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北原夏美 四十路 初裏無修正

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川越男 1/23(金) 21:55:04 No.20090123215504 削除
「果歩と一緒にって…果歩と一緒なんですか?」


考えるより先にその言葉が口から出ました。
確かに妻を追い出し、皮肉を込めて英夫の元に行けと言ったのは私です。が、まさか本当に行くとは思ってもいませんでした。
すると、沢木が慌てて否定しました。


「いえ、一緒ではないです。今は…」


「今は?…沢木さん、ハッキリ言ってくれませんと解らない。どっち何ですか?」


「あ、はい、すみません…実は2時間前に果歩さんから電話がありました。その時に会って話がしたいと言われ、駅前の喫茶店で会いました。」


妻と話し合いを始めた時間が確か19時頃。話し合いを始めて家を追い出すまで、大体約1時間。現在時刻は23時過ぎ。
つまり、家から出て3時間あまりの間に沢木と連絡を取り、会ったと言う事です。


「会って果歩と何を話したんですか?」


「…敦也と…敦也と男女の関係にあった…と…。」


バリトンボイスの低く響く声が、心なし辛そうに聞こえました。


「それではあなたは今日の今日まで知らなかったと言う事ですか?」


「はい…恥ずかしながら毎日顔を会わせてる息子の変化に全く…」


「それはおかしい!じゃああなたは……」


言いかけて止めました。疑問や腑に落ちない事だらけの説明ですが、電話で話すのではなく、直接会って話した方が早いし突っ込んだ話も出来ると思ったからです。
それに、果歩と2人を並べて話せば何かしら見えてくる筈…2人の仕草や表情を観察出来れば今までぼやけて見えなかった物がきっと。


「それで…今果歩は何処に?」


「喫茶店で待っててもらっています。」


「そうですか…分かりました。話を戻しますがどれくらいでウチへ来れますか?喫茶店へ私が行っても良いんですが、話の内容が内容なだけに話しをするならやっぱり家(うち)が良いと思うんです。」


「ご主人の仰るとおりです。ご自宅へは30分ほどで伺えると思います」


「ではお待ちしています」


電話を切った後、得体の知れない疲れがドッと沸いてきました。
話し合いをする前かりこれでは先が思いやられます。
それにしても理解できないのが妻です。
いくら感情的になって出た言葉だとしても、真に受けて本当に頼って行くとは……
どうやら、彼女は私程この事を重く受け止めてはいないんでは? 本気でそう思えてきました。

川越男 2/5(木) 01:51:04 No.20090205015104 削除
去年のゴールデンウイーク、家族三人で行った時撮ったディズニーシーでの家族写真。親子仲良く寄り添い、これ以上ない幸せな笑顔をカメラは写し出していた。
あの幸せが嘘の様だ。…幸福と言う物はなんて壊れやすく不確かな物なんでしょうか?
写真立てを見つめながら、改めてこの酷い現実を思い知らされます。


(隆に…隆にはなんて説明すればいいのかな…)


小学校に上がったばかりの幼い息子には、我々夫婦の問題など全く関係のない話です。彼はこれから【母親】か【父親】を失い、悲しみに暮れ、深い傷を負うかも知れません。
それを考えただけで胸が痛みます。
あの子の為に我慢をし、表面だけでも仲の良い両親を演じてやるべきなのか真剣に考えます。


(俺さえ我慢すれば良いのだろうか?)


妻は、私が離婚を撤回し、この提案をすれば喜んで受け入れるでしょう。
その中に隠された私の想いなど考えもせず。
当然、はらわたが煮えくり返る程の怒りと嫌悪感で一杯です。が、それを選ぶ事であの子に幸せな平穏が約束されるならば…


(俺は喜んで犠牲になれる。いや、なってやる!)


