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北原夏美 四十路 初裏無修正

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卒業 17

BJ 8/7(火) 18:31:32 No.20070807183132 削除

 赤嶺が出て行った後―――
 しばし私はその場に立ち尽くして、畳の上にしゃがみこんで動かない妻を見つめていました。
 目の前のうなだれた妻の姿が、私の選択したことの結果でした。
 先ほどの赤嶺の行為は、一足先にそれを私に思い知らせるためのものだったのではないか。あの男が真実何を考えているかなんてまるで分からないものの、私は頭の片隅でふとそう感じていました。
 無言のまま、私は畳に膝をつき、妻のもとに這い寄りました。
 妻の前髪は乱れて目元にかかっていましたが、それを払いのけることもせず、妻はぼんやりと座っていました。横向きに倒した膝の浴衣の裾が割れて、真白なふくらはぎが露わになっていました。
 まるで犯された後のような妻の様子があまりにも痛々しくてたまらなくなった私は、正面から妻の肩を引き寄せ、その身体を抱きしめました。
「ごめん・・・瑞希」
 妻の身体の小鳥のような軽さに今さら驚きながら、私は必死の想いで囁きました。
「本当にごめん・・・・」
 文字にすればわずか三文字のその言葉のあまりのかるさ。それに少しでも重みを加えるためにも、私は何度も繰り返しその謝罪の言葉を口にし続けることしか出来ませんでした。
 こうして胸に抱きしめている温かいものの存在は、こんなにも私の心を切なく締めつけずにおかないのに。
 どうして私は彼女を傷つけずにいられないのか。
 なぜこうも罪深い妄執から逃れられないのか。
 赤嶺ならきっと簡単に理屈づけるであろうその答えは、今もって私の中にありませんでした。
 ふと、胸に抱きしめた温かいものが動くのを感じました。
「瑞希―――」
 言いかけた私の唇は、妻の唇で塞がれました。
 驚いたはずみに身を離そうとした私の頸を、妻の腕が抱きしめていました。
 その力は普段の彼女にはありえないほど強く。
 本当に、強く。
 なぜかそのことが私の胸を激しく揺さぶって、気がつくと、私は涙を流していました。
 すっと妻の唇が離れ―――
 曇った私の目に、同じように目尻を涙で濡らしている妻が映りました。
 私は彼女に向かって何かを言いました。おそらくはもう一度、謝罪の言葉を。しかしそれはまともな言葉にならず、私は重くてたまらない頭をがっくりと妻の胸に預けました。

「いいんです。赤嶺さんも仰っていたとおり・・・もう決心はついているんです」
 頭上で妻の声がしました。それはたしかに母親が子供に言い聞かすような、すべてを許そうとする言葉でした。
 私は―――妻の胸から身を起こし、首を振りました。
「駄目だ。瑞希は、俺のことを、決して許さないでくれ」
「・・・許すも許さないもありませんよ」
 妻の涙はすでに乾いていましたが、黒曜石のような瞳の光沢がその名残を伝えていました。
「夫婦・・・なんですから」
 幼いうちに父母と死に別れ、引き取られた叔父夫妻ともあまり折り合いが良くなかったらしい妻が、「夫婦」という言葉にどんな気持ちをこめているのか―――、私にはよく分かりません。けれども、彼女にとって、私が夫らしい夫にはなりきれなかったということだけはたしかでした。
 そればかりか―――
「―――昼御飯まだでしょう? 外へ食べに行きませんか」
 さりげない口調で言って、妻はじっと私を見つめました。
 その唇が動きました。
「あなたが泣くところを初めて見ました」
「・・・・・・・」
「いつも、私ばっかり泣いているのに」
 そう言って―――
 なぜかそのとき、妻はかすかに口元をほころばせ、そして、私の胸はずきりと痛みました。

 ようやく普段着に着替え、宿を出た私たちは天橋立駅へ向かう道を並んで歩きました。
 昨日までの日傘の代わりに、妻の左手は私の右手を握り締めていました。
 駅の前まで来たとき、私たちは笛の音を聞きました。どこかで聞いたことのあるようなメロディーに誘われるように少しだけ出来た人だかりの向こうに目をやると、そこには南米風の民族衣装を着た演奏家らしい男がいて、笛を吹いていました。
 私はそのメロディーをやっと思い出しました。その曲は“コンドルは飛んでいく”でした。
 立ち止まった私に合わせて妻も足を停め、男が流暢に演奏する笛の音色に耳を澄ませていました。
 やがて“コンドルは飛んでいく”は終わり、男は新たな曲に取り掛かります。
 今度の曲もまた耳馴染みの、というより、私と妻にとっては生涯でもっとも思い出深い曲、“サウンド・オブ・サイレンス”でした。
「卒業・・・・・」
 妻の呟く声が聞こえました。


