弱い鬼 10/9(月) 13:11:04 No.20061009131104
家に着くと後悔は増し、眠る事など出来ません。
『これは奴の仕組んだ事かも知れない。しかし俺が妹を抱いた事に変わりない。優香に裏切られて寂しかったのもあったが、その様な事は旦那には何の関係も無い。俺は何と言う事を・・・・・・』
私は選択に迫られていました。
私と離婚しても妻が彼と再婚するとは限らないので、彼の要求を飲んで離婚する。
これは何か勝算があって私に要求した恐れがあり、妻と彼が子供と手を繋ぎ、仲良く3人で歩いている姿が浮かんで来て出来ません。
妹に頼んで、今回の事を否定してもらう。
これは妹次第で、妹が脅されていて私と関係をもったとすれば、聞き入れてくれるはずがありません。
彼や妹が何を言おうと、見に覚えが無いと言って否定し続ける。
これは何か証拠を握られていた場合、余計不利になってしまいます。
私はこれら逃げる事ばかり考えていましたが、妹の旦那への罪悪感もあって、出来そうにないと思うようになっていきます。
このまま放っておいて、成り行きに任せる。
これは怖くて出来そうにありません。
先が見えない事が、怖くて仕方ないのです。
結局私の出した答えは、例え旦那に殴られようと、義両親にどう思われようと、正直に話すことでした。
しかしこれも、私が誠実な男という訳ではありません。
いつ、どの様な事でばれるかも知れない事を、ずっと隠し通して生活する自信がないのです。
このままだと、気の弱い私は一生脅えながら暮らすでしょう。
これからは休まなければならない日も多くなると思い、日曜に出社した私でしたが、早くも翌日に休みをとって車を走らせましたが、途中で妹の旦那は会社に行っている時間だと気付きました。
私はその様な事も分からないほど動揺していたのです。
真っ先に旦那に謝ろうと思っていた私でしたが、仕方なく先に妻の実家に向かう事にしました。
「すまん。娘を許してやってくれ」
玄関に出てきた義父は私の顔を見るなり土下座してそう言い、その声を聞いて出てきた義母も声を出して泣きながら、並んで土下座して額を床に擦り付けていました。
「あなた!」
久し振りに見る妻は、バリバリのキャリアウーマンだった颯爽とした姿は陰を潜め、可也やつれて見えます。
「何を突っ立っている!この馬鹿娘が」
義父は呆然と立ち尽くす妻の髪を掴み、頭を床に押さえつけました。
「ごめんなさい。あなた、ごめんなさい」
しかし私は、この後起こる事を考えると、怒りを表す事すら出来ません。
それどころか、自分の事をどの様に切り出せば良いのかばかりを考えていました。
「話があって来た」
「こんな所では何ですから、どうぞ上がって下さい」
裸足のまま下りて来た義母に、腕を引かれて奥の部屋に通されると、そこにはベビーベッドが置いてあり、中には元気そうな赤ちゃんが寝かされていました。
「見てあげて」
義母は私に子供を見させ、何とか考えを変えさせようと必死だったのです。
「あなたの子供よ。あなたと優香の子供よ」
私が小さな小さな掌に指を一本当てると、強い力で握ってきます。
『これが俺の子供か?俺の息子なのか?』
その時息子が笑ったように見えました。
私は目頭が熱くなり、涙が毀れそうになりましたが意地でも泣けません。
「ただいまー。お姉ちゃんどうしたの!こんな所でどうしたの!」
その時玄関の方から、妹の叫ぶ声が聞えました。
「智ちゃん?」
すると義母が、小さな声で呟きました。
「子供達を学校に送り出して・・・・帰って来たの」
「えっ?」
「あなた達には言わなかったけれど・・・・・・・・・・」
消え入りそうな声で話す義母によると、半年ほど前に妹の旦那が人妻と浮気したのが発覚し、怒った妹は実家に帰り、朝子供達が学校に行くまでと、夜眠るまでの間戻るだけで、あとは嫁ぎ先の義母が子供達の世話をしているそうです。
「智ちゃん、話がある」
「お義兄さん!」
玄関に戻って、何も言わずに泣き伏している妻を宥める妹に声を掛けると、妹は驚いた顔をした後、小さく頷きました。
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