WR 1/10(水) 18:33:29 No.20070110183329
妻が2人の生徒と一緒に旅行に出かけるのは5月3日から5日までの2泊3日です。旅行の前日である2日の火曜日の夜に私が帰宅したら、妻の生徒である村瀬真一という青年と、兵頭久美という娘が妻と一緒に待っていました。出発前にぜひ私に一度ご挨拶をしたいということでした。
「このたびは渡辺先生にお世話になります。それと、宿泊料のこと、ありがとうございました。ご主人にぜひご挨拶とお礼がしたくて伺いました」
2人が声を合わせて挨拶します。2人ともいかにもR大の学生らしい、良家の子女といったタイプです。村瀬という青年はひょろりと背が高く、黒縁の眼鏡をかけた真面目そうな雰囲気で、久美という娘はさほど長身ではない妻よりも小柄で、人形のような顔立ちをしています。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。しかし、若い人2人の旅におばさん一人が同行じゃ、お邪魔じゃないのかな」
「渡辺先生はおばさんなんかじゃありません。素敵な女性だと思います」
村瀬が真剣な表情でそう言ったので、私は少し驚きました。
「そうかい? ありがとう。古女房を褒められるのは悪い気分じゃない」
私が冗談めかして答えると、村瀬は黙って顔を伏せました。
「村瀬君ったら、渡辺先生の熱狂的なファンなんです」
久美が悪戯っぽい笑みを浮かべながら少し大きな声で口を挟みます。
「だから、今度の旅行はすごく楽しみみたいで……私、お邪魔じゃないかと心配しているんですよ」
「久美さんったら、こんなおばさんをからかうもんじゃないわ」
妻は顔を赤くして久美をたしなめますが、まんざら悪い気分でもないようです。
「だけど、私もそう思いますわ。渡辺先生って女優の、なんていったかしら……そう、名取裕子にそっくりでとても綺麗です。村瀬君が夢中になるのも無理はないと思うわ」
「名取裕子か。お世辞でも嬉しいね。それじゃあ香澄が行く温泉では殺人事件でもおきそうだな」
「ご主人、それは名取裕子じゃなくて片平なぎさです」
久美が笑いながら訂正します。
「でも殺人事件はともかく、何か事件が起こるかもしれないわね……村瀬君と渡辺先生との間で」
「久美さん、いい加減にしなさい」
さすがに妻は久美を強くたしなめます。
「ごめんなさい……でもご主人、安心して。私がしっかり見張っていますわ。村瀬君が湯上りの先生の色香に迷って悪さをしないように」
「ほんとにもう、久美さんったら、冗談が過ぎますわ」
久美という娘は見かけによらずかなり奔放な性格のようです。村瀬はじっと黙って、時折ちらちらと妻の方を眺めています。
「あまりご主人を心配させてはいけないわね。それじゃあ、これで私たち失礼します。村瀬君、帰るわよ」
「あ、ああ……」
最後に2人は私と妻にぺこりと頭を下げます。
「遅いから、駅まで車で送るわ」
「あら、ご主人が帰ってきているのに悪いです。歩いていきますわ」
「そんなことを言わないで……何かあったら親御さんに申し訳が立たないわ。あなた、少し待っていてください」
「ああ、行っておいで」
妻は車に2人を乗せると、駅に向かって走らせます。私が風呂に入り、ちょうど出た頃に妻が帰ってきました。
「すみませんでした。すぐ夕食の用意をしますわ。しばらくこれでビールを飲んでいてください」
妻がいくつかの小鉢につまみを出し、グラスにビールを注ぐとキッチンに向かいます。
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