CR 11/3(土) 22:46:44 No.20071103224644 削除
ごく普通の夫婦の風景がそこにはあります。
その風景に引っ張られて、一つの事を思い出します。台湾で買って
きた妻へのプレゼントがあるのです。バッグから小さな包みを出し
妻に渡します。
「有難う。これは何ですか?」
「まあ、綺麗」
ブローチです。大きな紫水晶の回りに普通の水晶を散りばめてあり
ます。まるで、妻の好きなフラッシュダークネクタリーのようで
す。妻も直ぐ気がつきます。
「クリスマスローズみたい」
「気に入ってくれたか」
「うん、嬉しい、本当に有難う」
妻は着ているブラウスに付けようとしています。
「本当は昨日、渡そうと思っていた。だが昨日はまだ台湾だ」
「どうして、昨日なんですか?」
「君は覚えていないか、昨日10月17日は僕たちが初めて会った日
だ。あれから25年か」
大学対抗水泳で私はある大学のOBとして、妻は対抗側の3年生とし
て参加しました。それが妻との出会いでした。
妻も思い出したのでしょう、ブラウスに付けようとした手が止まり
ます。その手を膝に置き、妻は顔を俯け、その目はブローチを見つ
め続けています。
「どうした」
「嬉しいんです。それなのに・・・」
後は言葉になりません。
『圭一さんはこんな事まで覚えていてくれた。それも私の好きなリ
スマスローズに託してくれて。それなのに、それなのに私
は・・・』
”それなのに”、私はわざと違う解釈をします。
「特別な記念日でもない。君も忙しかった。忘れる事もあるさ」
私はずるい男です。こんな時にわざわざ贈り物をする亭主はいない
でしょう。喜ばす為にあげたのではありません、妻の反応を見てい
るのです。贈り物で妻を苛めているのです。妻はそんな事を知る由
もありません。
漫然とテレビを見ています。妻はまた編物を始めています。10時に
なり妻はトイレに立ちます。こんな時でも佐伯との約束は守るので
す。ついさっき、”それなのに”と涙を流したばかりです。妻には
魔物が住んでいるのでしょうか。
相手が佐伯だと100%の確証が無くとも、ここで妻にもう止めろと
言えた筈です。携帯を取り上げて確認すれば済む事です。結果が出
るまでは手を出さない、そう決めています。相手は腐れ男でも一応
地元の名士です。100%の証拠が無ければ叩けません。成り行きに
任せる事にします。
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