川越男 1/10(土) 15:30:56 No.20090110153056 削除
携帯を耳にあてたまま固まってしまいました。電話の声は確かに《沢木》と名乗ったのです。
まさか奴から連絡が来るなんて思いもしませんでした。しかも、妻を追い出したこのタイミングです。当然の事ながら面食らいました。
そんな私を知ってか知らずか沢木はただ黙って私の出方をうかがっているようです。
その余裕めいた態度が、幸運にも私を現実に引き戻し怒りを思い出させ闘争心を呼び覚ませてくれました。
「沢木?あぁ、あの沢木さんか。妻が公私にわたってあなた達親子にはお世話になった様ですね」
「……………」
「それで?哀れな寝取られ亭主に何の御用ですか?」
嫌味を交え一気にまくし立てる私に、沢木はただ黙って聞いていました。そして漸く口を開きます。
「弁解の言葉もありません。息子が…敦也がした事は到底許される事ではないと承知しております。しかし、私は父親です。息子の行為の責任は、親である私が取らなければならないと思っています。もちろん、謝って済む問題ではない事を承知の上で謝罪させて下さい」
「……………」
「松田さん、この度は本当に申し訳有りませんでした」
沢木の声に嘘偽りがない様に感じました。子供の不始末を真剣に詫びる親の悲痛な気持ちが、電話越しとはいえ私の胸に響いてきたのです。正直、私の心中は複雑でした。沢木のあまりにも誠実な対応に、これ以上の嫌味や暴言は私自身の人間性を貶めて仕舞いそうだからです。
しかし、だからと言って『はいそうですか』と簡単に納得なんか出来ません。小さい男と言われようと、私が受けた屈辱をこんな形で終わらせる事など出来ないのです。
「謝罪など必要ない。許す気など更々ないんでね」
「い、いえ、しかし……」
「そもそも沢木さん、あなたに謝られる意味が解らないんですよ。子供子供とあなたは言いますが、19にもなれば、人として最低限の礼儀は解るはず…本人が直接目の前で謝罪するのが筋では?」
「はい。仰る通りです。もちろん、明日にでも敦也を連れて松田さんのお宅に伺わせてもらいます。ただその前にと思いまして…」
「そうですか。まあどちらにせよ彼とは会って話を着けるつもりだったんでね。構いませんよ。それなら明日の19時に来て下さい」
どっちにしろただでは済ますつもりは毛頭なかった私は、明日来るようにと言い、電話を切ろうとしました。
ところが、沢木の口から出た言葉で事態は一変しました。
「あの、松田さん?」
「まだ何か?」
「……………」
「切りますよ?」
「今から伺ってもよろしいでしょうか?」
「はぁ?何言って―」
「果歩さんと一緒に…」
興味を引く読み物だからです。表現を変えるなら
、失礼ながら「満足」させて頂いております。
ありがとう(^O^)