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北原夏美 四十路 初裏無修正

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桐 10/11(木) 21:25:56 No.20071011212556 削除
江美子は体を包んだバスタオルをしっかりと押さえながら、隆一の後を歩いている。脱衣所から露天風呂までこんなに距離があるとは思わなかった。足元の灯りもそれほど明るくなく、江美子は思わず敷石から足を踏み外しそうになって小さな悲鳴をあげる。

「気をつけろよ」
「はい」

江美子は隆一に手をとられて敷石にあがる。

「私、混浴って初めてです」
「最近は水着やタオル着用のところも多いから、若い女性でもそれほど抵抗なく入るようだ」
「誰かいるかしら」
「そりゃあいるかも知れないが、こちらがあまり気にしていると相手も居心地が悪くなる。自然にすることだ」
「隆一さん、混浴の温泉に入ったことがあるんですか?」
「何度か、な」
「まあ」

薄暗がりの中で江美子が目を丸くする。

「でも、期待したような若い女性はいなかった。どこも婆さんばっかりだったよ」
「それは残念でしたね」

江美子はくすくす笑う。

有川と麻里に偶然出会ったことで動揺を隠せなかった隆一だったが、ようやく冗談を言うような気持ちの余裕が出てきたことに江美子は安堵する。

(露天風呂では二人きりなら良いのに)

江美子はそんなことを考えて顔を赤くする。

二人はやがて露天風呂に着く。女性に配慮してか周囲はしっかり目隠しをされており、照明も暗く落とされている。そして江美子にとってもっとも安心したのは、先客が誰もいなかったことだった。

「誰もいませんね」
「そうだな」

当たり前のことを隆一に確認する自分がおかしくなる。江美子と隆一は身体を軽く流し、風呂に入る。湯は透明に近く、5、6入れば一杯になりそうな大きさのため、他の男性客がいたらやはり抵抗があるかもしれない、などと江美子は考える。

それでも二人きりなら十分身体も伸ばせる。お湯もぬるめで、ゆっくり漬かるにはちょうど良い。江美子は今回の旅ではじめてリラックスしたような気分になり、はあと大きなため息をつく。

「気持ち良さそうだな」
「すみません、つい」

江美子は顔を赤くする。

「二人きりなんだから、タオルをはずしたらどうだ」
「えっ……」

江美子は一瞬ためらうが、やがてこっくりと頷く。

外したバスタオルを湯船の外へ置く。素裸になった江美子は恥ずかしげに隆一から身体を隠そうとする。

「どうした、恥ずかしいのか」
「……」
「江美子の裸なんて見慣れているぞ」
「ひどい……見慣れているなんて」

江美子は拗ねたように顔を逸らせる。

「はっきりと見せてくれ」

江美子は頷くと胸と足の付け根辺りにおいていた手を外す。乳房から鳩尾、そして腰にかけて隆一の視線が注がれるのを江美子は感じる。

「見慣れているといったが訂正しないとな。露天風呂のお湯を通して見る江美子の身体は格別だ」
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桐 10/11(木) 21:25:16 No.20071011212516 削除
「どうしていざ自分の妻のことになると忘れてしまうのかな。相手も自分と同じ、仕事も家庭も両方とも大事にしたい人間だってことを。今回はせいぜいそれを忘れないようにするよ」
「隆一さん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「理穂ちゃんは、どうして麻里さんと一緒に暮らすのを拒んだのですか?」
「理穂に直接聞いたわけじゃないから、わからないが」

隆一は首をひねる。

「自分が母親がいないせいで寂しい思いをした人間でありながら、家庭を壊すようなことした母親のことを許せなかったのかもしれない。しかし麻里と別れたとき、まだ理穂は小学3年だったからな。どこまで突き詰めて考えたのか」
「隆一さんのことを可哀そうに思ったのでは」
「理穂がか? それはどうかな」

江美子の言葉に隆一は微笑する。

「可哀そうに思ったとしたら、自分を事実上育ててくれた俺の母親のことじゃないかな。俺は両方の親に対して離婚の原因を伏せておくつもりだったが、麻里が黙っていられなくて自分から話してしまったんだ。曲がったことの嫌いな俺の母は麻里がしたことを随分憤っていたからな。そんな祖母の様子を見ながら、自分が母親と暮らすとは言えなかったのかも知れない」
「そんな……」
「まあ、これは推測に過ぎない。本当のところは理穂に聞かないと分からない。いや、本人に聞いてもどれくらい分かっているか」
「どういうことですか?」
「自分の気持ちは自分でもわからないことが多い」

隆一はそこまで話すと徳利を持ち上げるが、空になっていることに気づく。

「この話はこれくらいでいいだろう。折角の2人きりの旅行だ。もう少し呑もう」


食事を終え、少し酒に酔った江美子は、隆一と一緒に外の空気を吸おうとロビーへ続く廊下を歩いていた。壁沿いに3つ扉が並んでおり、それぞれ木の札がかけられていた。

(ここが家族風呂なんだわ)

ふと見ると、扉の一つに「午後11時~12時、有川様」という札がかかっている。

(有川さんと麻里さんが入るのだわ)

江美子の脳裡に大浴場で見かけた麻里の姿が浮かぶ。豊満な麻里の裸身が湯船の中で有川に抱かれているのを想像し、江美子はふと息苦しさに似たものを感じる。

隆一もその木の札に気づいたようで、複雑な表情をしている。

(隆一さん、今何を考えているのかしら)
(やっぱり、いくら別れたとはいっても、元の奥様が他の男に抱かれると思うと心中穏やかじゃないのかしら)

江美子はそんなことを考えながら隆一のほうをチラチラと見るが、当然ながら隆一の表情からはその心の裡を窺うことは出来ない。江美子は先を歩く隆一について、旅館の庭へ出る。

「星が綺麗に見えるな」

空を見上げた隆一が呟く。

「本当ですね。東京じゃ考えられないほどですわ」

江美子も釣られて頷く。

「理穂ちゃんにも見せてあげたいですわね」
「江美子……」
「はい」
「後で一緒に露天風呂に入らないか」
「えっ」

隆一の突然の申し出に、江美子は戸惑いの表情を向ける。

「こんな綺麗な夜空なら、露天風呂に浸かりながら眺めたら気持ちがいいだろう。江美子は混浴は苦手かもしれないが、ここはタオル着用でかまわないし、今日は客もそれほど多くないようだ」
「でも」
「そうだな、11時ごろがいいかな。寝る前に一風呂浴びると気持ちがいいだろう」
「あ……」

江美子はそこで隆一の意図に気づく。

「恥ずかしいか?」
「少し……でも」

江美子は頬をほのかに染めながらも、はっきりと頷く。

「わかりました」
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