WR 1/10(水) 18:35:59 No.20070110183559
(ごめんなさい……慌てて取ったもので……)
「妙に息が荒いが、どうかしたのか」
(ああ……く、久美さんと露天風呂に入っていて、今上がったところなんです。電話が鳴っているのが聞こえたから、画面もみないで取ってしまって……)
「そうか」
すると妻と久美さんは裸ということか、と私は生々しい想像をしました。
「まあいい、そちらは何か変わったことはないか」
(いえ……あ、ありません)
「人様の家の大事なお子さんを預かっているんだ。事故がないように注意するんだぞ」
(わかっていますわ……あ……)
妻が電話の向こうで誰かと小声で話す気配がありました。
「どうした?」
(久美さんが……あなたとお話がしたいって……)
「え?」
(い、今、代わりますわ)
妻は私の返事も聞かずに電話を代わりました。いきなり久美さんの明るい声が飛び込んできました。
(おじさま、久美です)
「ああ……」
(渡辺先生……いえ、奥様をお借りしてごめんなさい)
「いや……君達こそ家内に付き合ってくれてありがとう」
(奥様がお留守だと家でお一人なんでしょう? お寂しいんじゃないですか)
「そんな年じゃないよ」
(奥様はしっかり私がお守りして、無事にお返ししますからご安心なさってください。それじゃあ、お休みなさい)
「あ、ああ、お休み……」
私の返事が終わるや否や電話は切れました。
(なんだか賑やかな子だな)
携帯を置いた私は首を捻ります。私は盃に残った酒を飲み干し、もう一杯注ぎます。
(香澄もたまには羽目を外すと良い気分転換になるだろう。子供たちが家を出てから沈んでいたからな)
私はそんなことを考えながら2杯目の酒に口をつけました。伊豆の旅館でどのような光景が繰り広げられているかをその時私が知っていたら、そんな暢気なことは決して考えなかったでしょう。
妻は予定どおり5日の夜に帰って来ました。意外なことに村瀬と久美さんが一緒でした。
妻はぐったりした様子で、村瀬に抱えられるようにしているので私は驚きました。
「どうした、香澄」
「あなた……」
妻はぼんやりした表情を私に向け、すぐに顔を伏せます。
「ごめんなさい、ご主人。私達が色々引っ張り回したせいで、渡辺先生、すっかり疲れてしまったようなんです」
久美が深々と頭を下げます。それを見た村瀬も慌てたように頭を下げました。
「そうなのか」
「はい……すみません」
久美が再び頭を下げます。
「いや、久美さんは良いんです。香澄に聞いているんだ」
「……いえ、私の方が年も考えずにはしゃいでしまって……すみませんでした」
妻は荒い息をはきながらそう言うと再び顔を伏せました。
「香澄が2人に送ってもらうなんて、立場が逆だろう」
「ご主人。私達が悪いんです。奥様をしからないでください」
久美が手を振ります。
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