悪い夫 4/13(金) 05:58:56 No.20070413055856
翌日からの妻は甲斐甲斐しく私の世話を焼くようになり、彼と会っていない事を私に証明するかのように、帰りが遅くなった時は何度も電話を掛けてきます。
しかし彼と会おうと思えば学校を休んででも会う事は出来、メールも隠れて続けているかも知れません。
結局疑い出したらきりが無く、裸になって彼の下で電話しているかも知れず、彼と会っていないにしても、それは息子に彼との関係を話されたくないだけで、私への愛とは関係ないかも知れないと思うと和解する気にはなれずに、妻が話し掛けてきても簡単な返事しか返さずに、仮面夫婦のような状態を続けていました。
このような関係を続けていれば、彼を想う妻の気持は大きくなってしまうかも知れないと思いながらも、時が経てば経つほど変な意地を張ってしまってどうにもなりません。
これは私にも防衛本能が働いていて、妻を責める事で私のしてきた卑劣な行為を、全て過去の出来事にしようとしていたのでしょう。
「食事の仕度をする前には、もっとよく手を洗えよ」
「しっかりと洗いました」
「何度も何度も洗え。何しろ奈美はその手で」
「洗ってきます」
息子の前でこのような事を言われては、妻は私に逆らうことは出来ません。
幸せだった頃を思い出し、妻と仲良くしたいと思っても、姑息な自分を知られてしまった事から妻をそれ以下の人間にすることで、自分が優位に立とうとしていたのです。
「おい、見てみろよ。チンチンの扱いは、この女よりも奈美の方が遥かに上手いぞ。奈美がこのビデオに出れば人気が出るぞ。40歳の現役小学校教師の手コキ」
私は男を手で処理するようなビデオを借りてきては、わざと妻の前で見ていました。
「俺には手でしてくれた事は無いよな?俺にもしてくれよ」
妻は俯きながら近付いてきます。
「その前によく手を洗え」
戻って来ない妻を覗きに行くと、泣きながら泡だらけの手を何度も擦り合わせていました。
自分でそのような事をさせておきながら、妻を可哀想に思うのですがあの時の光景が脳裏から消えません。
忍び込んだ時点で止めさせれば良かったのですが、それをしなかった事への後悔で、自分に対しての腹立たしい気持ちも妻へと向かってしまいます。
妻が戻ってくると手首を掴み、クンクンと犬のように掌の匂いを嗅ぎます。
「もういい。彼のチンチンの匂いが染み付いている気がする」
妻を抱きたい。
しかし意地になっていて、私からは妻を必要としているような素振りは見せられませんでした。
夫婦でも自分の全てを曝け出している訳ではありません。
誰でも多少の秘密はあるでしょう。
しかし夫婦で有りながら、ここまで駆け引きをしてしまっては夫婦と呼べるかどうかも疑わしくなってきます。
自分の欲望をほんの少し満足させたいが為の悪戯から、ここまで関係が壊れてしまうとは。
いいえ、壊れてしまったのではなくて、私が壊してしまったのです。
しかし勝手なようですが私も苦しんでいました。
誰か助けて欲しい。
元の関係に戻りたい。
私が少し変われば戻れると思っていても、それが出来ずに苦しんでいました。
私でさえそうなのですから、妻の苦しみは並大抵ではなかったと思います。
彼と会っていた事もそうですが、彼の性欲を処理していた事で自分を責めているようでした。
何よりいつ私が息子に話すか分からず、その恐怖に絶えず脅えているようでした。
私と息子が二人だけになるのを嫌い、この頃には家に仕事を持って帰るようになり、私よりも必ず先に帰宅します。
休日も私と息子が家にいると買い物にも出掛けません。
そしてこの事が原因かどうかは分かりませんが、終に妻は体調を崩して学校を休みました。
「体がだるくて、今日も行けそうにありません」
「一度医者に診てもらえ」
出勤しても仕事にならず、食欲も無く昼休みに芝生に寝転んでいると、何気なく妻に言ってしまった言葉を思い出します。
“一度医者に診てもらえ”
家に戻ると玄関先にドイツ製の車が止まっていて、玄関を開けると妻の声が聞こえてきました。
「やめて!だめ、だめ」
それを聞いて慌てて中に入るとそこに私が見たものは、床に押し倒されて彼に抱き付かれている妻の姿でした。
そして嫌だと言いながらも妻の両腕は彼の背中に回っていて、彼の右手は妻のスカートの中に入り込んでいます。
妻も私との今の関係から逃げたかったのでしょう。
このような仕打ちを受け続けていれば仕方の無いことです。
必死に堪えていたのを、私の言葉で彼を思い出してしまった。
一時でも今の状況から逃げたくて、誰かに縋り付きたくて彼に電話してしまったのでしょう。
それを聞いた彼は、この様なチャンスは二度と無いと思ったに違いありません。
妻は誰かに胸の内を話したかっただけかも知れませんが、彼がチャンスを見逃すはずも無く、仕事を放り出してでも駆けつけて来た。
ずっと寂しい思いをしていた妻にとって、彼のそのような行為が嬉しくなかったはずがありません。
「あなた!」
「体調が悪いなどと嘘を吐きやがって!俺に隠れてこんな事をする為に休んだのか!」
「違う」
彼が立ち上がったので駆け寄って殴ろうとすると、その瞬間強い衝撃を受けて床に尻餅をついてしまいました。
そうです。
私は無様にも、逆に殴られてしまったのです。
「よくも奈美を不幸にしやがって」
彼は馬乗りになってきて、左手で私の胸倉を掴むと右手を大きく振り上げました。
「別れてやれ!奈美は俺が幸せにする」
その時妻が彼にタックルするような勢いで抱きついたために、彼は私の上から妻と縺れ合うように転げ落ちてしまいました。
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