私の中で一つの結論が出されようとしています。
私は、果歩の裏切り(敦也との事)を知った時、真っ先に離婚を決意しました。
しかしそれは、私個人だけを考えた自己中心的な考えだと言う事に気づきました。
私は、真っ先に考えてやらなくてはいけない【息子】の事を全く考えては居なかったからです。
私が考えていた事と言えば、私達夫婦の醜いいざこざを見せないように妹に預ける事と、隆の親権確保のみで肝心な隆の心まで考えが及びませんでした。皮肉にもそれを気付かせてくれたのは、幸せを疑わなかったあの家族写真だったのです。


(隆が成長してこの家から出て行く日までは耐えよう…これからは父親に専念すればいい。夫は……終わりだ)


隆の『巣立ちする日』は、私と妻の『巣立ち』にもなるでしょう。


いつの間にか持って見つめていた写真立てを元に戻そうとした時、突然、携帯に着信が入りました。
相手は思っていた通りの人です。


「…はい…はい…分かりました。今開けます」


電話を切り、ひとつため息を吐いた私は玄関のオートロックを解除し、2人を招き入れました。
川越男 2/19(木) 08:51:12 No.20090219085112 削除
「どうぞお座り下さい…」


ほんの数時間前まで繰り広げられた修羅場に、今度は憎き小僧の父親でありまた、疑惑の男でもある男が涙で目を腫らした家内と並んで目の前にいる。


「この度は本当に取り返しのつかない事を息子が…」


そう言って立ち上がり、頭を深々と下げる沢木。
それを見た妻も慌てて続き、並んで頭を下げました。


「…聞いていた通りだな」


「は?」


顔を上げた2人は怪訝な顔で私を見ます。


「いや、聞きしに勝る仲の良さだ。こうやってるとどっちが夫婦が分かったもんじゃないな」


それを聞いた妻は慌てて距離を取りました。そう言う問題ではないのですがあえて追求はしません。


「まあいい…沢木さん、電話でも言った通りあなたからの謝罪なんて要らない。はっきり言って意味がない」


「い、いえ、しかし…」


「取りあえずそこに並んで突っ立てられても気分が悪いんで座って下さい」


沢木は何か言いたそうな顔でしたが促されるまま腰をおろしました。妻は私に言われたのを気にしたのか、沢木の隣ではなく床に正座しました。


「さて…沢木さん。何故私があなたとの話し合いに応じたかわかりますか?」


「話し合い…ですか?」


私の質問に沢木は困惑しています。妻もまた一緒でした。
それは多分、謝りに来た彼らは私に一方的に罵倒されるものと思っていたからでしょう。しかし、明らかに私にはそんな雰囲気がない。それどころか、話し合いをしようと言ってきている…困惑は当然かもしれません。


「そうです。さっきも言いましたがあなたから謝罪を受けた所で何の解決にもなりません。あなたが少しでも私の気を鎮めようとしている謝罪が逆に私の気を逆撫でする事になるのをお忘れなく」


「はい…わかりました」


沢木の同意を得た私は改めて沢木の顔を見ました。

川越男 2/19(木) 09:57:02 No.20090219095702 削除
「失礼ですが、沢木さんお年は?」


「42です」


「そうですか…」


それを聞いた私は、テーブルの上に置いたままの興信所の報告書をとり沢木英夫の記述を読み確認します。


(なるほど。確かに42歳だ…となると、あれは果歩のついた嘘って事か…)


「あの…」


「何です?」


「私の年齢が何か?」


いきなり年を聞かれた事を訝しんでいるのでしょうか?それにしても一々うるさい男です。大きな溜め息を吐き出した私は沢木の問いに答えます


「以前…いや、今もそうですが、果歩の浮気相手はあなただと思っていました-」


「あ、あなた、沢木さんは-」


話し始めた矢先、妻が話に割って入ってきました。
私には、それが沢木を庇っている様に見え、一瞬で怒りのメーターが振り切れました。


「お前には聞いてない!黙ってろ!今度俺の話の腰を折ったら問答無用で叩き出す!いいな?」


「…はい…」


私のいきなりの変貌に、妻は怯え俯いてしまいました。それは沢木もそうで、妻から彼に視線を戻した時、明らかにさっきまでにはなかった緊張感が彼の顔には浮かんでいました。

