投稿者:バーバラ 投稿日:2005/07/28(Thu) 01:44
その翌々日の夜、わたしは娘を知り合いの家へ預けて、指定されたレストランへ出かけました。
妻がいました。
半年前と比べて幾分やつれていました。顔色も少し青ざめています。そのやつれを隠すかのように、化粧は濃い目で、以前は使うことのなかったアイシャドウを塗っていました。
顔に比べて、身体は全体的にむちっとして、より女っぽくなった感じでした。胸の大きく開いた上着に、三十八歳という年齢にそぐわない短めのスカートを履いているためにそう見えたのでしょうか。以前は清楚な印象の女でしたが、久しぶりに見たその姿はどこか生々しい濃艶さを漂わせていました。
わたしが近寄ってくるのを見て取って、妻はうつむきがちに頭を下げました。
注文を取りに来たウエイターが去った後も、ふたりの間には気まずい沈黙が続きました。
もともと、夫婦ともに無口な性質です。しかし、以前は会話がなくても通い合う何かがあったのです。
ですが、いまは―――。
「――がお前に会いたがっている」
わたしは娘の名前を口にしました。
妻はまたうつむいて、瞳を逸らしました。
「もう会えません・・・」
「何故だ。たとえお前が・・・おれよりあいつを選んだとしても、お前が――の母親だということは変わらないだろ」
妻は眉をたわめて、わたしの言葉を苦しげな表情で聞いていました。そして弱々しい声で言うのです。
「もう、あなたにも娘にも顔向けできないような女になってしまいました・・・わたしのことは忘れてください・・・別れてください・・・」
「勝手なことを言うな!」
わたしはおもわず、大きな声をあげていました。
「なあ・・・話してくれ・・・あの日、おれが――を連れて去った後に、どうして勇次のところへ行ったんだ・・・おれたちがいなくなってこれ幸いということだったのか?」
「ちがいます・・・あの日は・・・」
瞳を潤ませて、妻は語り始めました。
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