和田 11/28(火) 18:42:26 No.20061128184226 削除
「静香、それってお母さんか”静香にお義父さんを取られた”って思ってるんじゃない?」
「えっ?」
「だって、普通娘に”泥棒猫”なんて言う親はいないよ」
初めは、私の言うことが理解できなかっただろう彼女の顔から、だんだん血の気が引いていった。
「嘘・・・お母さん・・・そんな事・・・・」
とうとう彼女は、声を上げて泣き出してしまった。9月とはいえ、そろそろ日が傾きかけているこの時間帯だ、周りから見れば、私が酷い事をしたと思われるだろう。
私は、顔を覆い泣きじゃくる静香を落ち着かせようとあたふたしていた。根気強く”落ち着いて”と話、彼女が平静さを取り戻した時には違った汗でTシャツはビッショッリだった。
「ごめんね・・・・私、お母さんの気持ちも解らないで・・・・そのせいでお母さんを苦しめていたなんて・・・・・それ考えたら急に悲しくなって・・・・」
「いいんだ。静香の真っ直ぐな気持ちを伝えれば、お母さんだってきっと解ってくれるよ」
「うん。私、お母さんに話してみる。私とお義父さんはなんでもないって・・・・でも、それも変な話ね」
と言って、最後には笑顔を見せた静香に見惚れてしまった
それから僕らは、中学を卒業するまでこの公園で会っていた。毎日とまでは行かなかったが、お互いに電話番号を交換して会えない時でも電話での”逢瀬”は続いていた。
高校へは、2人で相談して、隣町の高校に決めた。
それは彼女の提案で、誰も私の事を知らない場所で、もう一度学園生活を楽しんで欲しいと言うのだ。私は”心から震える”と言う言葉をテレビで見たことがあるが、あの時の私は、まさにその言葉道理そのままの状態でした。生まれてきて一番の言葉、愛情を一番大好きな彼女に言われたあの瞬間が、私の人生の中で、幸せの”ピーク”でした。
それからの3年間、私は静香と高校生活をエンジョイしました。初めはなかなか友達もできませんでしたが、それも時間の問題で、一人、また一人と、この3年間で多くの友人ができました。やはり、その輪の中にはいつも静香がいました。
静香を狙う奴も多く、何人か告白をしたと聞いた時は、正直気が気ではありませんでした。しかし静香は、誰とも付き合う事はなく、彼氏でも何でもない私の傍にいつでもいてくれました。
そんな私が、静香に始めて愛を伝えた、いや、変な話、私は告白をする前にプロポーズをしてしまったのです。
それは、大学の合格発表の日でした。
二人とも同じ大学、同じ経済学部に入ることができ、一足早く、二人だけの合格祝いをしようと、懐かしのあの公園に静香を誘いました。彼女は二つ返事でうれしそうに頷くと私の手を握ってくれました。
恥ずかしい話、その時が静香と初めて手を握った瞬間でした。
もう僕の心は決まっていました。公園に着くなり緊張で声も出ない私が気分でも悪くなった勘違いした彼女はしきりに”大丈夫?”と聞いてきます。僕は意を決し、静香の顔を見つめ、今までの気持ちを伝えました。そして、最後にあの言葉を、
「大学を卒業したら、結婚してください」と。
彼女は静香にこう言いました。
「はい」と。
コンコン。
ドアをノックする音を聞き、「入れ」と一言。
入ってきたのは、妻の身辺調査をさせていた長瀬だった。
「社長、報告書です」
私は長瀬から、それを受け取ると、長瀬に下がるように言い、ドアが閉まった後で報告書の中身を見る。
ページを飛ばし、憎きおとこの身元の欄を見る。これからコイツをどうしてやろうかと、沸々とこみ上げてくる怒りを抑え私の目に飛び込んで来たのは、絶望と衝撃でした。
体中と言わず全ての血液が一気に下がりました。私が、心臓疾患の患者ならその名前を見た瞬間にあの世行きでしょう。
”杉本順二”・・・・・間違うはずもありません。義父です。
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