CR 11/20(火) 11:48:57 No.20071120114857 削除
病室に行きますと妻は退院の支度を済ませ椅子に腰を掛け窓から外
を眺めています。顔色はこの前見た時より少し赤味がさし、表情も
戻ってきているようです。
「迎えに来た」
「貴方、御免なさい」
妻は ”ご免なさい”以外の言葉を忘れてしまったように只一つこ
の言葉だけを何度も繰り返します。
『まあいい。話は家に落ち着いてからだ』
家に着きます。妻の入院中の荷物の整理も大したものではありませ
ん。ものの20分もあれば片付きます。妻がお茶を入れようとします。
「俺は要らない。ペットボトルが冷蔵庫にある。お前が飲みたきゃ
自分の分だけ入れろ」
妻の前ではどんどん嫌味な人間になってしまいます。
「聞きたい事が山ほどある。一つ一つ聞くから全て正直に答えてくれ」
「・・・・・」
「どうした。返事がないな。聞いているのか」
「聞いています」
「よし。佐伯とはいつからだ?初めて抱かれたのはいつだ?奴との
きっかけは何だ?」
「・・・・・」
暫く返事を待っていても妻は黙ったままです。答えられないのは解
っています。解っていても責めるのです。
「答えられないのか。お前の大好きな佐伯が初めて抱いてくれた日
を忘れたのか。大阪に初めて出張した日だろうが」
「・・・・・」
「違うのか。言ってみろ」
妻は黙っています。
「お前はこの4カ月で出張は30回以上してるな。その出張殆どに佐
伯が絡んでいる事は解っている。出張の他にもあるよな。お前たち
は新婚夫婦もびっくりする位愛し合ってるんだな」
「・・・・・」
「俺の事はすっかり忘れたか?佐伯にそんなに夢中か?」
「お前たちはどんな事をしていたんだ。俺には出来ない事もしてい
たんだろう。俺にはさせない事もさせていたんだろう」
答えられようも無い事ばかり聞いています。返事が無い事に腹を立
てています。返事があれば、あったで又腹が立つのでしょう。妻を
甚振る為だけに聞いているのです。黙って泣いているばかりの妻に
手を上げてします。頭を思いきり叩きます。妻はよろけて倒れま
す。倒れてうつ伏せになって泣き崩れています。一つの甚振りの
言葉か次の甚振りを呼びます。一度叩けばそれは二度、三度になっ
てしまいます。人は自分の言葉、行動に尚更激してしまうのです。
どんどん激していくのが解ります。話し合いの事はもう忘れていま
す。妻を責める、甚振る事が只一つの目的になってしまいます。
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