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北原夏美 四十路 初裏無修正

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投稿者:異邦人 投稿日:2004/10/26(Tue) 02:46

翌朝、目が覚めると妻がベッドの脇で寝込んでいました。
時計を見ると8時を過ぎていました。
慌てて起きて身支度をする私に気付いた妻が、また私に縋ります。

私「いい加減に離してくれ。」
妻「嫌、貴方帰ってこなくなる。」
私「会社にも行けないだろ。
  行かなきゃ、飯も食えないぞ。」
妻「その人の所に行くんでしょ。」
私「仮に、そうだったとしても、お前に俺を止める権利は無いだろ。
  お前が、栗本と乳繰り合っていた日、俺がどんな気持ちでいたか、
  お前に解るか。」

そう言い放つと、妻はやっと私を自由にしてくれました。
そうはいったものの、焦点の定まらない虚ろな目をした妻が気に掛かった私は、
出社後直ぐに得意先周りに出かけるということで、外出し妻の会社の前を車で
通りました。
カウンターの向こうに妻の姿が見えたとき一瞬ホッとしました。
気持ちは冷めているとしても、子供達の母親であることは間違い有りません。
やはり万が一の事をあってはいけないと思っていました。
安心した私は、由香里に連絡を付け、夕方早めに行くことを告げました。
仕事を切り上げ由香里のアパートに付いたのは、夕方6時頃だったでしょうか。
アパートに着くと何時ものように、由香里が出迎えくれました。

由香里「如何したの、難しい顔して。」
私「ちょっと話がある。」
由香里「何、怖いな。
    怖い話は、嫌だよ。」
私「向こうで話す。」

居間に向かう途中に台所を覗くと、食事の用意の最中のようでした。
私が居間に腰をかけると、由香里はそのまま台所に立ち、食事の用意を続けました。

由香里「○○話って何。」
私「由香に謝らないといけない事がある。」
由香里「だから、何。」
私「実は、女房に話したんだ。」
由香里「え、何を。」
私「俺が、他に付き合っている人が居るって。」
由香里「え、本当に。」
私「でも、相手が由香里だって事は言ってない。」
由香里「別に行っても良いけど。
    でも、お姉ちゃんにもばれちゃうね。」
私「ご免、迷惑は掛けないよ。」
由香里「迷惑だなんていって無いじゃん。
    ご飯食べるよね。」

あっけらかんと話す由香里に、返す言葉の無い私でした。
その頃の由香里は、私の事を名前で呼ぶようになっていました。
微笑みながら由香里が私に問いただします。

由香里「○○は如何したいの。」
私「・・・」
由香里「○○の方が困ってるんじゃないの。
    しっかりして下さい。
    私は○○と一緒に居れればそれで良いよ。」

結局結論を持っていないのは私だけのようです。
妻は、自分の犯した事は別として、私の妻としてこれからも前のように暮せれば
と思っているのでしょうし。
由香里といえば、たじろぐ事も無く私との関係は確実な物にしようと頑張っている
ように見えた。
私はいったい如何したいのだろう、愛情の面では由香里を第一に思っているのは
確実です。
しかし、子供を理由にするのはずるいとは思うのですが、あの子達と離れて暮す
勇気も無いのです。

私「由香里は、本当は如何したい。」
由香里「ん~。
    本当に言っても良い。」
私「良いよ。」
由香里「でも、私がこれを言ったら、
    ○○困っちゃうよ。」
私「言ってみろよ。」
由香里「本当に言って良い。
    後で、聞いてないって言わないでよ。」
私「・・あぁ。」
由香里「じゃ、言うね。
    私と一緒になって、奥さんと別れて。」
私「・・・」
由香里「ほらね、困っちゃった。
    ・・・・
    だから直ぐでなくていいから、
    そうしてくれたら嬉しいなって・・・・
    ご飯にしよっか。」

由香里は、私の気持ちが妻より由香里に向いている事は十分承知しているのです、
それと同時に子供の事が気掛かりである事も知っているのです。
だからこそ、あえて無理を言わなかったのでしょう。

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投稿者:異邦人 投稿日:2004/10/24(Sun) 13:50

相変わらず私の帰宅時間は深夜が多く、家に居るのは寝るときだけ。
そんな生活が続き、妻は完全にアルコール依存症に成ってしまったようです。
私が帰ると、妻の体から発せられる独特のアルコールの匂いとタバコの匂いとが相まってむせかえる様な空気が、寝室中に充満している事もしばしばでした。
そんなある日、由香里のアパートから自宅に戻り何時ものようにシャワーを浴びて寝室に入ると、
部屋の様子が違いました、ベッドの位置は変わっていませんが、備品の位置やカーテンまで変えてありました。
アルコールの匂いもタバコの匂いもしません。

妻「お帰りなさい。」
私「あぁ。」
妻「カーテン古いから取り替えました。」
私「あっそ。」
妻「気に入らなかったら、前に戻します。」
私「どうでも良いよ。」

私の反応の無さに、妻は落胆の色を隠せませんでした。
今の私にしてみれば、この部屋は寝るだけの場所に過ぎなくなっていました。

妻「貴方・・・」
私「何だ。」
妻「1つ聞きたいことがあります、
  怒らないで聞いてください。」
私「だから何だ。」
妻「貴方・・・付き合っている人が居るんじゃ・・・」

そう質問それたとき、不思議と冷静な私が居ました。
いや早く妻に気付いて貰いたかったのかもしれません。
かと言って、事後の対策が有った訳でもないのですが。

私「だとしたら。」
妻「・・・」
私「居たとしたら何だというんだ。」
妻「居るんですね。」
私「あぁ。」
妻「何時から出すか。」
私「何時からって、何故だ。
  それを聞いてどうする。」
妻「別にどうと言う訳では・・・」
私「もしかして、俺が前からお前を裏切って、
  浮気でもしていたと思ったのか。」
妻「そんなことは言ってませんよ。」
私「残念だか、私が彼女と付き合い始めたのは、
  お前の不貞に気付いてからだよ。」
妻「そうですか・・・」
私「帳消しにでもなると思ったか。」
妻「そんなこと、思ってません。
  ただ貴方が、このまま帰ってこないような・・・」
私「そう成るかも知れないな。」
妻「それだけは、勘弁してください。
  お願いします。
  この通りです。」

床に頭を付けて謝る妻に対して、冷たい眼差しで見つめる私が居ました、他人がそこに居れば非道な男に見えたかもしれません。
だも私は、それだけ妻に対しての私の信頼を踏み付けにされた気持ちを表さずには居られませんでした。
由香里との事を名前は出さないにしても妻に告げたのは、最近の由香里の態度がそれを望んでいるようにも思えたからです。

妻「その人の事どう思っているんですか。」
私「どうって・・・好きだよ。」

妻は這いつくばって私の足元に来ると、パジャマの裾を掴むと、首を横に振るばかりで何も声にならない様子でした。
その時の妻の心の中に去来する物は何だったのでしょう。
この状況になって、初めて自分の犯した事の重大さに気付いたかのように、
その夜妻が私のそばから離れることはありませんでした。


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