管理人から

管理人

Author:管理人
管理人がおすすめするカテゴリに★印をつけました。



アダルトグッズのNLS








最新記事


カテゴリ

北原夏美 四十路 初裏無修正

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[46324] 家庭訪問・28 公務員 投稿日:2009/10/07 (水) 23:01

 私の背後から飛び出し、男に棒を持って向かっていったのは、堀田だったのか・・・。だが私は驚きは出来ませんでした。男との死闘の後で、魂が抜けた抜け殻のようになっていたのです。ただ堀田を見ている、そんな感じでした。だから私は、堀田の言うなりになってしまっていました。
 堀田は、左の肩の下辺りを手で押さえていました。血がにじんでいる。男に傘の先で突かれた箇所だ。堀田は、しっかりとした口調で、てきぱきと動いていました。周りに人の目がないか確認して、倒れている男の元に屈み、男の状態を見ながら、携帯電話で、救急車を呼んだのです。そして、私の腕をつかんで、
 「さあ、もう行きましょう。お願いです、私の言う通りにして下さい。ここを離れるんです。さあっ」
 私は、堀田に腕を引かれ、引きずられるように歩きました。堀田と私が雑居ビルから出て、人込みに入った時、救急車のサイレンが聞こえてきました。その時堀田が、先生・・・、と呟いたのを覚えています。
 
 いつの間にか、私は職場の役所へと連れられてきていたのです。堀田は、通用口の扉を鍵で開け、私を引っ張って中に入った。私は、堀田の課の部屋へと連れて行かれた。私をデスクに座らせた堀田は、私にコーヒーを入れ、自分も座ったのです。コーヒーを一口すすった時やっと、抜け殻だった気持ちがはっきりとしてきました。やっと、こう言う事が出来たのです。
 「堀田さん、どうしてあなたが、あの場にいたのです?

 

 
 「懐かしいですね。十年前も、ここでこうして、話し合っていた。あなたと私は」
 「え?」
 「私が横領した金を、どうするか、頭を使ってくれていたじゃないですか。夜ここで二人で話しながら」
 「・・・・・・」
 「申し訳ないことをしました。私はあなたの名前を言ってないと言ったが、はっきりした自信がないのです。ただもう夢中で、先生に相談していたから。だから・・・きっとあなたの名前を口走ったんだ。そうでないと、あなたが峰垣先生の名前を知ってる筈がない。あなたはあの時、私を呼び出した時、峰垣先生の事を、はっきりと言ったでしょう。私は馬鹿ですよ。すぐに気づかないんだから。後でハッと気づいたのです。・・・・・・あなたも、脅されていたんですね、峰垣先生に」
 「脅す・・・?あなたも・・・?」
 「そうです。金を強要されていたのでしょう、私と同じで。それでとうとう我慢できなくなって、今夜、先生の居場所を聞くような電話をしてきたのでしょう。私はその時先生といたのです。要求されていた金を渡すために会っていたのですよ。私は、先生に、これからあなたと会うことになったと言った。あの雑居ビルの8階の店で会うのだが、金がもうないので、いったん家に戻って出直してくると言って、先生と別れたのです。私は、あの雑居ビルの8階が廃墟なのを知っていた。あなたもそうだが、先生もびっくりしたでしょうね。私は先生とあなたが、あそこで鉢合わせて・・・あなたの電話の口調は、切羽詰っていた・・・だから期待していたのです、あなたが先生を・・・だけど、堪えられなくなって、戻ってしまった・・・先生は私の恩人なのに・・・」
 「堀田さん・・・あんた・・・」

 堀田は、苦しそうに頭をかきむしりながら、話しつづけた。まるで教会でざんげをするように、長々としゃべり続けたのです。

 「私が先生に、横領した過去がある事を相談した時、先生は、過去の過ちは忘れて、これからは世の中の為に精一杯働けと言われた。私はその言葉に励まされて懸命に働きましたよ。それからしばらくして、先生は私に、金の工面を願ってくるようになったのです。道場の運営費用が足りないとか言っていました。はじめは小額だったのです。それが次第に・・・私が難色を示すと、私の過去の事を、知られては困るだろうと・・・はっきり脅したのです。あの先生がっ!尊敬する恩人がっ!」

