川越男 11/3(月) 08:35:36 No.20081103083536 削除
「お待たせしました」
目の前に現れた中年の美女はそう言って席に着きました。
「すみません、突然お呼びだてしてしまって」
「いいえ、私も気になっていましたから…」
あの後、興信所を出た私は協力してもらった木村さんに電話を入れ、これまでの経緯を話す事ともう一つ、大事なお願いをする為に市内の喫茶店に来てもらったのです。
「そうですか…身内の恥を晒すようで本来ならあなたに話す事ではないのでしょうけど…」
「お気になさらないで下さい。こういった事は誰彼構わず話せる事でない事は私も承知しております。少しでも社長がお気を鎮める事が出来るなら、私を役に立てて下さい。」
「すみません…いや、ありがとうごさいます。あなたにそう言ってもらえると助かります」
「いいえ、とんでもないです。それに、本当は野次馬根性がないとも言えないんです。いやなおばさんですね」
上品に笑うこの女性を見て、最近にはなかった暖かい感情が私の胸を熱くし、不覚にも涙がこぼれてきます。
そんな私を、彼女は優しく微笑みながらハンカチを渡し、「今までご苦労様。あなたは頑張ったのよ。もう自分を殺す必要はないの。」と言ってくれました。
人というのは不思議な生き物です。心に淀んでいた黒々とした負の感情が、その言葉で昇華される気分です。そしてそれは、一番言って欲しい人に言われたい言葉を、会って数回のよくお互いを知りもせぬ人に言われた事で余計に大きくなりました。
周りからすれば異様な光景だったでしょう。
中年カップルが向かい合い、男は号泣。片方の女性は慰めているんですから。
ひとしきり感情のまま泣き、落ち着きを取り戻した私は、木村さんに失態を詫び、今までの話を始めました。
木村さんは、終始無言で私の話を聞き、時折辛そうに顔を歪めながら最後まで黙って私の話を聞いていました。
「そうだったんですか…ごめんなさい、月並みの事しか言えませんが、大変でしたね…」
「ええ…」
「まさか、沢木さんの息子さんとだなんて…」
「ええ…」
「確かに、沢木さんが離婚した経緯は伺っていました。けれど沢木さんが原因だったなんて、、主人から聞いた話とは違っていたんですね…」
「ええ………???………えぇぇ!!どういう事ですか?あなたの旦那さんは何と聞いていたのですか?」
「はぁ? 主人からは沢木さんの奥様の浮気が原因と聞いておりましたもので」
どうゆう事何でしょう?私の聞いた話とは全く逆です…それが本当なら妻は彼と関係を持つ必要はない…どうなってるんだ
「その話はご主人から聞いたんですよね?」
「はい」
「木村さん!失礼を承知でお願いしたいのですが…一度、ご主人に会わせてはもらえないでしょうか?」
「え?はぁ、それはかまいませんが」
「都合の宜しい時で結構です。私はいつでも伺いますから」
「そうですか。それなら明日はどうですか?主人も休みですし」
「構いません。では明日、都合の宜しい時間に連絡下さい」
「わかりました。あ、主人には詳しい事は…」
「はい、出来れば何も言わずにお願いします」
これには、私なりにある考えがありました。木村さんのご主人が沢木と友人関係でいる以上、下手に沢木にとって不利な状況を見せれば、ご主人が沢木に連絡を取りかねないと思ったのです。依然、沢木の白が確定してはいないのです。変に口裏合わせなんかされたらたまりません。
「実は、木村さんにもう一つお願いがあるんですが」
そこで私は、木村さんに来てもらったもう一つの理由を木村さんに伝えました。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)