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柴田 3/11(日) 10:33:36 No.20070311103336

そこは小さな町工場で、道を挟んだ前にある空き地には妻の車が止まっていた。
そして看板に書かれた小さな文字を見た私は唖然とする。
『今中精器株式会社協力工場』
窓から中を覗くと5人の工員が働いていたが、みんな年配の人ばかりで妻の姿もなく、事務所のドアを開けると作業服の下にネクタイをした社長らしき男と、妻と同い年ぐらいの事務員が私を見る。
「柴田と申します。いつも妻がお世話になっております」
それを聞いた社長らしき男は立ち上がり、事務員は慌てて電卓のキーを押す。
「あっ、ああ、柴田さんのご主人。柴田さんには銀行まで行ってもらっていますが何か?」
「銀行ですか?今日は土曜日なのに?」
事務員の手が一瞬止まる。
「えっ?そうです。ATMで済む用なので」
男は落ち着かず、明らかに焦りが分かる。
「それなら外で待たせてもらいます。お仕事中申し訳ございませんでした」
私がドアの所でお辞儀をし、頭を上げた時には男の手に携帯が握られていたのを見て、妻は今中と出掛けている事を確信した。
すぐに妻に電話したが、呼んではいても妻は出ない。
妻は携帯が聞こえないほど、大きな声を出しているのか。
携帯に出られないほど、感じさせられてしまっているのか。
30分待っても帰って来ないので、もう一度事務所のドアを開けると、今中の携帯にも繋がらないのか、社長は携帯を耳に当てながら貧乏揺すりをしている。
「どこの銀行まで行きました?」
「いや、帰りに他の用も頼んだもので」
「そうですか。ところで今中にも繋がりませんか?」
社長と事務員が一斉に私の顔を見る。
結局妻が帰って来たのは、4時前だった。
それも今中の車の助手席に乗って。
「佐藤社長、悪かったな」
私は写真で見て知っていたが、今中は電話で話しただけで私の顔を知らないはずなのに、やはり小料理屋で眠ってしまった時に私を見たのか、入って来るなり固まった。
「ご主人?」
今中の後ろを恥ずかしそうに俯きながら入って来た妻も、その言葉で顔を上げる。
「あなた!」
「これは違うんだ。あの時奥さんに迷惑を掛けたから、お詫びに食事をご馳走して」
私の手には、机の上にあったカッターナイフが握られていた。
「何をする気だ!警察を呼ぶぞ!」
「呼べよ。警察が来る前に殺してやる」
その時妻が今仲の前に出て間に入る。
「あなたやめて!犯罪者になってしまう」
妻は私を人殺しにはしたくなかったのかも知れないが、私の目には今中を庇おうとしているとしか映らない。
こんな下衆な野郎でも、身体の関係を持つと情が移ってしまうのか。
私が一歩前に出た時、カッターを持つ手を掴みにきた妻の指から血が出た。
それを見た今中は外に飛び出し、慌てて車を走らせる。
私は呆然と立ち尽くし、事務員に手当てを受けている妻を見ていた。
「二度と帰って来るな!」
本当は今中との事を詳しく聞きたかった。
なぜまた私を裏切ったのかも聞きたかった。
しかし他人を前にして、妻を寝取られた夫が多少でもプライドを維持出来るのはこの言葉しかない。
妻は私から1時間ほど遅れて帰って来た。
「この家にいさせて下さい」
「無理に決まっているだろ!いったい何を考えているんだ!」
「写真を撮られていたから・・・・・・」
私は立っていられない。
妻の内蔵まで見られ、喘ぎ声まで聞かれたと思っただけでもショックなのに、誰にも見せられないような写真まで持たれている。
「離婚しよう」
私から怒りが消えていく。
この苦しみから逃れるには、妻を私の中から追い出すしか方法がない。
「長い間世話になった。今まで本当に楽しかった」
これは素直な気持ちだった。
全てから逃げ出したい私の、正直な気持ちだった。

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