投稿者:KYO 投稿日:2006/03/02(Thu) 22:47
しかしこれがずっといなくなるとどうでしょうか。妻が男と暮らす
ために家を出たとすると、2人の息子はおそらく家族を裏切った妻
を許すことはないでしょう。妻と子供たちの絆は永遠に断たれてし
まうかも知れません。子供たちが負うであろう心の傷を思うといた
たまれない気持になります。
私も妻の裏切りを到底許すことはできませんが、子供たちのために
何か出来ることはないか、という気持も湧いて来ました。
私はようやくマウスに手を伸ばし、バックアップしてあったメール
ソフトを立ち上げます。最初は例の温泉旅行のビデオファイルをチ
ェックしようと思っていたのですが、気力が出ないのです。
それに昨日、妻が本当に男と会っていなかったのかということも気
になります。さらに今日、実家に帰ると言って出て行ったことも信
用できません。たとえ本当に実家に帰るのだとしても今日と明日は
休日ですから、途中どこかで男と落ち合うことは簡単にできます。
いや、先月のように一泊してくるかも知れません。
もしそうなら、男と連絡した痕跡がメールソフトに残っているでし
ょう。「健一(この時点では私は男の名前をどんな漢字で書くのか
認識していませんでした)」という男の素性を探る手掛かりもある
はずです。
妻と男は本気なのか遊びなのか、男は独身なのか、それとも妻子も
ちでいわゆるW不倫なのか、それによって対処の仕方も違うと思い
ました。
ソフトはライセンスがPCに紐づけられていないようで、すんなり
起動画面が立ち上がりました。
しかしその途端ダイヤログボックスが開き、IDとパスワードを要
求して来ました。
(……)
二重にロックがかかっているのです。随分念入りだと感じました。
妻はPCに関してはごくごく初歩的な知識しかもっていません。専
用のPCを買い与えた当初、オフィスやIE、メールソフトの使い
方はすべて私が教えました。
PCやメールソフト起動時のパスワード設定を、妻が自力で行った
のでしょうか。
画像やビデオのファイルについても変と言えば変です。ファイルは
もともと男がもっていたと思われますが、どうやって妻のPCに移
動させたのでしょうか。
デジカメのファイルだけでも一日分が200メガバイトはあります。
ビデオは大きなファイルが2ギガバイトです。ネット経由でやりと
りするのは困難です(今なら光ファイバなどの高速ブロードバンド
を使えば可能ですが、2004年の夏から冬にかけてはブロードバンド
の普及期で、高画質・長時間のビデオファイルのやり取りはまだ一
般的ではありませんでした)。
おそらくビデオも写真も、男のPCと妻のPCを直接接続させて移
したのでしょう。妻のPCの設定も男が行ったに違いありません。
私が買い与えたPCに刻印を残すように自分の名前をパスワードと
して設定する男、それを笑顔で見ている妻の姿が目に浮かびました。
私は起動時と同じく、IDに「kimiko」、パスワードに「0715」と
入力しました。当然解除されると思っていたロックはそのままです。
(あれ?)
私はふと思いつき、パスワードに男の名を入力して見ました。やは
り解除されません。妻の名、男の名、妻の誕生日、そして男の誕生
日を使ったあらゆる組み合わせを試して見ましたがやはり解除され
ません。
念のために私や子供たちの名前や誕生日を入力してみましたが、同
じことでした。
疲れた私は、メールソフトのロックを解除するのをとりあえず諦め
ました。やはり覚悟を決めてビデオをチェックする必要があります。
それも最も長く、最も過激と思われる温泉旅行のビデオを。その中
に男の素性を示す手掛かりがあるのかもしれないのです。
私はふと思い立ってリビングルームへ行くと、棚をチェックしまし
た。やはり妻のノートPCはなくなっています。義父の介護をする
ために実家に帰るのにどうしてPCが必要なのでしょう。男と連絡
を取るためとしか思えません。
携帯での連絡は便利ですし、着発信履歴を消してしまえば通話の痕
跡は残らないように思えますが、電話会社から送付される通信料が
明らかに増えますし、発信記録を取り寄せればある程度のことはわ
かってしまいます。
携帯メールもパケット通信料が増えることに加え、入力を容易にす
るために変換辞書に過剰なまでの学習機能がありますから(たとえ
ば「あ」と入力すれば「愛してる」、「け」と入力すれば「健一」
と変換されるなど)、男との浮気の連絡に使うのは危険です。
私は気持を落ち着けるためにインスタント珈琲をいれ、部屋に戻り
ます。一口飲んでから深呼吸をして「20041204a」というビデオファ
イルをクリックします。
メディアプレイヤーが起動し、画面に妻の姿が現れました。場所は
昨日見たデジカメの画像と同じ公園の脇のベンツの前です。この冬
私が買ってあげたグリーンのコートを着た妻はビデオカメラの方を
見て、困ったような微笑みを浮かべいます。
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