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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/19(Tue) 01:49

 勇次を雇って二ヶ月ほど経った頃のことです。
 その日、妻は外出していて、わたしが店番をしていました。わたしがいるときは、勇次は非番です。
 近所で電気店を経営している金田さんが、店に入ってきました。しばらく雑談をしていると、彼が急に妙なことを言い出したのです。
「この前の木曜だが、どうしてこの店閉まってたんだい?」
「木曜・・・何時ごろのことです?」
「さあ・・何時だったか・・昼の二時くらいだったと思うがなあ。ちょっとうちを出て、この店の前を通りがかったときに、店の戸が閉まっているのが見えたんだよ。中を覗いてみたけど、誰もいなかったような・・・」
(おかしいな・・)
 わたしは思いました。昼の二時といえば、まだ娘を幼稚園に迎えにいく時刻でもなく、店には妻の寛子と勇次のふたりがいたはずです。どちらかが何かの用事が出来たにしても、残るひとりは店番をしているはずです。
 妻からは何も聞いていません。
 金田さんは何事もなかったかのように話題を変え、しばらく雑談しましたが、わたしの頭は先ほど引っかかったことを考え続けていました。
 その夜、わたしは居間でテレビを見ながら、台所で忙しく食事の用意をしている妻に、何気なさを装って尋ねました。
「この前の木曜の昼に、店の前を通りがかった金田さんが、店が閉まっているようだったと言ってたんだが・・・何かあったのかい?」
「ああ・・・はい、娘の具合がわるいと幼稚園から連絡があったので、勇次くんに車を出してもらって、ふたりで迎えに行ったんです」
「聞いてないな」
「たいしたことはなく、結局、病院にも行かずじまいだったので、あなたには・・」
 妻は振り向くこともせず、そう説明しました。
 わたしはきびきびと家事をしている妻の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと不安が胸に広がっていくのを感じていました。心の中では、妻の言うことは本当だ、と主張する大声が
響いていたのですが、その一方で、本当だろうか、とぼそぼそ異議を申し立てる声もあったのです。 
 結婚してからはじめて妻に疑いをもった瞬間でした。
 もし寛子が嘘をついているとして、それではそのとき寛子は何をしていたのか。一緒にいた勇次は? まさか・・いや、そんなはずはない。妻と勇次では年が違いすぎる。
 心の中では嵐が吹き荒れていましたが、顔だけは平然とした表情でわたしは妻を見ます。
 妻の寛子は、そのおとなしい性格と同様に、おとなしい、やさしい顔をした女です。どこかにまだ幼げな雰囲気を残していましたが、スタイルはよく、特に胸は豊満でした。
 年甲斐もないと思いながら、当時のわたしは週に三日は妻を抱いていました。
 とはいえ、妻の魅力は野の花のようなもので、誰にでも強くうったえかけるものではない。わたしが惹かれるように、若い勇次が妻の女性に惹かれるようなことはない。
 わたしは自分にそう言い聞かせました。

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