 『卒業』という映画があります。
 1967年に公開されたこの映画は、主演ダスティン・ホフマンの名を一躍有名にした青春映画の古典で、劇中で流れるサイモン&ガーファンクルの主題歌“サウンド・オブ・サイレンス”とともに、日本でも広く親しまれています。
 この『卒業』は私と妻が初めて一緒に観た映画でした。
 私たちは見合い結婚でした。恋人期間を経ずに結婚したこともあって、新婚当初からずいぶん長いこと、私たちはぎこちない関係を続けていました。これではいけない、と気持ちは焦っていたのですが、時間が経っても打ち解ける気配を見せない妻に、私は戸惑っていたのです。
 『卒業』を見たのは、ちょうどその頃、結婚して約半年経過したある休日のこと。私から、妻に「映画でも観に行かないか?」と誘ったのでした。
「どんな映画が観たい?」
 私が聞くと、妻は静かに情報雑誌を眺めていましたが、やがてその視線はあるページで留まりました。そのページに載っていたのが『卒業』で、公開何十周年記念とかいう名目のリバイバル上映でした。
 古い映画を観る趣味はなかったのですが、『卒業』の名前は知っていて、青春恋愛映画のクラシックだということも知識にはありました。
 少しだけ意外でした。その頃の妻は表情も身のこなしも物堅い一方で、青春にも恋愛にもまったく興味がなさそうな女性に見えていたからです。そんな私の気持ちが伝わったのか、妻はちょっと羞ずかしそうな顔になって、「やっぱり、別のもっと新しい映画でいいです。私はもう何回も観ていますから」と言い訳するように言いました。
「いや、これでいいよ。俺はこの映画を観たことがないし、君がそんなに好き映画なら興味あるから」
 私が言うと、妻は、
「別に、そんなに好きな映画というわけでもないんですけど・・・」
 と、よく分からないことをまた言いましたが、結局、外着に着替えるために立ち上がったのでした。

 『卒業』の主人公はダスティン・ホフマン演じる大学生ベンジャミンです。映画の冒頭で、彼は両親の友人であるロビンソン夫妻の妻、ミセス・ロビンソンと不倫関係に陥るのですが、その後、夫妻の娘エレーンと恋に落ちます。しかし、上述の不倫関係がやがてエレーンの知るところとなり、二人の関係は一度破綻を迎えます。
 けれど、ベンジャミンはエレーンのことを諦めきれず、今の感覚で言えばストーカーのようにも感じられるしつこさで、エレーンに追いすがります。そしてやってくる有名なクライマックス、ベンジャミンはエレーンが別の男と結婚式を挙げている教会に駆けつけ、彼女を奪って逃げるのです。
 映画の内容で一番私の記憶に残ったのは、エレーンとの関係が破綻を迎えて以後、数々の惨めな想いを味わってなお、ベンジャミンが彼女のことを追いかけていく場面でした。男の哀れさ、ここに極まれりといった表情で、私だったらあんなふうにプライドも何もかも投げ捨てて、一途になれるだろうか、と、意味もなく我が身を振り返ったりしました。

 その日、梅田の小劇場で『卒業』を観て後、私と妻は近くの喫茶店に入りました。
 相変わらず口の重い妻に、私は今見た映画の感想、つまり上記の内容ですが、そのことを一方的に喋りました。
「君はあの映画のどこが好きなの? もう何回も観ているんだろ?」
 語り終わって妻に訊ねると、彼女は首を振って、
「そんなに好きな映画というわけではないんです。でも、忘れられなくて」
「忘れられない、というのは?」
「私がたぶん生まれて初めてちゃんと観た映画だということもあるんですけど・・・昔から、あのラストシーンが凄く印象に残っているんです」
「ラストシーンっていうと、主人公とヒロインが一緒にバスに乗って駆け落ちするところ?」
「そうです。あのバスの中のシーンで二人は最初笑顔なんですけど、すぐに不安そうな表情になるんですよね。お互い視線もろくに合わせないし、なんだか心配そうな顔をして、二人とも別々のことを考えながら、これから先の未来を憂えているような雰囲気で・・・」
「そうだったかな」
 私は記憶を探りました。言われてみると、妻の語るとおりだった気がしました。それまで、私には単純なハッピーエンドのように思えていたのですが―――
「その場面がずっと忘れられなくて・・・哀しくなるから、もう観たくないと思うんですけど、また観てしまうんです」
 呟くように言った妻の声には、たしかに哀切な感情が滲んでいました。
 そのとき、私は結婚して初めて、妻という女性の内面に少しだけ触れた気がしました。それと同時に感じたのは、同じ人間で同じように暮らしていても、その目に映って見える世界はまったく違うものなんだ、という今さらながらの実感でした。

 
 ―――あのとき、自分が感じた漠然とした感傷を、今こうして笛の音で奏でられる“サウンド・オブ・サイレンス”を聴きながら、私は思いだしていました。
 傍らに立つ妻は、瞳を閉じて笛の音色に耳を傾けています。
 先ほど「卒業・・・・・」と呟いたとき、妻が何を想っていたのか。
 何を想いながら、今もあの哀しげなメロディーに耳を澄ましているのか。
 旅立った先でベンジャミンとエレーンの二人がどんな未来を迎えたのか分からないのと同じように、私には今の妻の気持ちが分かりません。
 分かっているのはただひとつ、私たちもまた旅立ちの時期を迎えようとしているということだけです。
 そして私たちがこれから卒業しようとしているのは、妻がこれまで必死に守ろうとしてきた平穏な日常そのものでした。
 すぐに時間は過ぎ去り、日は暮れ落ち、夜がやってきます。
 あの男の待つ夜に。
 私と妻は今、バスに揺られているのです。
 そして、静かな教会から妻を連れ出し、その手を引いて、彼女をバスに乗せたのは私でした。
 “サウンド・オブ・サイレンス”―――沈黙の音が、終わりを告げました。私は妻の手を握りしめた右手に少しだけ力をこめました。妻がうっすらと瞳を開けて、私を見ました。
「・・・行こうよ」
 小さく告げて、私は歩き出しました。

コメント

安っぽい表現ですね。自分の嫁を他の男に渡す旦那がどこにいる。なかなかいい話しないなあ。

ただ、冗長すぎな三流話しだね。

ホント難しく語ってるけどさぁ。。
「私は変態Mです」ってのをこんなかっこ良く言われてもねぇ。
そこに真実の愛があるみたいな書き方は気持ち悪い。
S&Gも気の毒だな。

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