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北原夏美 四十路 初裏無修正

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呑助 7/16(月) 21:29:17 No.20070716212917 削除
その後の紗代は俺が聞いてもいないのに、何かに取り憑かれたかのように何でも話してくれた。
それは俺の知らない紗代の幼い日の出来事から、忘れたかった奴との関係の真実まで。
奴との切欠は、頼みたい仕事があるから休日出勤してくれと騙されて、オフィースで無理やり犯された事。
ダンボール箱に隠してあった、その時に着ていた制服を見せてくれたが、それは抵抗の凄まじさを物語るかのようにブラウスは破れ、ボタンは全て千切れ飛んで無くなっていて、タイトスカートのファスナーも壊れて使い物にならなくなっていた。
その後は奴がその事を俺にばらすと脅して、逆らえなくなった紗代を夫婦気取りで連れ回す。
「どうして言ってくれなかった」
紗代は俯いてしまったが、これは愚問だったと反省する。
紗代は言えなかったんだよな。
言えるような内容なら、とうに話してくれていた。
私に言えないような酷い扱いをされていたのは明白で、俺はその話題から逃げようとしたが、顔を上げた紗代はどうして言えなかったかを話し出す。
犯されながらも奴の目の前で何度も達してしまい、最後はもう許して欲しくて、奴に命じられるままに「中に出して」と言わされてしまう。
そして終わって欲しいばかりに言ったその一言が、更に妻を追い込んでしまってその後もその事で脅されて、ホテルに連れて行かれると最初は嫌だと拒んでいても、結局は感じさせられてしまって、また恥ずかしいお願いをさせられてしまう。
「世界中の誰に知られても構わないと思いました。ただ、あなたにだけは知られたくなかった。あんな事をされても感じてしまい、あんな恥ずかしい言葉を何度も言わされていた私を」
どのように知ったのか俺達が離婚した事を知ると、奴は調査費用など何とも思わず、興信所を使って紗代の暮らしていたアパートを探し出す。
「紗代が満足そうに眠っている間に撮った写真がある。調べたところによると、旦那は相当往生際が悪いようで、まだ紗代に未練が有るようだから諦めがつくように、これを送ってやって俺が止めを刺してやる」
奴は知っていた。
俺がまだ紗代を愛していて、紗代もまた俺を愛していたのを。
そして紗代は知らなかった。
俺が既にその写真を見てしまっていた事を。
紗代には言わなかったが、それを聞いた俺は奴を殺したいと思い、ナイフを忍ばせて一度奴の会社に行ったんだぞ。
すると奴はその二ヶ月前にクモ膜下出血で倒れ、意識が無くてずっと危篤状態が続いていると言われた。
他人の不幸を喜んだ事はないが、その時ばかりはこれは天罰だと喜んだ。
このまま死んでしまえとさえ思った。
俺が手を下さなくても、悪い奴には天罰が下ると神に感謝した。
しかしその天罰は、最初無理やり犯されたにも拘らず、そのあと快感を貪ったからか最愛の紗代にも下ってしまう。
紗代と過ごした退院してからの四ヵ月の間、新婚当時に戻ったかのように幸せだった。
人生の中で、一番幸せな時間だったかも知れない。
どうして本当の病名を教えてくれなかった。
いや、あれだけ痩せてしまっていたのに、どうして俺は気付かなかったのだろう。
紗代とまた一緒に暮らせる喜びで舞い上がっていた俺は、紗代の身体の中でそのような事が起きていたとは夢にも思わなかった。
変な意地を張って、半年も連絡をしなかった事が悔やまれる。
いくら紗代との約束だったにしても、娘達にアパートを教えなかった事が悔やまれる。
あの時厭らしい下着を見ても、なぜ強引に連れ帰らなかったのだと悔やまれる。
そうしていれば、こんな手遅れになるまで放っておかなかった。
そして何より悔やまれるのが、強引にでも籍を入れなかった事だ。
再入院してからの紗代は早かった。
「今からでも籍を入れよう」
「ううん。こんな女と、二度も結婚しては駄目」
顔では必死に笑顔を作っていたが、余程痛いのか額には脂汗を掻いていた。
どんなに痛くても、俺の前では最後まで笑顔でいてくれた紗代。
「夢を見ているみたい。あなたの腕の中で死ねるなんて、こんな幸せな事は無いわ」
激痛に耐えながら、笑顔でそんな事を言うなよ。
辛ければ辛い顔をして、我侭を言って欲しかった。
だってそれが夫婦だろ。
それは籍が入っていなかったからなのか?
その時の俺達には、そんな紙切れ一枚には書き切れないほどの繋がりがあったはずだ。
しかしそうは思っても、法律上も俺の妻で最後を迎えて欲しかった。
いや。紗代の最後は、全ての面で紗代の夫でいたかった。
その時は紗代に天罰が下るのではなくて、どうして紗代を信じてやれなかった俺に下らなかったのかと神を怨んだが、今思えばこれが俺に対する天罰だったのだ。
紗代と違う世界に残されるほど、こんなに辛い罰は無い。
娘達の嗚咽が夜の病院内にこだまする中、紗代は俺だけのものになった。
紗代を育ててくれた両親には悪いが、紗代と二人でいた時間は誰よりも長く、紗代との思い出だって誰よりも多いから。
俺と紗代が共に過ごした歴史からすれば、奴との事などほんの一瞬の出来事で、奴の存在など無かったに等しい。
「毎晩こんなところでメソメソしながら飲んでいないで、早く素敵な彼女でも見つけて一緒に外で飲んで来なさい」
仏壇の前に小さなテーブルを置き、2人分のご飯を用意して紗代の写真を見ながら飲んでいると、毎日決まってそんな紗代の声が聞こえてくる。
「大きなお世話だ!俺はここで独り飲むのが好きなんだ!」
そして俺は、いつも大声でそう言い返している。
俺の心配などしなくても良いから、独りが寂しくても今度は待っていてくれよ。
そちらの世界はどうだ?
もう痛くはないか?
奴も死んだと聞いたが、まさか一緒だという事は無いだろうな。
まあいいか。
紗代が知らない世界に孤独でいると思うと辛いから、悪い奴でもいないよりはましか。
ただ俺が行ったら何があっても返してもらう。
今度こそは絶対に引かない。
でも本心はやっぱり一人で待っていて欲しい。
俺も紗代との思い出だけを胸に生きていくから、お願いだから紗代も今度こそは俺が行くまで待っていてくれよ。

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