「…話を戻します。どこまで話したか…そうそう、あなたが浮気相手だと思ってたんです。私の知らない所で子供にまで会っている」


「…………」


「あなたならどうです?疑いませんか?だから聞いたんです。最近頻繁に聞く【ヒデオ】は何者か?ってね」


「…………」


反論したいが私の話の腰を折るまいと躊躇しオロオロしている妻とは対照的に、沢木は顔色一つ変えません。


(何だ?反応がないな)


沢木の反応のなさに不満を感じつつ話を続けます。


「その時言ったんですよ、『英夫さんは高校の時の先輩です』ってね」


その時、話の最中全く反応がなかった沢木に初めて変化が見えました。
驚いた顔をして果歩の方に振り向きます。


「果歩ちゃん、先輩なんて嘘を何で…」


驚いた顔と言うより悲しい顔で果歩を見る沢木。明らかに狼狽しシドロモドロの果歩。その2人を困惑顔で私は見ていました。


(何で沢木はあんな顔するんだ?果歩の嘘がそんなに気になる事なのか?それに、果歩のあの慌て振り…)


何かあると睨んだ私は妻に、


「そうだ、何で先輩なんて嘘をついたんだ?さっきはハッキリ『学生時代の先生』って言ってたのに…俺には嘘をついた意味が分からない」


すると妻は、私と沢木を交互に見た後、逃げられないと分かったのか、俯きながら話し始めました。

川越男 3/7(土) 08:03:40 No.20090307080340 削除
「沢木さんを先輩なんて言った事に……意味はありません」


伏し目がちに妻は喋り出しました。


「意味はない?おいおい…果歩、お前、自分の言ってる意味解ってるのか?」


妻は私の言葉の意味を理解していないらしく顔に?マークが浮かんでいました。
沢木の方は妻の矛盾に気がついたらしく、複雑な顔をしています。


そこで私はあえて沢木に話を振りました。


「沢木さんは気付いたみたいですね…そうだ。家内に説明してあげてくれませんか?私が説明するよりも家内はあなたの説明の方を所望していると思うので」


「……………」


沢木は、一瞬私に困った表情を見せた後妻の方を向き、じっと顔を見つめていました。 そして、


「果歩ちゃん、その言い訳だと…ちょっと無…納得できないんだ」


「えっ?」


妻はまだ気付きません。
じれたように沢木が説明します。


「さっきご主人も言ってたけど、嘘をつく理由が君の説明では無いんだよ」


「嘘をつく理由って…どうゆう…」


「つまり-」


いい加減じれた私が話に割って入ります。


「お前は『彼』とは何でもないと言いながらつかないでいい嘘をついたと言ったんだ」


「…………」


「まだ解らないのか?意味のない嘘をお前がつく意味がないんだよ!」


「あっ!!」


「あの時、俺に『学生時代の先生』と説明しなかったのには何か理由があるってお前は自分で言ってるんだよ!」


「あ、あぁ…」


漸く自分の矛盾に気が付いた妻は、顔を両手で覆い嗚咽を漏らします。


「今更、何を隠そうが驚きはしないが理由は知りたい-」


「り、理由なんかないわ!本当の事よぉーー」


私がとどめの一撃を食らわせようと言いかけた時、突然発狂したかの様に叫んだ妻は、立ち上がると居間を飛び出してしまいました。


「……………」


唖然とする私と沢木の耳に、恐らく、隆の部屋でしょう、乱暴にドアを閉める音が聞こえてきました。


しばらくの間一言も発せず静まりかえった部屋で私と沢木は座っていました。時計は深夜1時を回っています。


「沢木さん、今日の所はお引き取り下さい。家内もあの調子だし時間も時間ですから」


「…解りました」


沢木は立ち上がると玄関へ歩き出しました。


「ご主人」


居間のドアに手をかけた沢木がふと何かを思い出したのか立ち止まり私に声をかけました。


「何か?」


「いえ、ちょっと気になった事があるんですが…」


「気になった事?」


「はい。さっきご主人が言っていた事なんですが…」


「はい」


「ご主人の話し方だと私が息子さん…隆君と頻繁に会っていた様な感じでしたが」


「違うんですか?」


「私は隆君と直接会った事はありません。」
「会った事がないって…ちょ、ちょっと沢木さん!一体どう言う事ですか!」

沢木が来てから努めて冷静に振る舞っていました。
それは少しでも果歩の夫としての…いえ、男としての余裕をこの男にだけは見せ付けておきたいと言うちっぽけなプライドがそうせていました。
しかしメッキは剥がれる物なのでしょう。無様にも取り乱し、沢木の言葉にそんな事を忘れてしまいました。

