投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/23(Sat) 23:49
突然、家の中から現れたわたしを見て、妻は喉の奥からかすれるような悲鳴をあげました。その怯えた表情が、わたしを無性に苛立たせました。
勇次もさすがにぎょっとしたようでしたが、すぐに落ち着きを取り戻したようで、じろりとわたしを睨みました。
「またあんたか・・・・」
「何が『またあんたか』だ。ここはわたしの店だぞ・・・さっさと出て行け。いつまで未練がましく、妻につきまとってるんだ」
「未練がましく?」
わたしの言葉を、勇次はふんと鼻で笑いました。
「未練が残っているのは、あんたの奥さんのほうもだよ」
「うるさい!」
「おれはあんたよりも寛子のことが分かってるよ。だいたい、あんたとの生活に満足してたら、おれと浮気なんかしなかっただろ? 寛子はあんたじゃ物足りなかったんだよ」
わたしは勇次を睨みつけながら、ちらりと妻の顔を見ました。消えいりたげな様子で身体を縮こませていた妻は、顔を歪めながら必死に首を横に振りました。
「・・・ちがう・・・」
「何がちがうんだ、寛子。おれとやってたときの悦びよう、忘れたわけじゃないよな。おれはたぶん旦那よりも多く、寛子の可愛いイキ顔を見てるぜ。寛子はセックスが大好きだし、イクときはもう激しくて激しくて、イってから失神することもよくあったよな~。いつかなんか気持ちよすぎてションベンまで」
「言わないで・・・」
「あのときはおれが恥ずかしがって泣く寛子のあそこをきれいにしてやったよな。そうしているうちにまた興奮してきちゃって、おれにしがみついてせがんできたのは誰だったけな?」
続けざまに吐かれる勇次の下衆な言葉に、妻はしくしく泣き出してしまいました。
「いいかげんにしろ!」
わたしは怒鳴りました。
怒りがありました。
しかし、それよりもおおきくわたしの心を支配していたのは、救いようのない脱力感でした。
「・・・いますぐに出て行かなければ、警察を呼ぶ・・・ここはわたしの店なんだ・・・お前を営業妨害で」
「わかった、わかった」
勇次は小馬鹿にしたような態度で、わたしに背を向け、店の出入り口へ歩き出しました。
途中で振り向きました。そして、なんとも形容しがたい厭な笑みを浮かべて、こう言ったのです。
「ああ、そうそう。藤田と村上がまたお前に会いたいってさ、寛子」
そのとき妻があげた身も凍りつくような悲鳴は、いまでも忘れられません。
勇次はわらいながら、店を出て行きました。
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