投稿者:KYO 投稿日:2006/03/11(Sat) 11:51
私は妻の実家の門の前に立ち、チャイムを鳴らします。扉を開けて
顔を出した妻は驚きに目を見開きます。
「あなた……」
「お義父さんのお見舞いに来た」
妻の後から顔を出した義母も私の顔を見て驚きます。
「家内がお世話になっています。お義父さんのお加減はいかがです
か」
「おかげさまでここ2日ほどは調子が良くて、、XXXXさんには不自
由をかけてすみません。私もだいぶ良くなったので、紀美子には早
く帰るように言っているのですが」
義母の言葉に妻はうつむきます。
「まあ、上がってください。あの人も喜びます」
私は家に上がると、病床に横たわる義父を見舞いました。義父はし
ばらく見ない間に一回り小さくなったような印象がありますが、思
ったよりも顔色は良いようです。私は義父と義母と少し話し、病人
が疲れないうちに妻の部屋に行きました。
しばらくすると妻がお茶をいれて上がって来ました。
「……有り難うございます。父も母も喜んでいました」
「いや……思ったよりも元気そうで良かった」
その先は会話が続かず、妻はじっとうつむいています。
私は妻にプロポーズした日のことを思い出していました。始めに申
し上げた通り、見合いして一カ月目のことです。その日にプロポー
ズするつもりだった私ですがなかなか言い出せず、川べりの同じ道
を何度も行きつ戻りつしたことを覚えています。その日の妻も私の
次の言葉を待つように、ずっとうつむいていました。
「メールを読んだ」
妻は弾かれたように顔を上げました。
「その後もう一度春日と話した」
妻の表情が緊張を見せます。
「春日にも聞いたことだが、紀美子にももう一度確認したい。どう
して春日と関係をもった? 俺との夫婦生活の悩みを解決するため
とメールにあったが、本当にそれだけか? 春日に対して本当に愛
情はなかったのか? 愛とはいえないまでも、情のようなものはな
かったのか」
妻はしばらく唇を噛んで黙っていましたが、やがて口を開きました。
「あなたとの夫婦生活に悩んでいたのは本当です。特に、あなたが
風俗に行くようになるとその悩みは大きくなりました。あなたは私
が気が付いていないと思っていたようですが、色々なことからすぐ
にわかりました」
「どんなことで?」
「お店に行く日のパターンが決まっています。第2、第4水曜日と
か……。それと帰ってきた時の汗の臭い。女の子の名刺がワイシャ
ツのポケットに入ったままのこともありました」
うまく隠していたつもりですが、妻にとっては普段と違う私の行為
を見破るのは容易だったのでしょう。
「私がセックスについて淡泊とあなたは思っていたようですが、人
並み、いえ多分それ以上の興味がありました。特に子供を生んでし
ばらくしてから……。あなたに対してそれを言い出せなかったのは
恥ずかしかったこともありますし、やはり、最初の体験の痛みへの
恐怖があったのだと思います」
「小夜子から春日さんとの体験について聞いたのは一昨年の暮れご
ろです。小夜子も私と同じように、それまで本当のエクスタシーを
知らなかったのですが、春日さんとの関係でそれを感じるようにな
り、夫婦生活もうまく行くようになったといいました」
「夫婦生活が改善するというのも魅力でしたが、私は小夜子が語る
本当のエクスタシーという言葉に引かれました。女として生まれて
40年にもなるのに、このまま本当のエクスタシーを感じないまま
年老いるということが、とても寂しく感じました」
「俺と一緒にそれを追求しようとは思わなかったのか?」
「そうすべきだったのかも知れません。でも私は、自分の身体のど
こをどうすれば感じるのかすら分からなかった。それに、私がそん
な欲求を持っているということをあなたに告げるのが恥ずかしかっ
た。軽率でした。申し訳ありません」
妻は深々と頭を下げます。
「どうしてビデオや写真をPCに入れていたんだ?」
「あなたに見られるとは思っていませんでした」
「あんな簡単なパスワードなのにか? 手帳にシールまで貼ってい
たぞ」
「あなたの脇の甘さを笑えませんね……」
妻は苦笑しました。
「パソコンの設定はパスワードを含めてみんな春日さんにやっても
らいました。ファイルのコピーもです。春日さんは自分だけがビデ
オや写真を持っていると私が不安だろうという理由で私のパソコン
にファイルをコピーしました」
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