「つ、妻は、あなたと隆がキャッチボールしたり電話で話したりした事があると言ってたんですよ!」

「……………」

私の質問に、沢木はただ黙って聞き役に徹し一言も喋りません。

(何でそこで黙りこくってるんだ?こんな肝心な所で…クソっ!)

私の苛立ちはピークを迎え、落ち着きがなくなった足は小刻みに貧乏揺すりを始めます。
少し落ち着こうと上着の胸ポケットから煙草を取り出し火をつけゆっくり吸い始めました。

「どうやら…」

沢木に背を向け、苛つきながら煙草を吸い始めた私の背後から唐突に沢木の声が聞こえ、瞬間的に沢木に向き直りました。
そして、その話を聞いた私は凍りつきました。

「どうやら…奥さんには別の【ヒデオ】が居るみたいですね。」

沢木の来訪から一週間が経ちました。
その間、果歩とはまともに話す事ができませんでした・・・いえ、話せる状態ではなかったんです。
翌日、彼女が息子の部屋から出てくることは在りませんでした。
だからといって、私はそれを黙って許容出来る訳もなく固く施錠されたドアの前で思いの限りの言葉を投げかけました。
しかし・・・返事はなく、妻が出て来る事はありませんでした。
私も、初めの内は不貞の事実がある以上、立て篭もり、口を閉ざすのにも限界があると思いひつこくは追いかけませんでしたがそろそろ限界です。
今日こそは扉を壊してでも果歩に向き合い、夫婦として・・・いえ、人の親として、何らかの決断を出さなければいけません。
そう思い、彼女と向き合おうと決意して私でしたが二つだけ引っかかる物がありました。
それは、沢木の去り際の言葉と、沢木来訪の翌日に見た在る物のせいでした。
沢木が言った去り際の一言・・・それは、私の思考を3歳児程度まで戻すに十分の威力と衝撃がありました。

『ヒデオが別に居る?』

どうでしょう皆さん。貴方なら予測出来ますか?
すみません・・・この手の話に疎い私には全く考えも及ばない事でした。
私の知る妻は、明るく・思いやりがあり、隠し事を何より嫌う人でした。
どちらかと言うと、姉御肌+男勝りで、曲がった事や下手な言い訳を嫌う人でした。
それがどうでしょう・・・夫には嘘を吐き、未成年と不貞を続け、肝心な事は黙秘する。
仕舞いには、元凶と重いし人間に、

『僕とは他に”ヒデオ”が居る!』

そんな、突拍子もない事言われた日には、はっきり言ってノープランで自分のプライドしか考えていない私には、全てを飲み込むには処理出来ませんでした。

”果歩には別の・・・がいる!”

確証もないその沢木の言葉を、裏付ける物を見た時・・・私は・・・隆の笑顔を・・・二度と家族3人で見る事は出来ないと思いました。
川越男 9/29(火) 23:58:40 No.20090929235840 削除
息子の部屋の前に立ちノックをしますが案の定妻からの返答はありません。
昨日までならここで引き下がる所ですが、今日こそはこのままの状態から一秒でも早く抜け出すことを心に決めている私は引き下がる訳にはいかなのです。ノックの音にも自然と力が入っていきます。

「果歩・・・いい加減止めにしないか・・・こんな子供じみたまねしたって一緒だぞ?問題を先送りするだけでなんの解決にもならない・・・」


「・・・・・・」


「お前だって分かっているだろう?このまま引き篭もってだんまりを続けられないって事は」


「・・・・・・」


「今すぐに無理と言うなら時間を置く・・・1時間後、寝室へ来てくれ」


「・・・・・・」


本心ならドアを蹴破って引きずり出したい所ですが、それをやって妻が更に頑なになってしまうと考えた私は妻の良心に賭ける事にしたのです。
元々は嘘の嫌いな真面目な女です。そこに私は惚れたのです。
そこだけは信じていたいのです。


