[629] Booby Trap 投稿者:道化師 投稿日:2002/07/13(Sat) 01:40
『運命』・・・私は、それまで運命と言う言葉を、ほとんど意
識した事はなかった。
そう、あの日までは・・・・
3年前、惰性のような日々の暮らしを送っていた私は、ただ歯
車が回るように過ぎて行くだけの人生に疲れきっていた。
朝早くから夜遅くまで仕事に追われ、家に帰れば、思うようにな
らない妻に手を焼き、諦めにも似た絶望感の中で、何の楽しみも
見出せないまま、空しく時間だけが過ぎていっていた。
だが今、私の人生は変わったのだ。
妻と二人で過ごす充実した時間が、毎日の暮らしに悦びを溢れさせ、再び私の人生に生きる活力を与えてくれているのだ。
私の妻である恵美子は、当時35歳だった。
身長160cm、体重58kg、3サイズは、上から88(Eカ
ップ)-65-90と、見た目は少しぽっちゃりしていたが、清
楚な顔立ちからか、実際よりも若く20代後半に見られることが
多かった。
その頃、私は郊外のマンションに、妻と男の子2人の合計4人家
族で普通に暮らしていた。
まあ、世間から見れば、いわゆる何処にでもいるような、ごくご
く平凡な家庭のうちの一つだった。
当時、私達夫婦は結婚して13年が過ぎ、ちょうど倦怠期を迎
え始めていた。
新婚の頃は、色白で可愛らしく、また、優しく従順で、どこか頼
りなさげだった妻も、小学校5年生と、3年生、2人の男の子の
母親となり、貞淑な家庭の主婦として、近所ではしっかり者の奥
さんと評判されるようになっていた。
反面、私は仕事が忙しくなり、あまり家庭の事に関われなくなっ
ていた。
その分、妻は必然的に家庭に対する責任感が強くなり、そのため、
おっとりしていた性格もだんだんとしっかりしてきて、逆にその
頃になると、どちらかといえば少しきついぐらいになってきてい
た。
私は、そんな様子から、妻が私に対して妙な対抗意識をもってい
るような気がして、ややもすると、私に対する態度も、何となく
邪険になったように感じていた。
そしてその事も、当時私を苛立たせる原因の一つとなっていたの
だった。
私は、ほとんどの男性がそうであるように、結婚する以前から妻
となった女を、自分の望みの女に調教したいという願望を抱いて
いた。
ただ一つ違っていたのは、私の望む女というのは、あまりにも背
徳的なために、それまで誰にも話さず、密かに心の奥に隠してい
た事だった。
新婚当初、私は、妻に対してその素直で可愛い様子から、
(この女なら、ひょっとしたら望みどおりの女に出来るかもし
れない・・・・)
と、思っていたのだが、私の見る目がなかったのと、実際にそう
しようとして分かった己の才能のなさで、現実は、まるで違う女
になってしまっていた。
そのため、
(こんなはずじゃあ・・・こんな女になってしまうとは・・・)
あきらめきれずに、心の奥で無意識の内に何とかよい方法はない
ものかと、漠然と考えていたのだった。
そして、すべては、今から3年前のあの日、私にかかってきた
たった1本の電話から始まった。
その日、仕事中の私のもとに上川と名乗る男から、突然、電話が
かかってきた。
最初、受け付けの女子社員から、
「上川様とおっしゃる方からお電話が入っていますが、おつな
ぎいたしますか?」
と言われた時、そんな名前にまったく心当たりがなかった私は、
また何かの勧誘だろうと思って、すぐに断ろうとした。
だが、さらに、
「奥様のお知り合いで、『とても大事なお話がある』と、おっ
しゃっておられますが・・・」
そう話すので、不審に思ったが、とりあえず電話に出てみる事に
した。
「もしもし○山さんでしょうか?お仕事中突然お電話差し上げ
まして、大変恐れ入ります。初めてお話させていただきます
が、私○○金融の上川と申します。実は、誠に申し上げにく
いお話なのですが・・・○山さんはきっとご存知ないかと思
いますが、私ども、以前より奥様の恵美子様に、ご融資をさ
せていただいておりまして・・・つきましては、その件で、
今回○山さんに折り入ってご相談があるのですが・・・」
「○○金融・・・?そんな名前は、今まで妻から聞いたことは
ありませんが・・・」
「まあ、ご主人には言いにくかったんでしょう。とにかく、私
どもが奥様にさせていただいておりますご融資の返済の件な
んですが・・当初は、毎月キチンとご返済をしていただいて
いたものが、ここ最近、返済が滞っていまして・・そこで、
早い話、ご主人に何とかしていただきたくて、こうして、ご
連絡差し上げたわけです。いかがなもんでしょうかねぇ・・」
「つ、妻が?何かの間違いでしょう。」
「いえ、間違いではありません、ちゃんと契約書もあります。」
「とにかく、電話では何ですので・・・」
私はそう言って、上川と名乗る男と、会社から少し離れた喫茶店
で、その日の午後会う約束をして、とりあえず、その場は電話を
切った。
考えてみれば、結婚当初から家計の事は妻にまかせっきりだった。
結婚して初めて分かったのだが、妻は家計をやりくりする事が、
どちらかといえばあまり得意ではなかった。
ただ、本人はそれを自覚していて、結婚当初はそれなりに、一生
懸命努力しているようだったので、私もあまり何も言わなかった。
その他の家事については、ほとんど問題なくこなすのに、何故か
給料を計画的に使うという事だけはうまく出来ずに、
「私って、本当にダメねぇ」
と、いつもこぼしていたのだった。
そういえば、新婚当時よく家計費が足らなくなり、次の給料日ま
で、ちょくちょく私の小遣いからいくらかを、家計に回してやっ
たりした事があった。
だが、あまり何回もあるので、そのうち私が怒って『どうして、
そんなにちょくちょく足らなくなるんだ!家計がきちんとできな
い女は、主婦失格だ!』などと言ったせいか、それからは、そん
な事は、すっかりなくなっていたことを思い出した。
あれから何年もたっているので、それなりに上手になっていたの
かと思っていたのだが、どうやら、むしろその逆で、最近は悪く
言えばどんぶり勘定に近い状態になっていたようだったのだ。
これは後になって分かったのだが、それまで何とかなっていたの
は、苦しくなると、妻は自分の実家に泣きついていたためだった。
だがその両親も相次いでなくなったため、一人っ子だった妻は、
他に助けを求める事が出来なくなってしまい、そして、とうとう
にっちもさっちも行かなくなって、軽い気持ちで、雑誌に載って
いた消費者金融に手を出したようだった。
その時は、何故そうなる前に私に相談してくれなかったのかと思
い、どうも、私が前に言った言葉が引っかかって言えなかったよ
うだと考えると、妻が気の毒に思えていたのだった。
「ちょっと、お客さんとの打ち合わせに出かけてくるから・・
しばらく戻れないかもしれないが、よろしく頼む。」
昼過ぎ、部下にそう言って、私は指定した喫茶店へ向かった。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)