CR 11/13(火) 15:00:53 No.20071113150053 削除
『妻の顔を見れば自然と言葉が出るだろう』
そう言う思いで玄関に入ります。もう4時です。家を出てから7時間
経ちます。テーブルを見ますと、白く小さい物が置いております。
その脇にメモがあります。
”貴方御免なさい。部長から渡された携帯です”
とだけ書かれています。携帯はハンマーのような硬いもので打ち壊
されています。佐伯との決別の印のように見えるのです。
妻が居ません。玄関を入る時、鍵が掛かっていたのかどうか覚えて
いません。一階のバス、トイレを見ますが居ません。出て行ったの
でしょうか。居てくれと言う思いで二階に上がります。寝室のドア
を開けます。ベッドに妻が寝ています。洋子と声を掛けても返事が
ありません。軽く頬を叩きます。妻は起きません。布団の上掛けを
剥がします。下着、私が投げつけた下着だけの姿で横たわっていま
す。何度が揺すり、頬を叩くと妻は目を覚まします。
「あっ、貴方、御免なさい」
白い唇、白い頬、空ろな目、妻の表情が尋常で無い事に気がつきま
す。あり合わせのの服を着せ病院へ連れて行きます。車の中でも妻
は眠ったままです。病院に着き、妻が大量に睡眠誘導剤を飲んでい
る事を知らされます。入院加療が必要との事、手続きを済ませ家に
帰ります。
何の話もしないまま、妻は入院してしまいました。まさか入院中の
妻と話をする訳には行きません。入院した妻が哀れと思うより、い
らいら感が募ります。明日は金曜日、2日も休み会社の仕事も溜ま
っています。妻と佐伯の事は休みにじっくり考える事にします。
金曜日、3日ぶりの出社です。松下さんがお握りと味噌汁を出して
くれます。
「社長、お帰りなさい」
「只今、只今と言うのも可笑しいな」
「お帰りなさいも可笑しいですね」
『お帰りなさいか?』
松下さんにそう言われると何かほっとします。ここが我が家のよう
な気がします。妻からその言葉を暫く聞いていない気がします。妻
は多分言っていたのでしょう、私の耳に入らなかっただけなのでし
ょう。
私の留守中の案件を整理しくれてあります。処理は午前中で片付き
ます。
「昼飯に行こうか」
松下さんをUホテルに連れて行きます。ここから始まったのです。
私と松下さんの昼食から。
「社長、顔色が悪いですね。女の勘で言ってもいいですか」
「あ、いいよ」
「奥さんと何かあったのですね」
私を優しく見つめます。女を感じさせる瞳です。松下さんには隠せ
ません、妻の浮気の事を話してしまいます。松下さんの気を引く魂
胆もあったのです。
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