修司 6/16(火) 21:03:15 No.20090616210315 削除
仕事が終わりホテルの部屋に入ってバッグを開けると、色々な日常品を忘れてきてるのでした。
何時も出張の用意は妻がしてくれていたので、細かなところに気が回らなかったのです。
近くのコンビニに買いに行き、ついでに食べ物もと思いましたが食欲をそそる物がありません。
【初日くらいホテルで食うか】
そう思いつつも誘惑が騒ぎ出し、ホテルに帰る途中で電話を掛けてしまいました。
「今、何処にいるの?よかったら飯でも付き合わない?」
「帰る途中なのよ。迎えに来てくれるなら付き合ってもいいわよ」
相手は里美です。以外と近くにいたので車を出して迎えに行く約束をしたのです。
少し走らせると、約束した場所に立っているのが見えました。
「急に悪かった。約束はなかったの?」
「何もないわよ。こんなおばさん、誰も誘ってくれないし」
「そんな事ないさ。僕が誘ったじゃないか」
「あら、そうね。私も捨てたものじゃないのかしら」
二人で声を出して笑いました。
何処か行きたい店がないかと聞くと郊外に洒落た店があり、気にしていたけれど一人じゃ入り難いから行っていないと言います。
「あそこに行ってみたいわ」
小さなレストランは、彼女好みの上品な店で駐車場は何台かの車が停まっています。
中も外装と同じく洒落ていて居心地がよく私も気に入りましたし、出された料理も美味しく車で来ていなければワインでも飲みたい心境です。雑談をしながら楽しい時間を過ごし、帰ろうかと思っていると痛い事を聞いてきました。
「何かあったのね?奥さんの事でしょう。やっぱり浮気してたの?」
私は暗くならないように答えなければなりません。
「うん。遣られたよ。しばらくホテル暮らしだ。金が掛かるから、そのうち何処かへ転がり込むかもな」
「それって私のところ?ひょっとして別れるつもりなの?」
「分らないが、そうなるかな。でも自分の気持ちに整理が付かなくて、浮気されたのに悔しい気持ちも何処か遠くに置いてきた感じなんだ」
「気持ちの中を見ないようにしているんじゃない?愛していれば浮気されて何も感じないなんてないわ。
修司さん、プライドが高いから傷付いている自分を認めたくないんでしょう?」
触られたくないところを突かれました。その通りなのです。自分で気持に蓋をして気取っているのです。
「・・・そうだね。認めたくないんだよ。あいつが浮気するなんて思っても見なかったから・・・」
「こらっ、あの時の私の気持ちがわかったか」
悪戯っぽく笑い、舌をぺろっと出した表情が何とも可愛い。
「しょげていたって、しょうがないわ。男なら逃げないで立ち向かえ」
女に励まされるんだから私も大した男ではありません。
「そうだね。気持に整理が付いたら、ちゃんと話し合うよ」
里美を送り届け帰ろうとすると遠慮がちな声がしました。
「寄って行かない?」
「今日はホテルに泊まる。払ったお金が勿体ないしね」
「そう。あのね、私の所は何時来てもいいから。外食ばかりだと身体に悪いわ。
ちゃんとしたもの作ってあげるから、遠慮なく来て。何なら一緒に住んだっていいのよ」
また悪戯っぽく笑うのでしたが、車を降りたい誘惑に抵抗してホテルへと向かいました。
家を出て三日位経ったころから、日に何通も妻からのメールが届くのです。
【ちゃんと食事はしてるか】と母親みたいなものから【傷つけてしまって、ごめんなさい】【許して欲しい】
【早く帰って】等、同じような内容で食傷ぎみで返信は一度もしませんでした。
私も一人で居ると色々考えるものです。悔しさも怒りの感情も湧いて来ていますが、何か落ち着いた気持ちでいるのが不思議でした。
これ以上のホテル暮らしは金が続かないなと思い、一旦帰ろうと退社後に駐車場に行くと車の横に妻が立っているのです。
同僚や部下達に冷やかされるのには閉口しました。
「今日はデートですか?」
「綺麗な奥さんですね。もしかして愛人じゃないですよね?」
勝手な事を言って帰って行きます。
「如何した?会社は大丈夫なのか?」
少し見ない間に、随分とやつれてしまったようです。
「大丈夫。有給を取ってるから・・・・迎えに来たのよ・・・帰りましょう」
「俺も、そのつもりだった」
一瞬、妻の表情が明るくなりましたが、私の固い雰囲気に何か感じたのでしょうか。
手を握ってきて、グッと力を入れてきました。
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