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北原夏美 四十路 初裏無修正

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WR 1/30(火) 13:18:48 No.20070130131848

私はあのころあなたと今で言う遠距離恋愛を続けていました。あなたには平気な顔をしていましたが毎日がとても苦しい日々でした。あなたが身近にいる、私以外の女の子に気を移すのではないかと理由もない不安にさいなまれました。

そんな女の醜さをあなたには見せないようにしていましたが、あなたが電話や手紙で何気なくサークルの女の子の話題に触れると、嫉妬にこの身が焼けるような思いでした。

私にとってあの頃のあなたは、実態が見えない蜃気楼のようでした。でも、2人で海辺に立ち不思議な風景を眺めながらあなたが私の手を取ってくれたときは、あなたは幻ではなくて確かにここに存在しているのだと思えたのです。

久美さんが母親からの呪縛から離れられない村瀬君のことを思い、見えない母親の影に嫉妬して苦しんでいる姿はまるで昔の私を見るようでした。あなたにとって久美さんはとても腹立たしい存在でしょうね。だけど、私がもし彼女の立場に立ったなら、彼女と同じことをしなかったとはいえないのです。どうか彼女を許してあげてください。

私にとって村瀬君は、遠い昔のあなたを幻のように見ている蜃気楼だったのかも知れません。だけど私は蜃気楼には必ず実態があることを忘れていました。近くにいて私を愛し、支えてくれるあなたを忘れて、私はいつまでも蜃気楼に見とれていたのです。

私は今、自分のしたことの愚かさ、罪深さに身が震えるような思いです。あなたに会いたくてたまらない私がいます。だけどあなたが身を削るような思いをしながら私のことを忘れようとしているのに、私があなたに縋るのはさらに罪深いことでしょう。

それなのにあなたがいつか読んでくれると思いながら私はこの日記を書き、ヨーコさんが山のようなミクシイの会員からあなたの知り合いを探してくれることに頼り、ゆかりんさんがあなたを信頼している部下だと知って勝手なお願いをしました。私はやはりずるい女です。

あなたが言ってくれた「香澄は自分にとって、妻か恋人でしかありえない」という言葉の重みを、私は今改めて噛み締めています。私にとってもあなたは夫か恋人でしかありえません。お身体に気をつけて、いつまでもお元気でいてください。

香澄」


私は香澄からの手紙を何度も読み返しました。最初に感じたのは、高校時代に香澄から転校の話を聞いた後の「香澄がいなくなる」という胸が締め付けられるような思いでした。

結局私がわかったことは、死んでいないものを、死んだものだとはどうしても考えられないということです。香澄が私とこの地上で生きている、同じ空を見上げ、同じ空気を吸っている。そのことが私をたまらない気持ちにさせます。それは苦しみとは違います。私の心と身体の半分が引き裂かれて、互いに半身を求めているような気がするのです。

私はしまいっぱなしにしているフルートを取り出しました。汚れを取り、表面を磨き、キーに油を差すと吹ける状態になりました。頭部管に口を当てて吹くと何とか音は出ますが思ったような音色ではありません。私はフルートを組み立て、ゆっくりロングトーンの練習を始めました。


それから一週間ほど経ったある日の夜、私は都内のあるターミナル駅前にある音楽教室に向かっていました。そこには香澄が講師を務めているフルートの教室があります。

私が部屋に入ったとき、ちょうどレッスンが終わったばかりで、香澄は最後に残った生徒の質問を受けていました。香澄は私が入ってきたのにも気づかず、熱心に指導をしています。ようやくその生徒がぺこりと頭を下げて指導は終わります。優しげな微笑を浮かべながら生徒を見送った香澄と私の目が合いました。

「あなた……」

香澄の目が驚きに見開かれます。

「手紙を読んだ」
「……ありがとうございます」

香澄は少し恥ずかしげに目を伏せます。

「香澄、俺からも言い忘れていたことがあった。聞いてくれるか」
「……はい」
「俺にとっての香澄は恋人か妻でしかないと言ったが、一つ忘れていたことがあった。香澄は俺のフルートの先生だった」

伏せたままの香澄の睫毛がかすかに震えました。

「俺はまたフルートの練習を始めることにした。だが、俺は忙しいから、教室に通う時間がない。それに折角作った防音室の使い道がなくて困っているから、通いで個人レッスンをしてくれる先生を探している」

香澄は私の顔を見ながら首を傾げます。

「半年前に香澄は俺と約束をしたな。俺の言うことは何でも聞くと。あの約束はまだ生きているか?」

香澄はこっくりと頷きました。

「それじゃあ早速打ち合わせをしたい。時間はあるか?」
「はい」

再び香澄が頷くのを確認して私は教室を出ると、駅に向かって歩き出します。香澄は特に小柄というわけではありませんが、180センチを超える私とはかなり身長差があります。大きな歩幅で歩く私に香澄は懸命に着いてきました。


(了)

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「蜃気楼」に寄せて。

とても感動しました。
たぶん、作者様の「書かなかった部分」も深読みすれば同じ経過をたどるとは思います。
それでもなお、主人公の渡辺氏の無念の思いはこれだけでは晴れないように思えてなりません。

世間知らずの若者の無分別で30年かけて築いてきた家庭が脆くも壊されてしまった無念の思い、
村瀬真一が、金を用意できなかった事は詫びても、その原因である「不倫」と償いであるべき「慰
謝」の意味を理解していないことへの怒り。

主人公のこの思いは、もっと強調されても良いのではないかと。
そこで私なりに、こんな展開を妄想してみました。

「蜃気楼」59章
・・・私は机の中から村瀬が書いた借用書を取り出しました。・・・と
「蜃気楼」60章の
・・・「これはもう必要ありません。彼に渡してください」・・・の間に...。

お金などどうでもいいのです。あなたの息子さんの無分別が幸せだった私の家庭を泥まみれにし
てしまいました。
それだけでなく、あなたの息子さんは、金を用意できなかったことは詫びれるのに、私を傷つけ、
一生愛すると誓った女(妻)を裏切り、私の家庭を泥まみれにしたことを詫びる事には思いが至ら
ないのです。

お金が用意できないだろう事は最初から分かっていました。あなたの息子さんには、それで良かっ
たのです。
もしも、あなたの息子さんが5000万円もの大金を用意できたら・・・株式公開したばかりの会社の
経営者であるあなたが、「不倫の清算」などという馬鹿げた理由で大切な株の換金を許すような
親だったら・・・私は、あなたの息子さんを絶対に許さなかったでしょう。
まだ約定期間は3ヶ月残っていたのですから、私は、更に新たな条件を追加してあなたの息子さ
んを破滅まで追い込むことを躊躇しないつもりでした。

彼らが苦しみもがくなかで、人の心を傷つけると言うことの罪深さを知り、心から私に謝罪するこ
とができるとあなたの目で見切ったら、これを息子さんに渡してください。

・・・と、まあこんな展開ですが、皆さん如何でしょうか。

他意はありません。
作者様の意図を無視して勝手なことを書き連ねたことをお許しください。

久しぶりに美しく儚さうずく物語を拝見しました。主人公の強さ、厳しさの中にある男気ある 芯に人間味ある対応。そして、不器用さ。また、不倫は災難であれど その主人公の男気に 改めて慈愛を再確認するひたむきさに感動して、涙しました

続きが読みたいです

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