WR 1/25(木) 17:53:50 No.20070125175350
(村瀬が妻のことを愛しているのなら、連絡を取らずにはいられないはずだ)
私はぼんやりと考えます。
(しかし、先程の妻の表情は嘘をついている感じはなかった。俺との約束を露骨に破ることになり、証拠の残りやすい電話や手紙、メールなどの手段は取っていないのではないか)
(電話でも、手紙でも、メールでも、まして直接会う訳でもない。それでいて極力証拠を残さず連絡を取るには、どうしたらいい?)
あれこれ考えましたが思いつきません。私は諦めて眠ることにしました。
金曜も私は遅くまで仕事をこなし、帰宅した時、やはり妻はダイニングテーブルの上でノートパソコンを開いていました。
「お帰りなさい。何か召し上がりますか?」
妻は座ったまま私に尋ねます。
「いや、遅くなるので外で済まして来た」
「そうですか……」
妻は再びパソコンの画面に目を落とします。
「また調べ物か?」
「ごめんなさい、今終わりますから……」
妻はそう言うと、マウスを数回クリックしてパソコンを終了させました。
「お茶でもいれますね」
妻はようやく立ち上がると薬缶をコンロにかけます。妻の私に対する態度は確実にそっけなくなっています。少し前までは、妻は時折逆切れすることはあっても私に対して不倫を働いたことを基本的に反省を示していたのですが、今はすっかり態度が一変しています。
翌日の土曜日、妻は朝から「微熱がある」とのことで寝込みました。土曜日は妻の調教を行うと決めていたのですが、体調が悪いというのに無理矢理責めることが出来るほど私は厚顔ではありません。この週末はわざわざ通信販売で買い揃えた責め具も、ついに登場することはありませんでした。
週明けの月曜日、私は会社でぼんやりと考えごとをしていました。社長の体調は相変わらず優れず、私が代行を務めている状況です。企画課の若手社員で、性格はかなりの天然ですが会議では時々斬新な発想をする加藤有花が私のデスクに近づき、声をかけてきました。
「社長、どうしたんですか。ぼうっとして」
「俺は社長じゃない」
「専務はもう社長同然ですよ。みんなそう言っています」
「つまらん噂を流すな」
私は加藤をたしなめますが、自分でも声に張りがないのがわかります。
「渡辺専務にまで倒れられたら会社はお手上げです。私を失業者にしないでください」
「ああ……」
私は気のない返事をしますが、加藤なりに私を気遣ってくれているのはわかります。
「加藤、ちょっと聞きたいのだが」
「何ですか?」
「お前が恋人や、友達と連絡を取りたいのだが、メールも電話も使えない。もちろん直接会うことも出来ない。しかし、できるだけ第三者に知られないで連絡を取りたい。そんな場合、お前ならどうする?」
加藤はしばらく大きな瞳をクルクルさせて考えていましたが、やがて答えます。
「ミクシイですね」
「ミクシイ?」
「専務は知らないんですか?」
「いや、もちろん聞いたことはあるが……まだ使ったことはない」
「通販会社の役員がそれでは困りますね」
加藤が楽しそうに笑います。
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