 堀田は立ち上がって、窓のほうへ歩いていき、外を眺めた。そしてまた、話しつづけるのです。窓に映る堀田の顔は、歪んでいました。

 「私はどうしようもないゴロツキでしてね。ある時、傷害事件の冤罪を被せられたのです。どうせお前がやったのだろうと、まわりの大人は、白い目で私を見ましたよ。しかし先生だけは私を信じてくれた。私の冤罪を晴らそうと、四方八方、足を棒にして飛び回ってくれました。私を先生の家にかくまってくれたりしてね、その時奥さんにも、本当に世話になった。私の無実がわかったとき、優しい奥さんは、泣いてくれましたよ・・・くっ・・・」

 堀田が、窓ガラスに額をコンッとぶつけた。歯を食いしばって、涙声に鳴り出した。話しつづける。

 「そんな先生がどうして私に金の脅迫を?私は金を払い続けながら気づいたのです。先生の家に、奥さんの姿が見えなくなっているのを。それで独自に調べました。興信所を使ったのです。奥さんは、男を作って、先生の元を離れていた。それで、やけになって、飲み代に使う金かと思いました。でも違うのです。奥さんは、やがて男とも分かれた。そして、転々と、住む所を変えているようなのです。先生は、そんな奥さんの生活を、興信所に調べさせて毎月報告させているのです。ずっと、いまでも。奥さんの毎日の生活、健康状況・・・とても教員の給料では、興信所の請求額に応じきれるものじゃない。それで、私や、あなたに・・・あなたもそうでしょうっ!私と同じで、多額の金を先生に要求されることに疲れたんでしょうっ!私にだって家族があるんだっ!先生の気持ちは判るがっ!いつまでも・・・。あなたもそうでしょうっ!ええっ!?それで先生をつけ狙ったのでしょうが!?」

 私の方を向いた堀田は、笑っていました。あの男、峰垣に苦しめられていたのが、自分だけじゃないという安堵で笑っていたのか?それとも、あの男、峰垣を最後に叩き落したのが、自分じゃなくお前だという責任転嫁なのか?たぶん両方だろう・・・。
 私があの男に奪われ続けたのは、金なんかじゃない。金で変えられるものじゃない。

 「私が先生に飛び掛っていったのは、あなたじゃ無理だと判断したからだ。見たでしょう、私が吹き飛ばされたのを。もし私が出なければ、あなたは先生に・・・。そうなれば、これからは、私一人でどうやって・・・」
 「どうして私を、最後に止めたんだ?私はナイフを持っていたんだぞ」
 「私は苦しいんだっ!先生は尊敬する恩人だっ!でも昔の先生じゃないっ!くそうっ!」

 堀田は笑っているんじゃなくて、苦痛で歪みすぎているんだ・・・。そう思いながら私は席を立ちました。堀田はうずくまって、頭を抱えながら鼻をすすっていた。




 我が家の灯りが見える、ゴミ捨て場まで来て、ポケットから取り出したナイフを捨てました。すると途端に、ボロボロと涙が出てきたのです。そうだ、このナイフを使わなくて良かった。もう、あの灯りの元に帰れなくなるところだったじゃないか。妻の声が止めてくれて良かった。
 私は、さっきの堀田のようにグジュグジュと鼻をすすりながら、我が家の門の前まで辿り着きました。門扉をキイ・・・と開いた時、玄関の明かりがポッと灯ったのです。妻だ。

 そうだ。妻は結婚してから、私を出迎えてくれなかったことは一度もない。そう思いながら、開く玄関をじっと見ていました。

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)


 | ホーム | 


  1. 無料アクセス解析