息子の部屋から微かにすすり泣く声が聞こえてきましたが、それ以上は語らず黙って息子の部屋の前を後にし寝室へ向かいました。


部屋に入り、着替えをすましベッドに腰掛けこれからの事を考え憂鬱な気分になっているとベットサイドに置いてある写真立てが目に留まりました。
隆の小学校入学式の時、三人で正門の前で撮った一枚・・・そこに写る三人はそれぞれが幸せな笑顔でいます。
真ん中で両親に挟まれている我が子の笑顔は世界一尊い物・・・


[俺達夫婦の都合で隆の笑顔を奪ってしまっていいのか?俺さえ・・俺さえ我慢すれば・・・クソッ!!]


心の葛藤を抑えきれず、思わず投げつけてしまった写真建てがベットの上で悲しげに私を見ています。


「・・・・・・」


私は決断を下そうとしています。
それがどれだけ大変で過酷なものになるのか分かっています。
しかし、写真の隆のあの笑顔を壊してはいけない・・・その為ならどんな事でも耐えよう・・・


そう思い、写真建てを直そうと手を伸ばした時でした。


[なんだ・・これ?]


投げつけたせいか、写真建てのカバーがずれ中から紙の様な物が飛び出しています。取り出して見てみるとそこには、『ごめんね ゆるしてね』と書かれています。


[なんだろう?]


そう思い、裏返して見た私は一瞬で凍りつきました。


[隆・・・ごめんね・・・パパ、無理みたいだ・・・]


それは、エコー写真でした。
たった一枚の・・こんな紙切れだけで私の決意は脆くも崩れてしまいました。
救いようのない・・鈍感で間抜けな私でも、その紙に書かれている事の背景は読み取れました。

(酷い・・・あまりにも・・・)
そして、今まで私の理性を繋ぎとめていた最後の糸が・・・切れました。

「うああああああああああああ!!!!!」

今の私には何も考える事などできず、泣き叫びながら・・ただひたすら純粋に・・辺り構わず破壊して行きました。
気持ちの行くまま子供のように。

そこからの記憶は・・・ありません。
次に気がついた時、私は薄暗い警察署の留置所に拘留されていました。
果歩かお隣さんが通報した事は容易に想像できますがそんな事などうでもいい気分でした。
今の私には取るに足りない事です。
この時の私には『現実』を最も否定しなければならいほどの精神状態で、何を考える事も億劫。いや、考えたくない。
私は、ただひたすら網目状に広がる格子をぼんやり見つめていました。
それから幾時間か経った後、私は釈放されました。
身元引受人には鈴木さんがなってくれたらしく、果歩の姿はありませんでした。
ボロボロの私を見た鈴木さんは、目頭を赤くして「ばかやろう・・」と、言って私を抱きしめてくれました。
彼は私にとって仕事の上での師匠であり父親とも言える人です。
何時でも厳しい人で、20年近く付き合っていますが泣いてる姿なんか見た事もありません。
その姿に、今まで誰にも言えず溜まっていた私の感情が噴出し、子供の様に泣きじゃくっていました。
そんな私を、鈴木さんはただ黙って抱きしめていてくれました。


家に向かう車の中で、鈴木さんが迎えに来た理由を話してくれました。

私が寝室で暴れだした時、果歩はとうとう私が狂ってしまったと思ったようで、隆の部屋で怒りが静まるのをただただ怯えて待つしかなかったのです。

しかし、収まるどころかますます激しくなってきてしまい、聞き取れなかったようですが、奇声を発しながら暴れている私が恐ろしくなり自分の身の危険を感じた果歩はパニックになり鈴木さんへ電話したそうです。

