修司 5/3(日) 01:30:10 No.20090503013010 削除
妻は焦点の合わない視線を向け、しばらく沈黙していましたが重い口を開き始めます。
「貴方から変な電話があったと聞いた時に彼からだと思いました。
私には貴方が必要だし、別の男の人には興味を持った事もなかった。
だから部下の一人としか意識していなかったんだけど・・・
でも仕事も出来るのに妙に私を立ててくれるし、したってくれるの。
男として意識をした訳じゃないけど好感は持ってたわ」
「それからズルズルか」
「そんな事ない」
この時ばかりは、きっぱりと答えたのです。
「・・・・彼は年下だし、私にとっては部下の一人でしかなかった・・・・でも飲み会なんかの時は何時も隣に座って私みたいな人と結婚したいなんて言うの・・・・
そんなのが続いて意識するようになってしまって・・・・」
それでも身体の関係については話しません。
「同じ部屋に泊まったんだから男と女の関係だよな」
「・・・・・・・・・」
俯いたまま口を閉ざしてしまいました。
「ここへ来てもらおう。呼んでくれないか」
妻の携帯を取り上げ、まずは履歴を見ていましたが分りません。
それでも慌てたようです。
「お願い。やめてっ!彼がここに来たってどうなるって言うの」
「それならそれでいい。どれが男の番号だ?面倒だ。お前が掛けろ。
男を呼ばないのならこれまでだな」
私の気迫に押され携帯を繋げたようです。私は取り上げて耳にあてました。
「こんな時間に珍しいですね。旦那、まだ帰っていないんですか?」
「その旦那だよ」
「あぁ、ご主人ですか。何か御用ですか?」
驚いた様子でもなく、ふてぶてしい声が聞こえてきます。
「これから家に来てくれ。要件は分ってるな。好きな課長の家だから場所は知ってるんだろう?」
「えぇ、知ってますよ。それじゃぁ、これからお邪魔しますか。車を停める所は空いていますかね?」
【何が車を停める所だ】
私の言葉に動じる訳でもなく、淡々と話してくる相手に不気味さを感じてしまいます。
それから、そう経たないでやって来たのには驚きました。
「あいつはこの辺に住んでいるのか?」
「・・・・・・・・・・・」
答えようとしない妻に、理解したものです。
「まさか、ここに入れてはいないだろう?」
「・・・・・何度かは・・・・」
「ここで寝たのか?」
「・・・・そんな事は・・・・」
「ふざけるなっ!馬鹿にするにも程があるぜ。ここで何をしたのか聞いてみる。
もしも・・・・許さないからな」
妻を促し部屋からロックを解除し、上がってくるように促しました。
部屋に入って来た男は悪びれもせず入って来ました。
「こんなに早く逢えると思ってなかったですよ。楽しい旅行でしたね」
私を無視して笑みを浮かべ妻に話し掛けるのです。
このふてぶてしい男の意図を知らなければならないと思い、じっと二人を観察しました。
俯いたまま妻は何も語りませんが、その態度が二人の関係を物語っているのでしょう。
緊張に身体を固めたまま、たまに此方の様子を伺うように一瞬視線を向けます。
男に返答しないのは、何かを口にすれば全てを知られてしまうと思うからなのでしょうが、もう遅いのです。
妻は私との絶縁を望んでいないなら、冒険のし過ぎたとしか言えません。
一瞬のアバンチュールを楽しんでいたとは言わせません。
「僕はよかったと思うんだ。だって課長だって望んでいたじゃないですか。
何時も二人だけの時は、この時間がずっと続けばいいって言っていたでしょう。
この機会にはっきりしましょうや」
私の事なんか眼中にないように妻に語りかけています。
「なぁ、君も社会人だろう?そんな話をする前に言うことかあるんじゃないのか?」
さすがに焦れて言葉を挟んでしまいました。
「僕たちの間に貴方は邪魔なだけなんですよ。それをはっきりとしなければ次に進めません」
悪びれずに私から視線を離しもしないで言い切る男に覚悟を垣間見た気がします。
これは深い関係を結んでいるから出来る芸当で、妻を持ち去る自信があるのでしょう。
妻に目を遣ると、俯きながらも握られた両手に青筋が立っています。
「課長、僕と暮らそう。会社を辞めたって仕事は困らないし金の心配もさせない」
この舐め切った態度に切れそうになった時、妻が先に声を出しました。
「人の家に来て馬鹿言ってるんじゃないわよ。何故来たの。私は家庭を壊さないって言ったでしょう。帰って。直ぐ帰ってっ!」
強い口調ですが、出来レースの様に思えてしまいます。
これ以上、関係の深さを知られたくなくて言っている気がするのです。
「呼んだのは俺だし、帰ってもらったら困るんだ。知りたい事が山ほどある。
石川君。妻と肉体関係を持っているのだろう?何時からなんだい?」
余りにも端的な質問に妻が私を凝視した後、男に縋るような視線を向けました。
これ以上は言ってくれるなと訴えているのでしょう。
しかし、男はそんな気持ちを無視して話したのです。
「もう一年になりますよ。かなり前から、ご主人は夜のほうは拒否されていたでしょう?
貴方に抱かれる課長を想像しただけで堪らない気持ちになってしまうんで、僕がお願いしたんです。
その分、代わりに満足させていましたからね。それほど愛してるんです。
最初は関係を持てるだけで満足していましたが、今は一緒になりたいと思っています。
母を早くに亡くしたせいか、年上の女性にしか関心を持てないんですよ。
僕にとって課長は理想なんです。年上だし何処に出しても恥ずかしくない容姿をしている。
そんな課長がたまたま結婚していた。だけど、ご主人。好きになってしまったものはしょうがないじゃないですか。
離婚してくれるように頼んでも、いい返事をしてくれないから、あんな電話を掛けてしまいました。
あれは済まない事をしたと思っています。男として格好悪いでしたね。課長にもコッテリ絞られましたしね」
本当に悪びれない男です。肝が据わっていると言うより、非常識な人間です。
殴りつけたい衝動を抑えて、冷静さを保つのに努力が要りました。
「此処で関係した事はあるかい?」
この質問をした時に、妻が悲鳴に近い声を上げました。
「やめて。もうやめてっ!お願いだから、これ以上は言わないでっ!」
わなわな身体を震わせる姿に、男が優しく声を掛けます。
「何時かは乗り越えなければならない壁なんです。そうしないと前に進めないじゃないですか。
はっきりさせる時期が来たんですよ。責任は僕が全部取りますから任せて欲しいです」
「責任を取るって何を取るのよっ!私はこの人と別れないって言ってるじゃないの。
それを如何取れるって言うのっ!」
これほど激情した妻を見るのは初めてです。
さすがに男も表情を強張らせましたが、それも一時で私の質問に答えたのです。
「お宅でのセックスは僕も抵抗がありましたが我慢できなくなってしまったんです。
課長は抵抗しましたが無理矢理に・・・課長には申し訳ないと思っています」
「・・・・お願い・・・もうやめて・・・もう話さないで・・・・」
男は妻に対して申し訳ないと言い、妻も男に話すなと言っています。
此処に私の存在はありません。何とも言えない焦燥を感じていました。
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