投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/19(Tue) 02:12
そんなある日のことです。妻は体調がすぐれなそうだったので、滅多にないことでしたが、わたしが娘を幼稚園に迎えに行きました。
そのとき、幼稚園の先生から妙なことを言われたのです。
「昨日は奥様はどうなされたのですか?」
「え? 何かあったのですか?」
「えっ・・・ああ、はい。昨日は普段のお迎えの時刻になっても奥様が来られなかったのです。一時間遅れでお見えになりましたが、娘さんは待ちつかれておねむになってました」
「・・・そうですか・・・あの、つかぬことをお伺いしますが、この前の木曜に娘が具合が悪くなって、妻が迎えに来たということはありましたか?」
「・・わたしの記憶にはありませんが・・奥様がそう仰ったんですか?」
「いえ、違います。なんでもありません。すみません」
わたしはうやむやに打ち消して、娘を連れ、家路につきました。
ぼんやりとした疑いが、はっきりと形をとってくるのを感じ、わたしは鳥肌が立つ思いでした。
妻は間違いなく、嘘をついている!
そのことがわたしを苦しめました。
これまで夫婦で苦しいときもつらいときもふたりで切り抜けてきました。店がいまの形でやっていけているのも、妻の内助のおかげだと思っていました。
その妻が・・・。
嘘までついて妻は何をしているのか。
わたしはそれを考えまいとしました。しかし、考えまいとしても、脳裏には妻と・・・そして勇次の姿がいかがわしく歪んだ姿で浮かんでくるのです。
「店長!」
いきなり声をかけられて驚きました。勇次です。わたしと娘の姿を偶然見て、駆けてきた、と彼はわらいました。
「いま、学校へ行く途中なんです」
勇次はそう言うと、娘のほうを見て、微笑みました。娘も勇次になついています。
娘と戯れる勇次。しかしふたりを見るわたしの表情は暗かったことでしょう。
ただ、いまの勇次の姿を見ても、彼が妻と浮気をしているなどという想像はおよそ非現実的におもえました。むしろそのような不穏な想像をしている自分が恥ずかしくおもえてくるほど、勇次ははつらつとして、陰りのない様子でした。
「どうしたんです? 店長。具合でもわるいんですか」
「いや、何でもないよ・・・ちょっと疲れただけさ」
「早く帰ってゆっくり休んでくださいよ・可愛い奥さんが待ってるじゃないですか」
「何を言ってるんだい、まったく」
わたしはそのとき、勇次とともにわらいましたが、背中にはびっしりと汗をかいていました。
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