弱い鬼 10/19(木) 06:34:59 No.20061019063459
次の木曜日、私が会社から帰って鍵を開けていると電話が鳴りだしたので、妻かと思って急いで家に入って出るとそれは明でした。
「ご無沙汰。智美から聞いたが、やっと離婚届けに署名したらしいな」
「まだ妹を追い掛け回しているのか?」
「いや、電話で聞いただけでもう会ってはいない。今の俺は優香一筋だから」
おそらく私と妻の仲が崩壊寸前なのを知り、チャンスがあると思った彼は妻に嫌われないように身の回りを綺麗にしたか、または妻に頼まれて別れたのでしょう。
「早速だが、慰謝料として一千万払おうと思う。俺は人が良いから、他所の家庭を壊して黙って放ってはおけない。まあ壊したと言っても、本来の有るべき姿に戻してやっただけだが。別れる事が出切るという事は、所詮それだけの関係でしか無かったという事だ」
私が何も言わなくても、わざわざ彼から慰謝料の事を言ってくるのは、おそらく妻に誠意のある男だと思わせたいからなのでしょう。
「慰謝料か。そうだな。君江さんの借金はいくらある?」
「俺が全て肩代わりしてやると言うのに断わって、貯金はおろか保険まで全て解約して払ったらしいから、足りない5百万を貸してやっただけだ。金のない奴は悲しいよな。たったの5百万で、今まで旦那にしか見せた事のない恥ずかしいところを、自分で開いて見せなければならない」
「それなら慰謝料は、その5百万と一千万を合わせた一千五百万だ」
「おいおい。裁判をすれば、3百万が良いところだぞ。それを、優の価値が他の女と同じだと思われると嫌だから、一千万払ってやると言っているのに」
「もう5百万円分ぐらいは、君江さんを好きにしただろ。それに優香の価値は、5百万を渋る程度なのか」
私はその様な事を聞き入れるとは思っていませんでした。
ただ、彼の言い成りの金額で決着を付けるのが、気に入らなかっただけなのです。
しかし彼は余程お金を持っているのか、すんなりとその条件を飲みます。
「まあいいか。これであんたの顔を見ないで済むと思ったら安いもんだ」
「お互いにな」
私が彼を見ると妻と絡んでいる姿を想像してしまって怒りを覚えるのと同じで、彼も私に対して同じ様な思いがあるのかも知れません。
「明日にでも君江に借用書は返して、朝一に一千万は振り込むから、もう優には付き纏うな」
「付き纏うなか。その一千万は振り込まずに、借用書と一緒に君江さんに渡してやってくれ」
「やはり君江に惚れたな?」
私は一瞬、言葉に詰まりました。
「図星か。こうなるような気がしていたよ」
彼の狙いは、これだったのかも知れません。
妻との仲が上手くいかず、自棄になっていたところに君江さんのような女性が現れれば。
それも妹と関係を持ってしまった事で、罪悪感が薄れていた時に。
心身ともに寂しくなっていたところに、その両方を満たしてくれる女性が来れば。
妻が来てから、彼の目的は私が他の女性に気が移ったと、妻に思わせる事だと思っていましたがそうではなく、私の気持ちを妻から引き離すのが本当の目的だったのかも知れないと思いました。
しかしこの時の私には、その様な事はどうでも良かったのです。
「彼女はいい女だ。性格もいいし、料理も上手くて家庭的だ。何と言っても美人だし、オッパイも大きい。何より彼女はセックスが上手い。俗に言う床上手だ。彼女がもう10歳若ければ、俺も彼女に惚れていたかも知れない。そうそう、彼女は単にセックスが上手いだけではなくて、良いオマンコを持っているだろ?入れただけで絡み付いてくるし、逝く前は凄い力で締め付けてくる」
この時私は、妻が抱かれていたと知った時と同じような怒りを覚えました。
「君江もあんたの事が満更でもないようだし、せいぜい可愛がってやってくれ。優の事は心配しなくてもいいぞ。あんたが君江を可愛がる以上に、俺が沢山可愛がってやるから」
私は聞いていられずに、一方的に受話器を置きました。
『今週も彼女は来てくれるだろうか?』
私は妻の事を考えるのが嫌で、君江さんの事を考えようとしていました。
私が彼女にお金の工面をしたのはただの同情だけでなく、彼女と縁を切りたくないという下心もあったのです。
『これで自由になった彼女は、もう私の所には来ないかも知れない。いや、そんな女じゃない。君江さんは、助けてもらって何も言ってこないような女じゃない』
少し不安になりながらも翌日の私は、明日の土曜日に来てくれる事を心待ちにして、酒も飲まずに家に帰ると玄関に彼女の姿がありました。
「どうした?もう来なくてもいいのに」
私が良い男を演じて心にも無い事を言うと、彼女は泣きながら抱き付いてきたので、私も抱き締めて家の中に入りました。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)