鳴かしてやるからのう・・・ふへへへ」
腰に回した手でTシャツの裾を引かれる・・・。裸の尻肉が背後のコーポから丸見えに成ってしまう・・・。夫は勿論、他の部屋の居住者にまで知られてしまう恐れが有った。
必死でひひ親父の手を制すが、そんな努力を幾らした所で、この状況は見ている者が有れば子供でも異常に気付くのは間違い無いだろう。
ひひ親父宅までの卑猥なパレードはようやく終わりを迎えた。
玄関の引き戸が開けられ、中へ連れ込まれる。
間口を潜りながら、恐る恐る背後を振り返る。
コーポ二階の東の部屋では三人の小学生の母親が洗濯物を取り込みながら、覗うような目線をちらちらと送っている。
コーポ二階の中の部屋では年金暮らしのお爺さんがベランダの植木の隅に身を隠すようにしてじっと此方を凝視している。
コーポ一階の東の部屋では三歳になる豪君が若い母親に家に入るように諭されながら、珍しい物でも見るような目線を投げている。
そして、コーポ一階の西の部屋では、夫がカーテンの陰に身を潜めながら、じっと見送っていた。
間もなく私の視線を遮るように引き戸が閉ざされた。
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