柴田 2/22(木) 06:46:58 No.20070222064658
私は彼女に事情を聞くのが解決の近道だと思い、妻が持っている興信所からの彼女の情報が知りたくて、翌日帰ると妻が隠しそうなところを探してみた。
すると子供達が開ける事の無い、私達の寝室のクローゼットの中に、興信所の封筒に入った彼女についての報告者を見つける事が出来たのだが、その時私は見なくても良い物まで見てしまう。
それは何かと言うと、葬儀や法事の時に身に着ける黒い下着以外は、白か淡い色しか持っていなかった妻からは考えられないような、赤や紫などの原色の派手な下着を見付けてしまったのだ。
妻が遅いのは誰かと会って相談しているか、誰かに付き合ってもらって憂さを晴らしているのだろうとは思っていたが、どんなに遅く帰っても妻の性格からして、このような関係になる男がいるなどとは夢にも思わなかった。
鈍感だと言われるかも知れないが、一緒にいる相手は女性だと勝手に思い込んでいた。
しかしそう考えると最近化粧も派手になったように思え、考えれば考えるほど妻にそのような関係の男がいる事を認めざるを得なくなってしまう。
妻は私の知らない男と抱き合って、熱いキスを交わしている。
あのような派手な下着姿で、男を興奮させている。
男の下で、私以外には見せた事の無い苦痛にも似た表情を見せ、私以外には聞かせた事の無い恥ずかしい声を上げている。
苦しくなった私は携帯に電話を入れたが、やはり電源は切られていた。
「誰と何処にいた!」
「あなたには関係ないでしょ!私に干渉しないでと言ったはずよ!」
私は初めて女性に手を上げた。
それも愛しているはずの妻に。
「もう離婚よ!」
妻は一晩泣き続け、この日を境に子供達の手前一緒だった寝室も別になる。
木下恵理、36歳。
3年前に離婚していて、今は中学生の娘と二人暮らし。
昼間は町工場で事務をしながら、夜は小料理屋でアルバイト。
私は報告書に書かれていたアパートに行ってみようと思ったが、一緒に暮らしている彼女の娘の事が気になって、アルバイト先の小料理屋に行ってみる。
その小料理屋は我が家から意外と近くにあり、歩いても15分ほどの距離なのだが、小さな店なので今まで気が付かなかった。
彼女は私を見るなり驚いた顔をして俯いてしまう。
「恵理ちゃん何しているの。お客様におしぼりを」
涼しそうな目をした色っぽい女将に言われ、ようやく顔を上げた彼女はおしぼりを広げて渡してくれたが、私とは目を合わさずに手も震えていた。
私は彼女と話すチャンスを待っていたが、色っぽい女将と美人の彼女を目当てに来る客で、絶えず満席で隣にも客がいるので話せない。
仕方なくこの日は諦めようと外に出ると、彼女は私を送る振りをして出て来た。
「ごめんなさい」
「聞きたい事があるから、そこのファミレスで待っています」
「私は何も・・・・・」
「それならアパートに行きます」
「来ないで。娘がいるから・・・・・・」
彼女は30分ほど経ってから来たが、何を質問しても「私は何も知りません」と言って涙ぐむ。
「私にも娘が二人います。このままだと家庭は壊れてしまって、家族ばらばらに」
彼女は顔を上げると、縋る様な目で私を見た。
「娘の日記を見てしまったの・・・・・・娘は勉強が好きで・・・・・特に英語が好きで・・・・・・中学を出たら留学したいって・・・・・でもお金が無いのは知っているから・・・・生活の為に昼も夜も働いている私には・・・絶対に言えないと書いてあって・・・・」
私の脳裏に母と娘が手を取り合って、必死に暮らしている姿が浮かんだ。
しかし私にも大事な娘がいる。
「自分の娘の幸せのために、私の娘達を犠牲にするのか!」
彼女は人目も憚らずに泣き崩れる。
「せめて誰に頼まれたのかだけでも教えてくれ」
彼女は散々迷った末、小さな声で言った。
「青山さん・・・・・・これ以上は許して下さい」
妻の身近にいる人間で、青山という名の、他人の娘の留学を援助出切るだけの自由になるお金を持っている男。
私にはそれだけで十分だった。
家に帰ると11時を過ぎていたが、妻はまだ帰っていない。
今日も青山に抱かれているのか。
相手が分かると私の怒りは更に増し、嫉妬で狂いそうになる。
どうしてこんな事に。
帰って来た妻は、何も言わずにバスルームに向かう。
私が後を追って入っていくと、既に夫婦では無いと言わんばかりに、妻はタオルで前を隠して身体を硬くした。
「どういうつもり!早く出て行って!」
「洗ってやる!俺が洗ってやる!」
私は嫌がる妻の腕を痕が残るほど強く掴み、身体が赤くなるほど強く擦った。
「やめて!私に触らないで!」
私の目から涙が毀れたが、妻もまた涙を流していた。
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