CR 11/19(月) 12:14:12 No.20071119121412 削除
火曜日の夕刻、所長から電話があります。
「今日午前中に報告書を依頼人に渡した。控えを君にも渡そう」
5時になり所長の所に伺います。
「取引関係の方はここで見るだけにして欲しい。君に了解を貰わな
いで悪かったが、奥さんの事も報告書に入っている。これだけを外
す訳にはいかなった」
「解っています。問題ありません」
「佐伯を会社としてどうするか正式処分がでるまで、まだ時間が掛
かるだろう。特に取引関係は会社としての裏付け調査も必要な事だ
しな。それまでは佐伯を今まで通り出社させるようだ」
私にも2冊の控えをくれます。身辺調査には興味はありません。も
う一冊の取引関係の報告書を見ます。表紙に何々殿と依頼人の名前
が書かれています。やはりそうです、佐伯の会社です。社長である
叔父が依頼したのです。佐伯は長く関西地区の購買総責任者を勤め
ています。業者から長年に渡り金銭の供与があったのです、それも
大阪センターの建設が決まってからその金額は飛躍的に伸びています。
「多少の金額なら会社も目を瞑ったのだろう。この金額は目を瞑れ
る金額では無い。あの社長は温情派だ。刑事告訴はしまい。またそ
れは影響が大きすぎる。最大で佐伯の馘首。しかしそれも無いだろ
う。どこか佐伯の息の掛かっていない関連会社に職を見つける事に
なるだろう。勿論、専務の妹との結婚話はなくなるな」
「しかし、そんな調査が民間で良く出来たものだ」
「私は検察上がりだ。悪事を叩く時にはコネが使える。彼らも自分
達の組織だけでは拾いきれない情報もある。民間に協力者を欲しが
っている。私がその一人と言うわけだ。彼らが刑事事件になると思
えば彼らがやるだろうし、そうでなければ情報だけくれる。今回は
情報だけくれたと言う訳だ。その後、刑事告訴するかどうかは会社
の判断だ」
「そうですか、それにしても会社内での佐伯の処遇をどうして山岡
さんはそんなに詳しく?」
「あそこの社長は大学の後輩だ。今も酒飲み友達だ」
「そうだったのですか」
これでは私の出る幕はありません。私だけの材料では精々慰謝料が
関の山でしょう 悔しいですが、反面胸のつかえも降りるのです。
「今度は君の番だ。奥さんとはどうするんだね?」
「妻は今入院中です。今は何も話せません」
「何も話していないのかね?」
「入院する前に報告書を見せただけです。入院してからは何も」
「優しいんだな君は」
「いや、そうじゃない。自分の気持ちがまだ決まっていない」
「退院したら早く話し合った方がいい。遅くなればそれだけ怒りが
増幅してしまう」
家に帰った私は女性関係を含めた身上調査を読みます。複数の女性
と関係を持っていたようです。専務の妹と結婚話が出てからは清算
され関係はありません。佐伯が警戒しての事でしょう。妻との事も
書かれています。妻との関係だけが続いています。妻に余程執着が
あったのか、それとも妻は佐伯にとって便利のいい女だったのか。
水曜日、妻を迎えに病院に行きます。担当医と話します。
「ご主人、奥さんの心の中は後悔とご主人への懺悔の気持ちで一杯
です。それと・・・」
担当医は言いにくそうにしています。
「それと何ですか。言って下さい」
「相手の事がほんの少しですが、心の中に残っています。多分与え
られた快感のせいだと思います」
「余計な事は言わなくてもいい」
自分が聞いてその答えに怒っています。
「それともう一つ。奥さんは関連する言葉、態度一つで性衝動が起
きます。薬と行為の激しさの残影響だと思います。相当以前からこ
う言う状態だった筈です」
医者は事務的に言っているだけです。言葉を選んではいるのでしょ
うが、佐伯との行為の激しさが目に浮かび、私を叩きます。
「時間が解決してくれる筈です。それから当分の間は控えてください」
「何を?」
「つまり、あれです。性交です」
「そんなもの、するわけがない」
担当医にまで馬鹿にされているようです。怒りが湧いてきます。こ
の分なら妻に言いたい事も言えるかもしれません。
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)