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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:MM 投稿日:2004/04/02(Fri) 18:23

7月3日(木)
会社の帰り道、携帯が鳴りました。
「あなた。今日課長から“この日曜日はどうしても抜けられない用が出来たので、今月は振込み
にさせて欲しい。明日振り込みたいので、口座を教えて欲しい。”と言われたので、あなたに聞い
てからでないと分からないと答えておきました。」
頭に来た私は、野田の携帯に電話して抗議すると。
「もう殴られるのは嫌だ。もう充分だろ?遠い所までわざわざ持って行くのも嫌になった。今月
から振込みにさせてもらう。振込みが駄目なら、月に一度どこかで美鈴さんに渡してもいいぞ。」
今まで誠実に対応していた野田の変わり様に驚きましたが。
「約束が違うだろ。約束を破るつもりか?」
「約束?誓約書に書いた事は守る。月に一度支払うとは書いたが、持って行くと書いてあるか?
それに暴力は犯罪だ。不法行為を正式な文章に書ける訳が無い。殴られてもいいと書いてあるか?
今度からその様な事があれば、きちんと対処させてもらう。」
そう言うと一方的に切られてしまいました。私は急いでマンションに戻り、妻に電話すると。
「あれから電話があって、あなたによく謝ったら許してくれたので教えて欲しいと言われ、口座
を教えました。今後はもう振込みでいいと言ってくれたと、凄く喜んでいて、あなたは寛大な人
だと、自分にはとても出来ないと褒めていました。あなた、すみませんでした。」
私は妻に何も言えなくなり、もう一度野田に電話すると。
「いい人になれて良かったじゃないか。今回の事を会社に言ってもいいぞ。就業中に不倫してい
れば別だが、うちの会社は、個人の問題だと言って注意で済む。結局利益優先で無理な配置換え
もしない。昇進には影響するだろうが、もうどうでもいい。聞いていると思うが、俺は離婚した。
何のために偉くなって、誰のために金儲けするのか分からなくなった。どうして離婚を承諾した
のか教えようか?それは他にも好きな人がいるからだ。別れた妻との関係に疲れた。俺を裏切っ
た女は忘れて、次の恋愛に進もうと思ったからだ。」
野田は言葉使いも変わっていました。これは私への挑戦状だと思い。
「お前が離婚しようと不幸になろうと俺には関係ない。ただ妻にはちょっかいを出すな。」
「勿論、誓約書に書いた事は守る。俺も裁判沙汰は嫌だし、いい加減な男と思われて、あの人に
嫌われたく無いからな。仕事以外では2人で会わないし、仕事以外の連絡もしない。ただ部下と
多少のコミュニケーションをとるのは、仕事の内だと思っている。上司にそう教えられてきた。
それと、駅で話した時のように美鈴さんの方から来た時は、俺に言われてもどうしようもない。」
「勝手にしろ。妻には会社を辞めるように言う。」
「その方がいい。自信が無いのだろ?信用出来ないのだろ?俺達夫婦もそうだった。俺は妻をず
っと疑って暮らしてきた。妻は過ちを悔い改めたのに信用出来なかった。妻も今回の事で俺が信
用出来なくなった。そんな夫婦が上手く行くはずが無い。あんた達も別れた方がいいぞ。会社を
辞めて何処に行っても同じだ。その内、男に道を尋ねられたのを見掛けただけでも疑うようにな
る。俺は誓約書どおり誘ったりはしない。ましてや無理やり関係を持とうなんて思ってもいない。
ただ、美鈴さんが自分から来てくれた時は、全てを投げ出す覚悟で受け入れる。また固い絆で結
ばれたのだろ?違うのか?自信が無いなら辞めさせろ。そうやって疑いながら暮らせ。その内俺
達みたいになるから。その方が好都合だ。離婚してくれれば堂々と付き合える。」
これは妻を辞めさせない為の、心理作戦だという事は分かっていました。しかし野田の言ってい
る事は、全て間違いではありません。これから妻と夫婦を続けていく為の良い試練で、これで妻
に何も無ければ、また元の関係に戻れる気がします。それに、関わらない方が良いと思っていて
も、これだけ言われて逃げる事は負け犬のような気がし、婚姻届1枚だけで繋がっていると思わ
れる事にも我慢出来なかったので、彼の作戦にあえて乗る事にしました。
「お前の言う通りかも知れないな。もう妻はお前と付き合う事は無いから、会社を辞めさせる事
は無いな。目の前にいながら、どうにも成らない苦しみを精々味わえ。」
野田に対して強がりを言いましたが、今回の件で、私に見せた顔と妻に見せた顔が違う事が、少
し気掛かりです。
「どうかな?あっ、それと、以前犯罪行為をして捕まってもいいような事を言っていただろ?俺
は別に構わないぞ。その方が美鈴さんに哀訴を付かされ、俺には好都合だ。」
もう野田に関わらず、会社を辞めさせて逃げれば良いのに、自分で自分が嫌になるほど負けず嫌
いな、くだらないプライドの為に逃げる事が出来ないのです。

7月6日(日)
一昨日の夜から妻が来てくれて、午後2時ごろ帰って行きました。野田の事が刺激になり、妻へ
の怒りを抑えて出来るだけ会話をしようと努力したのですが、話が続きませんでした。まるで初
めて会った者同士のような会話です。妻が帰ってから、何故この様な苦しい思いをしながら、離
婚したくないのか考えました。離婚すれば野田と付き合う可能性もあるので、それが許せない思
いも有ります。しかし、それよりも妻の事を愛しています。裏切られた悔しさは勿論あり、復讐
心もあるのですが、それでも妻のいない人生は考えられないのです。妻と別れた後の事を考える
と、今以上に苦しいのです。それならもう許せばいいと分かっていても、素直に許せないのです。
妻を見る度に、この身体を好きにさせたのかと思うと許せないのです。今日も昼食の準備をする
妻を目で追っていました。もう野田とは何も無いと思っていても、私の視線に気が付く度に目を
逸らす妻に、疑いを持ってしまいます。私が全てを過去の物として、新しくスタートを切れば、
妻が付いて来てくれる自信はあるのですが、それが出来ないでいます。

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