そんなことを考えていたら部屋をノックする音が聞こえた。
もう昼か、と思って時計を見たらまだ9時にもなっていなかった。
「どうした。昼まで仕事すると言ったじゃないか、何のようだ」
鍵を開けずにドアごしにそうC子に叫ぶ。
「・・・ごめんなさい。いま、O君とそのお父さんが・・・」
「は?」
俺はドアの鍵を開け、C子に問いただした。
「Oとその親がどうしたって?」
「いま、見えられました」
「はぁ?!来たってこと?」
「・・・ええ」
俺は、ばたばたと居間へ向かった。
そこには、昨日のガキ・・・Oと体格の良い年配の男が居た。
年配の男は俺を見るなり、がばっと立ち上がって近づいてきた。
「このたびは愚息がとんでもないことをしでかしまして・・」
と突然その場で床に頭をこすりつけた。
唖然としてみているとOのほうも同じように横に座り、「すいませんでした!!」土下座した。
「と・・・とりあえず、頭を上げて座ってください。そうでないと話も出来ません」
もう完全に怒りもなにもかも萎えてしまった。溜息しか出ない。
とりあえず、二人を座らせて話を聞いた。
Oのほうに一通りの経緯や事情を聞いてみたものの、昨日C子から聞いたのと概ね同じだった。
相手の父親の居る前で聞くのも躊躇したが、避妊についてもきちんとしてたと言い、
俺が出張から帰ったら、関係をやめるつもりだった、とも言った。
・・・まあ、バレなかったら関係は続いてただろ、と俺は心の中で毒づいた。
「本当に馬鹿な息子でして、申し訳ありません。よりによって人様の奥様に手を出すなどと・・・」
Oの父は横に居るOをにらみつけながらそう唸った。
「息子がこんなことをしでかしておいて何を都合の良いと思われるでしょうが、なんとか示談で
話をつけてもらえないでしょうか?今回、示談金のほうも用意してまいりました」
「はぁ・・・」
なんというか、展開に置き去りにされつづける状況にどうでもよくなってきた。
「そして、まことに勝手なお願いですが奥様のお勤めになる○○には内密にしていただければと・・・」
「・・・」
このOの父の顔をどこかで見たことがあるなと思っていたが、その言葉で思い出した。
C子の努める○○の下請けの○○社の社長だ。
俺も派遣されていたとき、何度か見たことがあった。
下請けとはいえ、社員数百人規模のけっこう大きな工場を持つ会社だ。
詳しく話を聞くと、最近は○○での構内請負もやっているらしく、
次男のOも将来的に会社を手伝わせる為に、勉強の為○○に派遣していたらしい。
・・・まあ、そりゃ下請けの社長の息子が元請けの会社の既婚女性社員と関係を
持ったとわかれば、いろいろまずいわな。
最近では、外に出さない構内請負(まあ、9割が偽装請負だが)が大手電機メーカーの主流だし、
コスト的に構内請負に劣る下請工場を切る口実としては十分だ。
示談金として持ってきた金額は200万。
よく調べたわけではないが、こういった状況での金銭としては
決して少なくない額だと思う。
・・・ここらで手打ちしたほうが賢いのかな。
そう思いつつも、どうしてもなぁなぁで済ますわけにはいかないことがあった。
「・・・示談の件、もうひとつ条件があるのですが、息子さんを○○から引き上げて頂きたいのですが。
さすがに妻と同じ職場のままでは私も納得は出来ません」
「それはごもっともです。もちろん、もうこの馬鹿息子は○○から引き上げます。
こんなことがあったからには、私のほうもこいつをこっちへ置いておけませんし、
県外へ出すつもりでおります。」
・・・まあ、それもそうか。また元請け会社で同じことされたら慰謝料も
いくらあってもたりないだろう。
「わかりました。示談のほうお受けさせていただきます。この件については、
お互いにこれで忘れるということで。」
社長はその俺の言葉を聞くとOの頭を抑えつけながら、何度も謝って帰っていった。
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