WR 1/25(木) 17:52:04 No.20070125175204
「真一さん、香澄です。お元気ですか? 今回、主人の許しをもらって真一さんへの声の便りを出させていただくことになりました」
「真一さんも辛く苦しい日々を送っていると思いますが、どうか香澄のことを信じて待っていてください。私も真一さんの愛を信じて、主人への償いの日々を送っています。半年後に真一さんとお会いできるのを楽しみにしています……」
品の良いワンピースを身にまとった妻はわざわざ化粧までして私の用意したICレコーダーに向かって、村瀬に対する「声の便り」を吹き込んでいます。
私はそんな妻の姿をデジカメに収めていきます。ちなみに村瀬への「声の便り」の文章は妻が自分で考えたものです。
(馬鹿め。何を気取ってやがる)
私は妻のそんな少女趣味の台詞を聞きながら苦笑しています。
その言葉どおり妻は村瀬を愛しているのか、それともその年に似合わない少女趣味的な感傷によりそう言ってるのかは分かりません。しかし、いずれにしてもそんな妻の自己陶酔的な振る舞いは私にとっては笑止千万でした。
「よし、この画像と音声を村瀬に送ってやれば、奴の気持ちも随分落ち着くだろう」
私はそう言うとカメラを置き、妻に向かって余裕たっぷりに微笑します。妻の表情がパッと明るくなるのが何とも滑稽です。
「そうでしょうか」
「ああ、すぐに村瀬に送ってやろう。香澄からは連絡が取ることが出来ないからな」
「あなた……すみません。あなたにとっては腹立たしいことと思いますが、どうか許してください」
「気にするな。これも香澄のためだ」
私はそう言うと妻に向かって微笑します。妻は目を潤ませて「ありがとうございます」と言いながら頭を下げます。私は妻に対して嘘を言うつもりはなく、妻のお洒落をした写真と「声の便り」は確かに村瀬に届けてやる気でいます。
しかし、それだけを単独で送るつもりはさらさらありません。私は翌日の月曜、それと妻が私の指技で激しく気をやった写真と、私のものを口唇で愛した時の録音を合わせて村瀬に送ってやりました。
案の定、次の火曜日に私の携帯に村瀬から電話がかかってきました。
「わ、渡辺さんっ、ど、どういうつもりですかっ」
「ああ、村瀬か。香澄からの声の便りを受け取ったか」
「こ、こ、こんなことが……」
村瀬は興奮のあまり呂律が回らないようです。
「落ち着け、ゆっくり深呼吸をしろ」
私がそう言うと電話の向こうで大きく息を吸う気配がしました。村瀬は本質的にはなかなか素直な男なのかも知れません。
「落ち着いたか。いったい何の用だ」
「こ、こ、この写真と録音です」
「ああ……香澄は自分の正直な気持ちを伝えると言っていた。俺は詳しく内容は聞いていないのだが、君を愛している香澄のことだから、甘い言葉を囁いたのだろう。なかなか羨ましいことだ。俺なんか香澄からここんところ優しい言葉をかけてもらったことがないからな」
「ち、違いますっ」
「何が違うんだ。香澄は自分を信じて待っていてくれとお前に頼まなかったか」
「そ、それは……そうですが」
「ならそれが香澄の本当の気持ちだろう。その通り待っていてやればどうだ」
「渡辺さんっ!」
村瀬が怒りの声を上げました。
「ば、馬鹿にするのもいい加減にしてくださいっ。渡辺さんは僕が香澄さんに手を出せないことをいいことに、僕を嬲りものにしているっ」
(やっと気が付いたか)
村瀬もそれほど馬鹿ではないなと私は思いましたが、ここでひるむ訳にはいきません。
「君は何を逆切れしているんだ。自分が何をやったか分かっているのか」
「わかっています。だから償いをすると言っているのです」
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