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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:美鈴さんに捧げる 投稿日:2005/07/29(Fri) 20:20

夕方にと言って於いたのに、田中夫婦は早めの時間にやって
来ました。
男の方は、ソファーに腰掛け様としたのですが、それを奥さんが
制して床に二人で正座しました。
「この度は主人がとんでもない事を致しまして、真に申し訳
御座いませんでした。」
奥さんは床に頭を付けて謝りましたが、男の方は軽く頭を下げた
だけです。その事に気付いた奥さんは、
「何をしているの。ちゃんと謝りなさい。私まで恥を掻くのよ。」
それを聞いて、男は慌てて頭を床に付けました。
「奥さん、どうか頭を上げて下さい。それから、そんな所に座ら
ずに此方にどうぞ。家のも同罪ですから。」
妻も少し離れた所に俯きながら正座しています。
「いいえ、とんでも有りません。ここで充分です。この度お伺い
させて頂いたのは、ご主人様にお願いが有って参りました。
家の主人がこんな事しておいて、大変申しずらいのですが、今宅
の方は、もうご存知とは思いますが別居しております。恥ずかし
い話、私は務めを持たないもので、この人から生活費を預かって
おります。その事なのですが、ご主人様がこの人の会社に行かれ
ると、このご時世ですから最悪職を失ってしまいます。自業自得
ですから、この人にはその方が薬に成って良いのかも知れませんが、そのう・・・、私の生活費が心配に成ってしまいます。子供
も丁度お金が掛かる時でも有りますし、そこの所は何卒ご容赦願
えないでしょうか。その代わりと言っては何ですが、私は奥様に
慰謝料の請求は致しません。」
何を勝手な事を言っているのかと思いましたが、決して綺麗な訳
では有りませんが、清楚な感じの奥さんが、必死で頼み込む姿に、
此処にも夫婦の割り切れない遣る瀬無さが有る様です。
「お気持ちは分かりますが、このまま二人を同じ職場に置く訳に
は行きません。家の妻もこの歳迄働いて来て、大した理由も無く
辞めさせて貰えるとも思えません。もし了承されても、引継ぎ等
である程度は会社に出なければ成らないと思います。その事を
黙って見ている訳には行きません。大変失礼なのですが、一つ聞
いても宜しいでしょうか?」
「はい、構いませんが・・・」
「奥さんは、これから如何するおつもりなのでしょうか?またやり直されるおつもりですか?」
「・・・今は分かりません。でも、もう駄目かとも思います・・」
「それならば、今迄蓄えてきた財産と、家の奴からの慰謝料で
何とか成らないのでしょうか?もし、勤めるおつもりが有るので
したら、私が紹介させて頂いても構いませんが。それで何とか成らないでしょうか?」
その時、妻と男が同時に私の顔を見ました。私が気持ちを変えな
いからなのか、何かを企んでいるとでも思ったのか、私の知る所
では有りません。
「そうして頂けると何とかやって行けると思います。ただ・・・、本当の事を言いますと、この人とは長く生活して参りましたから、やはり情が無い訳では有りません。今仕事を取り上げられてしま
うと、この歳ですから再就職と言ってもなかなか無いのではない
かと存じます。そう思うと何故か不憫で・・・。勝手な事をお願いしているのは重々承知しておりますが・・・・」
やはり愛情が有るのでしょう。長年夫婦でいた訳ですから、こんな男にでもその気持ち有るのは当然なのだと思います。
「私も奥さんのお話を聞いていて少し考えてみようと思いまが、
ご期待に答えられるかどうか気持ちを整理しないと分かりません。ただ、お宅のご主人に慰謝料は請求させて頂きます。
その為にも仕事は持っていて貰わないといけない訳ですし・・・。良く考えさせて頂きます。それから、謝ってばかり居られますが、奥さんも家の奴に言いたい事が沢山有るかと存じます。
どうか気兼ねしないで言ってやって下さい。」
妻は、頭を深く下げているだけで、何も言いません。
「いいえ、私から奥様に言う事は有りません。ただ、人間って
理性を持つ生き物なのに、どうしてこんな事をするのかと思い
ます。発覚した時の事を思うと、自制心が少し位は有っても良い
筈です。特に女性には。」
奥さんの妻に対する、精一杯の嫌味だと感じました。
妻と男は1度も目を合わせる事も無く、ただうな垂れているだけで、親に叱られている子供の様でした。
一時の快楽に溺れた罰なのですから当たり前なのですが、良い歳
をしてこんな姿は恥ずかしいものです。私はこんな惨めな姿は
晒したくないものだと自分自身を戒めました。
田中の奥さんは、“明日にでも連絡を欲しい”と言い電話番号を
メモして立ち上がりました。
田中達が帰った後、妻の会社に乗り込むかどうか、色々考えまし
たが、結論は出せませんでした。
妻は俯いたまま、私が動く度にビクビクしています。
「何をビクツイテいるんだ。見ていると苛つくから、何処かに行ってろ。そのまま帰って来なくても良いぞ。」
そう言っても妻は動きません。
「他所の奥さんの前で、あんな見っともない姿晒して恥ずかしい
とは思わないのか?お前はおかげで俺までいい恥さらしだ。」
言ってるうちに、ドンドン口調が激しく成って行きます。
「ごめんね、・・・ごめんね、もう裏切らないから許して。」
妻はまたすすり泣き始めました。
「何を泣いているんだ。うっとうしい。もう裏切ら無いって、1回裏切れば何度でも同じだ。頼むから出て行ってくれ。」
それでも妻は動かないので、私は娘の部屋に戻りました。。
今後の事を、話し合うつもりでいたのに、どうしても妻の顔を見ると腹が立って冷静でいられません。

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