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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:KYO 投稿日:2006/02/28(Tue) 21:29

私は無意識のうちに珈琲を2人分入れていたことに気づき、自分が
腹立たしくなります。私が2人分の珈琲を入れ、妻とお茶の時間を
楽しむのは休日の午後の週間になっています。日頃家事をほとんど
手伝わない私のアリバイのようなものですが、妻はいつも素直に喜
んでくれています。

ショックで思考が停止していたため、何も考えずにいつもの通り2
杯分を入れたのでしょう。予定よりも早く妻が帰って来たこともあ
って、私は完全に出鼻をくじかれた感じでした。

私は仕方なく、妻と2人分のカップに珈琲を注ぎます。妻は白い小
さな手提げ包みを出してくると、テーブルの上に置きます。

「ケーキを買って来たの。あなたの好きなチーズケーキ。2人分だ
から少し張り込んじゃった」

いつもは食欲旺盛な2人の息子の分を外す訳にはいきませんから4
人分になります。今日は息子たちの帰りが遅いので内緒で2人で食
べましょう、という意味を込めて妻は秘密めいた笑みを浮かべます。

私は妻がケーキを皿に載せる様子をぼんやりと見つめています。妻
の屈託のない笑顔、少し甘えるような笑顔、ビデオの中の恥ずかし
げな笑顔、幸せそうな笑顔、そして先程の秘密めいた笑顔、笑顔だ
けでも妻はさまざまな表情をもっているのだ、などということを考
えているのです。

「どうしたの、人の顔をじっと見て。何かついているのかしら」

妻は笑いながら「どうぞ」とケーキの載った皿を私の前に置きます。

「……今日は随分早かったんだね」
「小夜子の子供が風邪気味らしくて、だいぶ治って来たんだけれど
あまり遅くなると心配だからって早めに切り上げたの」

小夜子さんというのは妻の短大時代の友人です。たしか妻よりも結
婚は遅く、まだ下の子は小学校の低学年だったような記憶がありま
す。

といっても私は、妻の交友関係は詳しくありません。小夜子さんは
妻とはもっとも親しい友人といってよく、妻は現在の職場のパート
の枠が空いた時、小夜子さんを紹介し、たしか今は課は違うものの
同じ本部で働いています。

従って小夜子さんは妻の学生時代の友人であり現在のパート仲間、
そしていわば世話好きな妻は小夜子さんの子育ての先輩ともいえま
すから、妻の話題にはしょっちゅう登場します。

小夜子さんは私達が今のマンションに越してくる前と、越してから
それぞれ2度ほど、泊まりに来たこともあります。

私は妻が買って来たチーズケーキを口に運びます。こんなことをし
ている場合ではない、ビデオや写真のことを妻に問い詰めなければ、
と気持ちは焦ります。しかし、目の前でいつものように楽しげに、
今日会った友人たちの消息を語る妻を見ていると、これがビデオの
中で前後の口を張り型で責められ、よがり泣いていた女とはとても
同じ人間に見えず、言葉が出てこないのです。

まるで家族が留守中にAVを観ていたところ、いきなり妻が帰って
来たので慌てている、そんなばつの悪ささえ感じてしまうのです。

「どうしたの、さっきからぼんやりして」

妻が小首を傾げます。40歳を過ぎた妻ですが、そんな可愛らしい
仕草も不似合いではありません。まして最近の妻の外見の変貌ぶり
は著しく、30代前半といっても通るほどです。

明るい栗色の髪はすでに肩まで伸びています。化粧の仕方も変わっ
たようで、少し派手目のメイクが妻のはっきりした顔立ちを引き立
てています。

「いや……」

私は意味のない返事をします。すると妻は一瞬視線を棚の方へ向け
ました。それはまるでPCの位置を確認したかのようでした。

その時私の心に、妻は今日も男と会っていたのではないかという疑
念が生まれました。いや、どうして今までそのことに考えが至らな
かったのかわかりません。

PCの位置を確認した妻に私の直感はそれに間違いないと囁きます。
しかし、どうにも一歩踏み出す勇気が湧いて来ません。

ここで妻を問い詰めれば間違いなく修羅場になります。ビデオと写
真、証拠は押さえていますので、私が負けることはないでしょうが、
今爆発すると息子たちが帰って来るころになっても感情はおさまっ
ていないでしょう。すると息子たちも妻の汚い姿を知ることになり
ます。

(もっと……ちゃんと確認しよう……)

私は自分にそう必死で言い聞かせます。すべてのビデオを、すべて
の写真を、すべてのメールのやり取りを確認した訳ではありません。
ひょっとして妻が男に何かの弱みを握られ、脅されてあのような行
為を強いられていたのかもしれないのです。

自分をそうやって無理やりに抑えた私でしたが、心の底ではそうで
はないということはとうに分かっていました。ドライブに出掛ける
前の幸せそうな表情、クリスマスイブのとんでもない衣装に身を包
んで男の前で見せた媚態、そして激しくイキながら男と交わした熱
い接吻、それらはきっかけはどうあれ、妻自身が男との行為を心か
ら楽しんでいたことを示しています。

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