「最初は何を言ってるのかわからなかったよ。果歩ちゃん、相当取り乱しててなぁ・・・」

「・・・・・」

「やっとこさ聞き取れるようになってみるとお前さんが寝室で暴れてるって言うじゃないか。何の冗談かと思っていたら電話越しにでかい音がしたんだよ。その後に果歩ちゃんが”殺されるー”って叫んだんでこらぁ大事だと思って果歩ちゃんに”今どこにいるんだ?”って聞いたら泣きながら子供の部屋にいるって言ったから果歩ちゃんに”絶対ドアを開けるんじゃないよ”って言って家内と家を飛び出したんだよ」

「・・・・・」

「まあ急いで向かうったてなぁ、うちからお前さんの家までは早くても1時間位かかっちまう。その間にお前さんが果歩ちゃんに手を上げたりしたら事だと思ったんで悪いが俺が警察に電話をして向かってもらったんだ。」

「そうだったのか・・・鈴木さん悪かったね・・・・」

「いや・・・俺の方こそでしゃばったマネしてすまなかったな」

「いや・・・いいんだ・・・」

窓から見える景色を無表情で見つめながら気のない返事を返しました。
関係ない鈴木さんを巻き込んでしまった申し訳なさも感じる事が出来ません。
ただ全てがどうでもいい。息をするのもまばたきするのも億劫で、もはやこのまま死んでしまいたいとさえ考えている始末。
これが、小さいながらも従業員を抱えている会社のトップかと思うと情けなさで消えてしまいたい気分になります。

「だけど、まあなんだ・・・」

私がそんな事を考えていると、鈴木さんが何かを言いづらそうに話し始めました。

「本当なのか?」

「何が?」

「いや、その・・・」

「果歩から聞いたの?」

「いや、直接的な事は話さなかったが。」

「・・・・・・」

「果歩ちゃんはしきりに”私のせいで一樹さんがおかしくなった”って言ってるんだ」

「・・・・・・」

「だけどまあ、こんなオヤジでも状況を見ればある程度予想もできるわな。どちらに原因があり、その・・・原因が何か・・・はな。」

「そうか・・・」

「ああ、そうだとも・・・」

寂しそうにそれだけ言うと鈴木さんは再び運転に集中し始めました。
言いようのない雰囲気が狭い車内を支配していました。
家に帰って来ました。

果歩はいません。

寝室に行ってみると、大暴れしたにも係わらずきれいに整頓されていました。
それだけを見れば昨日の事がまるで夢や幻のように思えますが、ベッドサイドに置いてあった”あれ”がない事で、紛れもない現実であった事を嫌でも思い知らされます。

「なあ鈴木さん、果歩は?」

この部屋に入ってから初めて口を開き、後ろについて来ている鈴木さんに質問しました。
鈴木さんは、坊主頭に白髪が混じった頭をポリポリ掻きながら私を見て一言だけ言いました。

「家内がうちに連れて行ってる」

「そう・・・・悪いね」

「あのまま果歩ちゃん一人には出来ないってうちの家内がな。」

どうやら鈴木さんの奥さん、富江さんが気を回してくれたようです。

物静かで優しく料理の上手な富江さんを、新婚当初から妻は何かと頼っていました。
富江さんに頼りきりはいくら彼女が何も言わずいつもニコニコしているからと言っても迷惑だと思った妻は、ここ何年かは、いえ、私が会社を立ち上げてからは極力自分で解決できるように努力していました。
社長婦人がいつまでも他人におんぶに抱っこではいけないと思ったんでしょう。
それからは殆ど年末年始くらいしか交流がなかったと思います。
こんな事で迷惑をかけるなんて、妻はいい恥さらしと感じているでしょう。

「なあ松」

会社を立ち上げてから、私がどんなに止めてくれと言っても、

『従業員が社長を呼び捨てにする会社はすぐ潰れる。最低限の礼節もない会社が大成するはずがない』

と、いい続け、今まで一度も昔の呼び名を使わなかった鈴木さんが久々に”松”
と私を呼びました。

「大よその察しは付くが聞かせてくれ。一体何があったんだ?」

私は写真たてのあった場所を見つめながら何から話せばいいか考えていました。

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