投稿日:2003/03/17(Mon) 18:09
その後の私は、以前よりやさしく妻に接し、夜は必ず裸で抱き合って眠りましたが、
セックスはしませんでした。
セックスをしなかったと言うより、出来なかったんです。
愛おしさから妻と裸で抱き合って寝ていて、それなりの満足感は有るのですが、妻の
裸を見ても、妻に触れていても、私の物は軟らかいままで変化しません。
妻を完全に許していても、頭の片隅に残っている、妻と加藤の光景を消す事が出来な
いのです。
妻には申し訳なくて身体の事を言えず、今は抱き合っているだけで充分だと言ってい
ましたが、1ヶ月ほど経った頃、流石にこれでは駄目だと思い、結婚以来始めてラブ
ホテルに行って、指や口で妻を歓ばせましたが私に変化は有りません。
妻がその事に気付いたので。
「百合子、ごめん。どうも俺は疲れている様だ。」
「ごめんなさい。私の事が原因で・・・。」
「違う、違う、今まで色んな事が有ったから、ただ疲れているだけだ。」
妻は責任を感じて手や口で一生懸命してくれましたが、興奮はしても、やはり変化は
有りません。
その後、家でも何回か試しましたが結果は同じでした。
ここのホームページを読み漁っていたのはこの時期です。
やがて2人の間では、セックスと言う言葉は禁句になり、私はもう自分の物で妻を歓
ばす事は出来ないと、男の自信も無くし、原因を作った加藤への嫌がらせ電話も、日
増しに増えて行きました。
ところが、春も近い或る日、加藤に電話すると電源が切られていて繋がりません。
私はてっきり、電話されるのが嫌で電源を切られたと思いましたが、その夜妻から、
加藤が入院したと聞かされました。
病名は進行性の膵臓癌で、噂だと発見が遅れたので長くて2ヶ月だそうです。
加藤がやつれて見えたのは病気のせいも有ったのでしょう。
癌で騙し、本当に癌になってしまった加藤を可哀想だとは思えず、罰が当たったと思
いました。
1ヶ月ほど経ち、身体の事で怨みを増していた上にイライラのはけ口を無くしていた
私は、とんでもない復習を思い付いてしまいました。
加藤の病状はかなり悪いので個室に入っていて、奥さんが付き添いをしているらしい
と聞いた私は、心配する妻を残して1人面会に行きました。
ノックをすると女の声で返事が有り、中に入ると。
「どちら様ですか。」
「宮本です。宮本百合子の夫です。」
加藤は力無くこちらを向くと、無言で私を見詰めています。
「はい、聞いております。奥様には主人が大変お世話になっております。」
にっこりと微笑みながら深々とお辞儀をした奥さんは、やさしそうな目をした綺麗な
方で、大きな胸が目を引きました。
『こんな素敵な奥さんが有りながら・・・・加藤の奴・・・。』
奥さんの笑顔に怯みそうになりましたが、胸のポケットから誓約書を出すと奥さんに
渡し。
「いいえ、お世話になっているのは妻の方です。人には言えないお世話までして頂き
まして。」
誓約書を読んでいる、奥さんの顔から笑顔が消えました。
「今月の振込みが無かったので来てみましたが、死んで行く者からは頂けませんので、
もうその紙切れは処分しておいて下さい。」
それだけ言い残して病院を後にし、家に着くと直ぐにこの事を告げましたが、復讐を
喜んでくれると思っていた妻は、寂しそうな顔をして無言で俯きました。
それから2週間程して、妻から加藤が死んだと聞かされ、妻が会社の同僚と御葬式に
行った日の夜、大事な話が有ると寝室に呼ばれ。
「あなた、あれから奥さんは、お医者様に呼ばれた時しか病院に行かなくなり、死に
目にも会えなかったそうです。」
「・・・そうか。」
「みんなは、奥さんの事を薄情な女だと言っていました。」
流石に私も後味が悪く、言葉が出ません。
「あなたは昔、喧嘩ばかりしていたけど絶対に弱い者には手を出しませんでした。そ
れどころか、弱い人を庇って喧嘩になった事も有りました。私はそんなあなたが大好
きでした。・・・あなたは相手がどんなに悪くても、死んで行く人にこんな事が出来る人
では絶対に無かった・・・・。」
「・・・いや・・これは。」
「違うんです。あなたを責めているんじゃ無いんです。・・そうしてしまったのは全て
私です。・・・身体の事もそうです。・・・・全て私が・・・・。」
妻の目からは大粒の涙が、ポロポロとこぼれています。
「・・・百合子。」
「離婚して下さい。私と夫婦でいると、あなたは立ち直れない。一生苦しみます。そ
んなあなたを見ていられません。・・・・お願いします。」
「・・・・俺の事を嫌いになったのか。」
「好きです。大好きだから・・・・・。」
この時、逆に私が妻を苦しめているのだと思いました。
「わかった。・・別れよう。その代わり、どちらかに好きな人が出来る迄一緒に暮らし
てくれ。」
「いいんですか。」
「いいも何も、俺は百合子と一緒に居たい。明日離婚届を貰って来るから、それを出
せば2人共自由だ。」
離婚届は書きましたが結局出す事が出来ず、妻には出したと嘘を付いて隠しておきま
した。
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