和田 11/19(日) 08:44:36 No.20061119084436 削除
「いいか・・・絶対に法を破るなよ」
集金に行く従業員に、いつもと同じ言葉を吐く。
42歳になっていた私は、あれほど嫌っていた職業についていた。
「でも親父、あの野郎”自己破産するから返す必要ない”なんてほざくんですよ。もっと厳しい追い込みかけたほうが・・・」
それを聞いていた私が、鋭くそして、感情がないかのような視線を従業員の男に向け、一言言いました。
「俺の事を、2度と”親父”と呼ぶな」
「もっ、申し訳ありませんでした社長!」
私の言っている意味を理解した従業員の男は、青ざめた?いや、どちらかと言うと恐怖に怯えた顔になり、慌てて、頭を下げた。
「・・5時までに成果を見せろ。但し、違法行為なしでだ」
頭を下げ、出て行った従業員を確認した後、また、自分への嫌悪感が脳内を支配する。
(ホントハヨロコンデイルンダロ。アンナニイヤガッテイタシゴトヲシテイルノハ、オマエノガンボウダッタンダ。ホントハイマ、スベテヲシハイデキルコトニカイカンヲカンジテイルンダ。コノギゼンシャガ!!)
僕の心を見透かすように、悪魔が囁く。
違う、俺は望んでなんかない!!望んでなんか絶対無い!!
自分の思考をそこへ無理やり戻し、平静を保とうとする。
最近は、ずっとそれの繰り返しだった。
大学を卒業後すぐに、ここを任された。
22歳の若造が、いきなり社長になったのだ。
そこは、父が最初に起こした会社だった。
今で言う”闇金”で、そこから父は、会社を大きくし、”組”をも大きくしていった。
頭の隅で、あの時の前田の言葉が蘇る。
『この会社だけは、ぼっちゃんが引継いで下さい。それは、親父の要望でもあり、夢だったからです』
何年か前、めずらしく酒に酔った父が、こんな話をしたそうです。
「暁には、カタギで俺の会社を継いで欲しい」
親父の言う会社と言うのは、初めて起こした会社だけです。
何故かは今でも分かりませんが、私の思うに、ヤクザ家業を仕事と言うのが嫌だったんでしょう。
父は、どちらかと言うと、古いタイプの人間だったんだろうと思います。
しきりに、幼かった私に男の道と言うのを説いていました。
「男は、信じた道を歩け」
当たり前ですが、その当時の私にその意味を理解出来るはずもなく、ただたまに帰って来る父に甘ええていました。
「暁はな、私を恨んでいるだろう・・・口には出さないがな」
その時の事を、前田が話し出す。
「親父は、坊ちゃんの事を、深く愛しておられました。ですが、その坊ちゃんがある時から愛想笑いしかしなくなっていた事に親父は気付いたんです。」
私には、心当たりがあった。
それは、小学校4年生の時です。
一人、自分を除いたクラスメートが、ある事を話し出しました。
「00の父ちゃん”ヤクザ”だから遊ぶなって」
気が付いた時には、私は・・・その事を話していたクラスメートに飛び込んで手を上げていました。
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