黒熊 8/24(木) 17:31:29 No.20060824173129 削除
最低限の荷物だけを詰め込んだスーツケースを静かに運びながら玄関ポ
ーチへ着くと、私はそれをポーチの脇へとそっと置きました。音がしない
ように鍵を開けてゆっくりと玄関ドアを開け、足音を忍ばせて玄関ホール
へと入ろうとした時です。私はふと足元を見遣り、そこに見慣れない靴が
ある事に気付きました。
(あれ?…誰か友達でも来てるのかな?)
私は最初そう思ったのですが、玄関にある靴はどう見ても男物のようです。
それも一組だけと言う事から、来客は一人だけと言う事になります。
私はシューズボックスの上にある置時計をチラリと見遣りました。時計の
針は20時30分を少し過ぎたところを指しています。
(こんな時間まで居る男性客となると…)
私は玄関のドアを開けたまま、少し考えを巡らせました。
親戚の誰かかも知れませんし、もしかしたら私の父親、それとも義父――
その時の私はそんな事を普通に考えていました。
そんな時です、廊下の先にあるリビングへの入口のドアから人の声が聞こ
えました。
「ねえ…もういいでしょ?」
「ハハッ…恥かしがってる由紀子さんも素敵だね?」
「もうッ…いいから止めてッ…」
それは確かに妻の声でした。そして相手の男の声は、私の聞いた事のない
若者の声なのです。
「そんな事言ってるけど…本当は由紀子さんも満更じゃないんでしょ
う?」
「馬鹿なこと言わないのッ!」
若い男をたしなめるような妻の声でしたが、どことなく恥じらいを含んだ
ような声色に、私の心には急激に不審の念が湧き上がってきました。
このままリビングへと向かうべきかどうか、私は迷いました。
そして私は再び玄関ホールを後にして、音がしないようにドアを閉め、鍵
を掛けました。
私はリビングの二人の様子がどのようなものであるのか知りたくなった
のです。
玄関から出ると、浴室とブロック塀との間の狭い隙間を抜け、多少の広さ
のある裏庭へと出ました。そこからですと、サッシ越しにリビングの様子
が窺えるはずです。
私は庭木の陰に身体を潜め、少しずつリビングのサッシへと移動しました。
あいにくサッシの内側にはカーテンが引かれており、すぐには中の様子を
伺う事は出来ませんでしたが、それは向こうからも此方の様子が窺えない
と言うことです。
私はどこか中が覗けるようなところがないか探しました。すると、サッシ
の一番隅の方からリビングの明りが洩れているところを見つけました。観
葉植物の枝に引っ掛かり、カーテンが閉まりきっていないようです。
私は物音を立てないようにしてゆっくりとその場にしゃがみ込み、リビン
グの中を窺いました。
そして私は、目に飛び込んで来たその光景に愕然としてしまうのです。
また、やられへたれ男物語は勘弁だぞ