CR 10/25(木) 22:18:33 No.20071025221833 削除
直ぐ電話に出ますと言ってから、佐伯は一日に一度は必ず電話をして来ます。決まって6時頃です。この時間なら夫は未だ帰宅していないと考えての事でしょう。内容は他愛のない事ばかりです。
話の内容は妻の身近な事が多いようです。夫の仕事が忙しくなり38歳の女性を一人雇うようになった事。その女性が来週火曜日から出社予定である事。夫の昼食はコンビニで買った弁当かUホテルのレストランで取り、それは隔日の周期である事等です。佐伯が妻の辺を探りたく、それとなく聞き出した結果でしょう。それがとんでもない事になるとは妻は知る筈がありません。
今日は金曜日、7時になっても電話はありません。不思議なもので電話がないと寂しさが湧いてきます。何かあったのかとも思います。8時を少しまわった頃です。
着信マナーがズボンのポケットで震えます。発信が途切れない様にと慌てて出ます。
「洋子です」
何故、洋子と答えたのか解りません。待っていた電話に思わずそう言ってしまったのです。徐々に佐伯に感化されているのです。
「嬉しいな。洋子と言ってくれたね。これからも洋子と呼ぶよ」
「はい」
「ところで僕の事を何と呼んでくれる。部長さんじゃいかにも味気ない。」
「何とお呼びすれば?」
「ご主人の事は何と呼んでる?」
「貴方です」
「そうか貴方か。僕も貴方と呼んで欲しい」
「貴方ですか?」
一度快感を与えてくれた相手とは言え、”貴方”では違和感があります。逡巡します。貴方では夫を裏切っている様な気になるのでしょうか。もう既に裏切っている事に気がつきません。
「貴方は無理か。ご主人と間違ってしまうものな。俊夫でいいか。”貴方”は呼べる時が来たらでいい」
呼べる時とは何を意味するのか、妻は考える間もなく答えます。
「はい。俊夫さん」
「ところで洋子、君宛に小包を送ったのだが」
「今日夕方受け取りました」
夕方着く様に佐伯が送ったのです。妻に開けるよう指示します。
「葡萄の瓶詰めですか?」
「高級葡萄を何時でも食べれるように瓶詰めにしてもらった。缶詰は缶の匂いが残りそうで嫌なんだ。旨ければ店で扱おうと思っている」
「それがどうして私に?」
「君は農学部の修士だ。君の意見を真っ先に聞きたい」
こんな時には君と呼びます。仕事と私事を使い分けします。
妻が正社員になれたのは、院を出ている事に負うところが大きいのです。妻の会社はこれから農産物を大きく扱おうとしています。人事部でも修士が評価されました。以前から妻を正社員にとの声はあったのです。それを妻は佐伯のお陰だと勘違いしています。
葡萄の瓶詰めを扱う計画があるのか、どうかは解りません。只、佐伯が送った瓶詰めは佐伯自身が瓶詰めしたものです、媚薬を溶け込ませて。
梱包を開けると大きめの葡萄が3粒入った瓶が出てきます。蓋には丁寧にビニールテープが貼ってあります。蜜が大目に入っています。
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