投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/23(Sat) 01:41
あれから妻は夜になると積極的になり、わたしを求めてくるようになりました。以前は自分から求めるなどということは一度もなかったのですが・・・。
わたしは年齢的なこともあり、正直に言って連夜にわたる情交はきついものでした。妻が見せる淫蕩ともおもえる振るまいに、一時的には我を忘れて妻を抱くのですが、終わると言いようのない虚しさと疲れがおそってくるのです。
しかし、わたしはそれを妻に悟られまい、としていました。妻の求めを拒んだり、疲弊した自分を見せることは、妻に勇次をおもいださせ、若い勇次に比べ、老いたわたしの男としての物足りなさを妻に感じさせることになるとおもいました。わたしにとって、それはこのうえない恐怖でした。
そんな無理のある夫婦生活は、遅かれ早かれ、破滅に至るものだったのでしょう。しかし、それはあまりに早くやってきました。
夏のある日のことでした。
いつもの外回りがその日はかなり早くに済み、わたしは妻がひとりでいる店へ戻りかけました。
そのときでした。勇次がふらりとわたしたちの店の中へ入っていくのが見えたのです。
わたしは心臓の高鳴りを感じながら、車を店から少し離れた場所へ置くと、店の出入り口とは反対側にある家の勝手口から家の中へそっと入りました。
店のほうから勇次の声がしました。
わたしはゆっくりその方へ近づきます。
勇次が妻へ話しかけています。妻はわたしに背を向けていて、その表情は見えません。
「もう帰ってください・・・主人が」
妻が動揺した声でそう言っています。
「いいじゃないか。旦那はまだ帰ってくる時刻じゃないだろ。それよりどうなの? きょうはパンティ履いてる?」
「・・・・・」
「おれが店に入っているときは、寛子にはいつもノーパン、ノーブラの格好で仕事をやらせてたよな」
「もうやめて・・・終わったことです」
「寛子は見た目と違ってスケベだからな~。おれが耳たぶとか胸とかちょっと触ってるだけで、顔を真っ赤にして興奮してたよな・・・一度なんか、娘さんを幼稚園へ迎えに行く時刻だってのに、おれにしがみついてきて『抱いてぇ~、抱いてぇ~』なんて大変だったじゃないか」
勇次はにやつきながら、妻の近くへ寄りました。わたしはその場へ飛び出そうとしました。
そのとき、勇次がこんなことを妻に聞いたのです。
「あのときはあんなに燃えて、おれに好きだとか愛してるとか言ってたじゃないか。あれは嘘だったのか? 寛子はただ気持ちよくなりたいだけで、おれと付き合っていたのか? おれのことはもう嫌いになったのか?」
妻はじっとうつむいて、何か考えているようでした。それから、おもむろに口を開き、信じがたいことを言いました。
「嫌いになったりは・・・してません」
・・・わたしは頭をがつんと殴られたようなショックを受けました。いまでも嫌いじゃない? わたしたち夫婦をあれほどまでに苦しめた勇次を?
わたしがそこで聞いていることも知らず、妻は言葉を続けました。
「・・・ですが、いまは主人と子供が何よりも大切です・・・あなたとは・・・もう」
「嫌いじゃないなら、寛子はおれにまだ未練があるんだな。おれだってそうさ。お前のことが忘れられないんだ。お前が好きなんだよ。なあ、いいだろ、寛子。自分の気持ちに正直になって、もう一度おれとさ」
谷底に蹴り落とされたような気分のわたしの目に、勇次の手がすっと寛子の顔へ向かうのが見えました。
その瞬間、わたしはふたりのもとへ飛び出していきました。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)