和田 11/20(月) 22:47:58 No.20061120224758 削除
私は、ハンカチを受け取ると急に今までの醜態を見られていた事に気づき、恥ずかしさから顔を背けていました。
暫らく、無言の時間が過ぎて行きます。
「血・・・痛くない?」
「えっ!あ、ああ・・大丈夫です」
突然の彼女からの言葉に、無様に対応してしまいました。僕は、あの時から男子はもちろんの事、異性である女の子とまともに話した事がなかったのです。胸が張り裂けそうなほど緊張している自分になぜか少し、人間らしさを感じました。最近の僕にはなかった感情です。
「あっあの、君は・・・」
「私は、杉本静香です。南条東中の3年生・・・あなたは?」
「おっ俺は、一学3年で・・・・和田暁です・・・・」
なんとも不細工な自己紹介です。私は恥ずかしさから、彼女の顔すらまともに見ることができません。彼女も同様らしく、なんとも青臭い、きれいな言い方をすれば、初々しい2人でした。
「あの・・・ハンカチはあげます。遅くなると父が怒るから・・」
彼女の言葉で、別れる事を悟った私は自分でも驚くような言葉を投げかけていました。
「明日も会ってください!!ハンカチはその時返すから!!」
言ってしまって顔が赤くなっていくのが分かりました。しかし、今はどんな切っ掛けであってもいい、彼女との関わりが続くことだけしか頭にはなかった。
そんな必死な僕を見ていた彼女は、さっと顔を背け歩いて行ってしまった。
(ああ・・・今日会ったばかりなのに明日会いたいなんて言って変な奴と思われたんだ・・・)
この時ほど自分の勇気を呪った事はありません。偶然を装い、これから会う事が出来たかもしれないのに・・・・
ガックリと肩を落とし、うな垂れる僕、すると彼女の足が止まった。
「門限があるから、この時間は無理だけど、6時なら・・いいよ」
「わっ分かった!!明日の6時に待ってます!!」
彼女は照れているのか、そう言うと走って行ってしまいました。
私はその姿を呆然と見送っていました。ただ違う事があるとすれば、生まれて初めて味わうこの幸福感・高揚感に、不覚にもいつの間にか涙を流していました。
携帯が突然鳴り出した。
昔の事を思い出してうとうとしていた私は、着信の相手を確認すると大きく息を吸った。
「私だ」
「社長、長瀬です。奥様の件でお電話を・・・あのですね、こういった場合非常に申し上げにくいんですが・・・・・」
「前置きはいい!!結果だけを報告しろ」
「はっはい!黒でした。奥様、静香様は浮気をしていると見て間違いありません!」
「・・・そうか・・・社に戻ったら報告書を提出しろ」
「分かりました」
体から力が抜けていく・・・胸は、絶望感で見る見るうちに埋め尽くされ恥ずかしい事に震えだす始末だ。
可笑しな事に、怒りという感情はなかった。それはただ、妻の浮気を知っただけで、経緯を知らないからかもしれない。
両手で顔を覆う。
(静香・・・・嘘だよな?・・・何かの間違いだよな?)
その時の私は、受け入れがたい現実に苦しんでいました。
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