CR 10/29(月) 14:29:20 No.20071029142920 削除
佐伯の部屋の前に来て、妻の部屋が隣である事に気付きます。
佐伯の部屋には通常のベッドルームの他に3畳程度の事務スペース
が、独立した部屋として付属しています。廊下側からもベッドルー
ム側からも出入りできます。佐伯の後について廊下側から入りま
す。
「一通り見るのに30分もかからないだろう。見終わったら、休んで
くれていい。感想は明日の朝食の時間にでも聞かせてくれ」
テーブルを前にし、椅子を並べて二人でPCの画面に見入ります。先
ずはビデオの流れをさあーっと見せます。不自然にならない程度に
なるべく早く進めます。Uホテルを最初に見せるのは如何にも不自
然です。3番目に見せます。問題の場面に来ました。
「あっ、今のところ、もう一度見せて下さい」
佐伯はほくそ笑みます。妻は、私と松下さんがホテルの玄関を出入
りする場面に気がついたのです。
「どの部分かな?」
「ほんの少し前のホテルの玄関の部分です」
「何かあったのか?」
「いえ、少し気になる事があるものですから」
佐伯はビデオを後退させます。
「ここです。ここに夫に良く似た人が映っているんです」
妻は私が松下さんとホテルに入る場面と出てくる場面を佐伯に言い
ます。
佐伯は呟きます。
「女性と一緒のようだな。しかし少し確認しづらいな。」
あまり長くは見せたくありません。オリジナルビデオの時間の改竄
は出来ません。長く見させて、妻に本当の時間を知らせたくないの
です。佐伯は妻にわざと小さな画面で見せています。
「このPCのソフトではこれ以上画面を大きく出来ない。拡大プリン
トしてみよう」
本当はそんな事はありません。見たい部分を幾らでも拡大できま
す。撮影したビデオは業務用です。解像度は高く、拡大しても画面
は鮮明な筈です。PCの知識の無い妻は簡単に信じてしまいます。
これ以上画面を見せたくない佐伯は、PCを別の場所に移し、妻から
は見えないようにプリンターをセットします。以前用意した改竄プ
リントをあたかも今プリントしたように妻の目の前のテーブルに並
べます。2枚で充分です。11:32のものと14:23のもの。
『間違い無いわ。夫と松下さんだわ。11時32分に入って14時23分に
出てきている』
妻は長い間写真を見つめています。3時間の間何をしているのか、
食事にしては長すぎる、打ち合わせをわざわざホテルですることも
ない。妻の考えはある一点に凝縮されるのです。
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