投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/20(Wed) 23:21
それからしばらくは緊張の日々が続きました。
妻とは気軽に話すことはなくなりました。娘がいるときは、以前のように仲の良い両親を演じるのですが、娘がいないと火が消えたように寒々とした感じになります。
わたしは仕事の関係で外回りをやめることは出来ません。妻をひとりにしておくのは不安でした。勇次はいまも店の近くに住んでいるのです。しかし、新たにバイトを雇う気にもなれません。わたしはいつもぴりぴりしていました。強がって見せても、心はいつも不安でいっぱいでした。
妻はいっそう無口になり、暗い表情をするようになりました。いつもわたしの機嫌を窺って、びくびくしています。以前からどこか淋しげな感じの女でしたが、最近では夜遅くにわたしがふと目覚めると、隣で妻がすすり泣いているときがあります。
夜の営みは絶えてなくなりました。浮気した妻を嫌悪して、というより、わたしの問題です。妻と勇次の情交の激しさにショックを受けて、わたしは自分自身のセックスにまったく自信をなくしてしまったのです。
そんなある日のことでした。わたしは妻と店番をしていました。わたしたちは夫婦で店を経営しているので、夫婦仲の思わしくないときも一緒にいる時間が長く、そのときはそれが辛くてたまりませんでした。妻の哀しい顔を見ているのが辛いのです。浮気をしたのは向こうだ、おれはわるくないとおもってみても、妻の辛そうな様子を見ていると罪悪感がわいて仕方ありません。かといって、優しい言葉をかけることも当時のわたしには出来なかったのです。
その日もそんな状態で、もうたまらなくなったわたしは、
「なあ・・・おれたちもう駄目かもしれない・・」
妻にそう言ってしまいました。
妻は瞳を見開いてわたしを見つめました。すぐにその瞳から涙がすっと流れ落ちました。
「おれは辛くてたまらない・・・お前に裏切られたことも哀しかったが、その後のお前の辛そうな顔を見ているのはもっと辛いんだ・・・おれたちはもう、別れたほうがいいんじゃないかな」
離婚を切り出したのは、そのときがはじめてでした。
「そのほうがお互いにとっていいのかもしれない」
「いやです!」
予想以上に激しく、妻は拒絶しました。
「あなたと別れたくありません・・・わたしにこんなことを言う資格がないのは分かってます・・・でも、あなたと別れたくないんです・・これからは死んでもあなたを裏切ったりしません・・・あなたのいうことならなんでもします・・・ですから・・」
「だから言ってるだろ! ちょうどいまのお前のように、お前が必死な顔をしていたり、哀しそうにしているのが耐えられないんだよ!」
わたしはきつい口調でそう言いました。妻はもうどうしようもなくなって、顔を両手で抑えて号泣し始めました。
罪悪感と自己嫌悪でいっぱいになったわたしは、妻から逃げるように店を出て行きました。
そうして店を出たわたしが向かったのは、勇次の家でした。
わたしたち夫婦を地獄に堕とした勇次になんとか復讐をしてやりたい。その一念でした。
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