[3730] 情けない 7 投稿者:飯田 投稿日:2005/11/07(Mon) 16:59
娘達が出掛け、私は奴を待っていた。
事の重大さに恐れをなして、我が家に着くまでに考え直せと思いながら。
約束の時間が迫り、妻はお茶の準備を始める。
「泥棒にお茶がいるか!」
湯飲みを投げて叩き割る。
それほど私は、気が昂っていた。
昨夜の惨めな私とは違い、完全な戦闘モードだ。
妻が玄関まで迎えに行き、入って来た男は、何も言わずに立っている。
「座れよ」
「この度は・・・・・・・」
「この度は何だ!」
気が付くと殴っていた。
暴力だけは振るうまいと思っていたが、こんな時でもモジモジしている男に切れた。
「あなた、やめて!」
妻がすぐに間に入って、次の私の動きを封じる。
しかしこれは、犯罪者になる私を心配したのではなくて、奴が殴られるのを可哀想に
思い、庇っているだけだと感じた。
「あなた、ごめんなさい。全て私が悪いの。私を殴って」
奴の前に立ちはだかり、目を閉じている妻を見て思う。
妻は、こんな男に真剣なのだと。
「分かった。離婚してやる。すぐに別れてやる。今から条件を話し合おう」
私の口から、思ってもいなかった言葉が、次から次に飛び出した。
こんな場面で、男気を出している。
一番肝心な場面で、強い大人の男を演じてしまっている。
奴を見ると、妻の後ろで震えていた。
良かった。
女の後ろで震える男を見て、私の暴走に歯止めが掛かる。
奴が妻を庇って前に出ていたら、勢いで離婚を進めていたかも知れない。
「一方的に俺を裏切って離婚するのだから、財産分与はしない。慰謝料はいらないが、
養育費は愛と瞳が20歳になるまで、一人月10万。これで離婚してやる。」
「えっ・・・・・」
「加藤、おまえは慰謝料として5千万払え。それで許してやる」
「はい、分かりました。ごめんなさい。こんな事になって、ごめんなさい。ありがと
うございます」
私は耳を疑った。
無理な条件を出して、諦めさせようと思っていたのに、こいつは金持ちだったのかと。
「あなた、待って。彰さん、分かっているの?5千万と月々20万よ。彰さんと私に、
そんな大金が払える訳ないでしょ?」
「えっ?慰謝料五百万と月々10万かと思った。出て行った妻と、相手の彼からもら
った慰謝料があるから、頑張ればどうにかなると思った」
「しっかりしてよ。それに、あれを使ってしまったら、加奈ちゃんと美保ちゃんはど
うするの?あれには養育費も含まれているのよ」
殴られて平常心では無かったにしても、私よりもこんな男を選ぶのか。
情けない
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