弱い鬼 10/7(土) 07:21:23 No.20061007072123
私は殴り掛かれなかった情けなさを隠す為、冷静な振りを装います。
「話って何だ?慰謝料の話しか?」
「慰謝料?余程金が欲しいとみえるな。金などいつでもくれてやるが、その前にちゃんと離婚してもらわないと」
私の子供だった事で諦めたと思っていましたが、彼はまだその事を知らないのかと思いました。
「聞いていないのか?子供は俺の子供だったのだぞ」
「それがどうした?離婚するかしないかでは、慰謝料の額も変わってくる。俺は離婚した時の金額を払うつもりだから、早く離婚してくれよ」
「それがどうしたって、子供はお前の子では無かったのだぞ」
彼は自分の子供ではなかったと知っても、まだ妻をまだ諦めていなかったのです。
「俺も最初聞いた時には耳を疑い落胆もした。しかしすぐに、そんな事は問題では無いと気付いた。たまたま子供がいなかっただけで、例え優が5人の子供の母親だったとしてもプロポーズしていた。父親が誰であろうと、優の子供なら我が子も同然だ。俺の優に対する愛は、そんなちっぽけな物では無い」
例えそれが歪んでいても、彼の妻に対する愛は深いと知りました。
私には他人の子供を育てる自信はありません。
今は自分の子供にさえ、愛情を持てないでいるのです。
しかしそれは、裏切られた事が大きく影響しているとも思いましたが、妻が私と付き合い結婚した時、それが彼の一方的な愛だったにしても、彼も裏切られた気持ちで一杯だった事でしょう。
しかし彼は、ずっと妻を諦められないでいた。
彼は妻の子供なら、自分の子の様に育てられると言っているのです。
『優香と付き合っていた頃、突然俺ではなくて奴と結婚していたら、俺は諦めずに変わらぬ愛を持ち続けていただろうか?』
私は妻に対する愛において、彼に劣っているのではないかとさえ思いましたが、そうかと言って引き下がれるものではありません。
「お前はそうでも、優香はお前との再婚を望んでいない。優香はお前を愛してはいない。抱かれてしまったのもお前を哀れに思っただけで、その後お腹の子供の父親だと勘違いしてしまい、お前を愛した訳ではなくて子供の父親が欲しかっただけだ」
「いや違う。優は本当の自分に気付いていないだけだ。何百人もの女を抱いてきた俺には、肌を合わせれば奥底に隠された気持ちまでよく分かる。口では愛していると言いながら、俺ではなくて俺の持っているお金を愛していた女。好きだと言いながら、社長婦人という肩書きが欲しかっただけの女。他にも俺とのセックスに溺れていただけの女。俺を愛しているのは本当でも、俺の上辺だけを愛していた女。色々な女と付き合ったが、思っていた通り優は他の女とは全く違っていた。優とのセックスは、今までの女とは全然違った。最初の内こそ羞恥心が邪魔していたが、あんなに感じてくれる女はいなかった。あんなに激しく、心から感じてくれる女は優だけだった」
私の脳裏に、妻と彼の壮絶なセックスが浮かんで来ます。
「やはり優は、俺を愛してくれていた。優は優しい女だから、あんたに悪いと思う気持が邪魔をして、自分の気持ちに封をしてしまっているだけだ。罪悪感から、自分の気持ちに気付こうとしないだけだ」
これは彼の思い込みかも知れませんが、セックスの経験の乏しい私には、この事についての反論は出来ませんでした。
「勝手な事ばかり言うな!何を言われても俺達は離婚しない」
「往生際の悪い奴だ。優は俺を愛している。生まれたままの姿になって全てを曝け出し、何もかも忘れて感じてしまっている時に、本当の自分が出るものだ。優ほど激しく俺を求めた女はいない」
「話にならん。勝手にそう思い込んでろ」
「そうか。これ以上優を悲しませたくないから、あんたが黙って引き下がってくれる事を望んだが、それなら仕方が無い」
「何の事だ!」
「自分の胸に手を当てて考えろ。いくら優の愛が俺に移ったからって、なにも智美と」
顔から血の気が引いて行くのが、自分でも分かりました。
『妹との事を知っている?いや、そんなはずが無い。俺を見張っていたか何かで、妹が家に泊まった事を知っているだけだ』
その時彼は立ち上がり、大きくカーテンを開けました。
『まさか!』
ベランダには二枚のパンティーが乾してあり、一枚は白いTバックで、もう一枚は赤くて小さな物です。
『間違いない。あの赤いのは妹の・・・・・。それに、家に来た時、妹は確かTバックを・・・・・・・』
「智ちゃんもいっしょにー。智ちゃんも逝ってくれーか?」
彼はその下着を眺めながら、そう呟きました。
『奴は私が口にしてしまった言葉まで知っている。盗聴器?それなら、あの下着は何だ?妹は奴に話した。だとすると、妹は奴と?』
私の思考回路は、完全に混乱していました
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)