それから幾時間か経った後、私は釈放されました。
身元引受人には鈴木さんがなってくれたらしく、果歩の姿はありませんでした。
ボロボロの私を見た鈴木さんは、目頭を赤くして「ばかやろう・・」と、言って私を抱きしめてくれました。
彼は私にとって仕事の上での師匠であり父親とも言える人です。
何時でも厳しい人で、20年近く付き合っていますが泣いてる姿なんか見た事もありません。
その姿に、今まで誰にも言えず溜まっていた私の感情が噴出し、子供の様に泣きじゃくっていました。
そんな私を、鈴木さんはただ黙って抱きしめていてくれました。
家に向かう車の中で、鈴木さんが迎えに来た理由を話してくれました。
私が寝室で暴れだした時、果歩はとうとう私が狂ってしまったと思ったようで、隆の部屋で怒りが静まるのをただただ怯えて待つしかなかったのです。
しかし、収まるどころかますます激しくなってきてしまい、聞き取れなかったようですが、奇声を発しながら暴れている私が恐ろしくなり自分の身の危険を感じた果歩はパニックになり鈴木さんへ電話したそうです。
「最初は何を言ってるのかわからなかったよ。果歩ちゃん、相当取り乱しててなぁ・・・」
「・・・・・」
「やっとこさ聞き取れるようになってみるとお前さんが寝室で暴れてるって言うじゃないか。何の冗談かと思っていたら電話越しにでかい音がしたんだよ。その後に果歩ちゃんが”殺されるー”って叫んだんでこらぁ大事だと思って果歩ちゃんに”今どこにいるんだ?”って聞いたら泣きながら子供の部屋にいるって言ったから果歩ちゃんに”絶対ドアを開けるんじゃないよ”って言って家内と家を飛び出したんだよ」
「・・・・・」
「まあ急いで向かうったてなぁ、うちからお前さんの家までは早くても1時間位かかっちまう。その間にお前さんが果歩ちゃんに手を上げたりしたら事だと思ったんで悪いが俺が警察に電話をして向かってもらったんだ。」
「そうだったのか・・・鈴木さん悪かったね・・・・」
「いや・・・俺の方こそでしゃばったマネしてすまなかったな」
「いや・・・いいんだ・・・」
窓から見える景色を無表情で見つめながら気のない返事を返しました。
関係ない鈴木さんを巻き込んでしまった申し訳なさも感じる事が出来ません。
ただ全てがどうでもいい。息をするのもまばたきするのも億劫で、もはやこのまま死んでしまいたいとさえ考えている始末。
これが、小さいながらも従業員を抱えている会社のトップかと思うと情けなさで消えてしまいたい気分になります。
「だけど、まあなんだ・・・」
私がそんな事を考えていると、鈴木さんが何かを言いづらそうに話し始めました。
「本当なのか?」
「何が?」
「いや、その・・・」
「果歩から聞いたの?」
「いや、直接的な事は話さなかったが。」
「・・・・・・」
「果歩ちゃんはしきりに”私のせいで一樹さんがおかしくなった”って言ってるんだ」
「・・・・・・」
「だけどまあ、こんなオヤジでも状況を見ればある程度予想もできるわな。どちらに原因があり、その・・・原因が何か・・・はな。」
「そうか・・・」
「ああ、そうだとも・・・」
寂しそうにそれだけ言うと鈴木さんは再び運転に集中し始めました。
言いようのない雰囲気が狭い車内を支配していました。
コメント
やりっぱなし
中途半端な事をして
何故、このようなものを取り上げるのか理解できない。
読み手を突き放して何を考えてるのかなあ
すべてに対する意味が理解できていないのか。
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